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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 米、キューバをテロ支援国家に再指定
2021-01-13 Wed 03:33
 米国のポンペオ国務長官は、11日(現地時間)、キューバが米国からの亡命者やコロンビアの反乱勢力の指導者を受け入れることで「国際テロ行為に繰り返し支援を提供している」と批判。また、ベネズエラのマドゥロ政権を安全保障面で支援することで同氏の権力維持を可能にし、ベネズエラ国内で国際的なテロリストが勢力を拡大する土壌をつくっているとして、キューバをテロ支援国家に再指定したと発表しました。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

      キューバ・ALBA

 これは、2017年にキューバが発行した“シエンフエーゴス製油所改良10周年”の切手のうち、キューバとベネズエラの両国国旗を掲げた“ボリバル同盟(ALBA)”の看板が掲げられた製油所の風景を取り上げた1枚です。なお、切手の左上には、シエンフエーゴスの地名の由来となった革命の元勲、カミーロ・シエンフエーゴスの肖像が描かれています。

 シエンフエーゴス製油所は、2007年、キューバとベネズエラの協力の下、キューバがベネズエラの石油企業PDVSAとの合弁事業で経営。以後、10年間で1億5000万バレルの石油を精製したものの、ベネズエラの経済不振によりPDVSAの生産能力が大きく低下し、切手が発行された2017年には800万バレルの精製に留まっていました。こうしたことを踏まえ、同年8月、PDVSAは同製油所の49%分の株式をキューバに譲渡し、100%のキューバ資本となっています。

 さて、ボリバル同盟(ALBA)は、2004年末にキューバとベネズエラが米国主導の米州自由貿易地域に対抗して、“21世紀の社会主義”の原則の下、中南米・カリブ海諸国の相互支援と協力、連帯、社会開発の共同などを協定したのがルーツで、現在の加盟国は、加盟国は、アンティグア・バーブーダ、ボリビア、キューバ、ドミニカ国、エクアドル、ニカラグア、セントビンセント・グレナディーン、ベネズエラ(2008年から加盟していたホンジュラスは2010年1月に脱退)で、 シリア、ハイチ、イランがオブザーバー参加となっています。ベネズエラのマドゥロ政権は、ALBA諸国との関係重視を外交政策の基本に据えていますが、実際には、キューバが政治・イデオロギーの面でALBAの主導権を握っています。

 1999年にベネズエラでウゴ・チャベスの左翼政権が発足して以来、キューバは同政権を支援してきました。

 チャベスの政治的原点は、1989年2月、カラカスでの貧困層の暴動鎮圧のために陸軍が出動し、多数の死傷者が発生したことへの義憤で、1992年には、チャベスは同志を募ってクーデターを起こしたものの失敗に終わったという経緯があります。

 その後、チャベスは武装闘争路線を放棄し、米国追従の既成政党を激しく批判するとともに、富裕層や労働組合幹部による医療・福祉の独占を廃して平等な社会の実現を訴え、貧困層の圧倒的な支持を得て、1999年、大統領に当選しました。これを受けて、国際的な孤立を深めていたキューバは、“社会主義政権”への期待から、ベネズエラに接近していきました。

 その具体策として採用されていたのが“バリオ・アデントゥロ”です。この制度では、キューバから医師や看護師をベネズエラに派遣する代償として、ベネズエラは原油をキューバに供給するものとされていました。ただし、現在では、経済破綻のベネズエラでの活動を拒否して隣国のコロンビアに亡命するキューバ人の医師や看護師が急増していますが…。

 当初、キューバとベネズエラの関係はあくまでも経済的な結びつきが主でしたが、2002年、ベネズエラでCIAの関与するクーデター未遂事件が発生して以来、当時のチャベス政権は、軍事・諜報面でもキューバへの依存度を高めていきました。

 その結果、ベネズエラの軍部をコントロールし、クーデターを企むような動きがあれば探知するシステムがキューバの協力によって構築されるとともに、チャベスに従順な軍人に育てる指導のため、キューバから5万人のスタッフがベネズエラに送り込まれます。以後、その規模は年々拡大し、ベネズエラは国内の治安維持と反対派処罰に関してキューバへの依存度を高めていきます。特に、マドゥロ政権以降、ベネズエラ社会がますます不安定になったことから、ベネズエラのキューバ依存には一層の拍車がかかるようになりました。

 実際、その“成果”は確実に出ており、2015-18年の4年間にベネズエラ国内では60人以上の軍人が反マドゥロ蜂起を起こしたものの、キューバの指導を受けたベネズエラの諜報機関(SEBIN)はそれらをすべて鎮圧しました。このため、マドゥロ政権側も、体制を維持するためには、国内石油産業が機能不全に陥った後も、中露から原油を輸入してまでしてキューバに送り続け、キューバの“指導”を受け続けなければならないのが実情となっています。このため、ベネズエラ国民の間からは「マドゥロはスーパーマーケットを空にしてまでキューバに(原油を)送りたいようだ」との不満声が上がっているほどです。

 ちなみに、この件に関して、キューバ側は、2018年4月、ラウル・カストロの後任の国家評議会議長兼閣僚評議会議長に就任したミゲル・ディアス=カネルは、以下のように語っており、キューバとベネズエラの関係の深さが伺えます。

 (ベネズエラが)抱えている問題がどれだけ大きいか我々には重要ではない。ベネズエラはいつでもキューバに信頼を寄せることができる。我々の(ベネズエラへの)支援は無条件だ
 キューバの側も、ベネズエラから原油の供給を受けるため、ベネズエラを支援し続けて行かねばらないのである。

 一方、2020年の大統領選挙期間中、民主党のバイデン候補は、こうしたキューバとベネズエラの関係について(おそらく意図的に)無視したうえで、トランプ政権の対キューバ政策は「キューバの人々に打撃を与え、民主主義と人権の向上で全く役に立たない」として、当選後は対キューバ政策を早期に宥和路線へと転換することを公約していました。

 おそらく、バイデン次期大統領は、政権の発足後、キューバに対するテロ国家指定を早々に再解除するのでしょうが、いやしくも、人権重視の姿勢を示したいのなら、そのことが、中米の独裁国家による人権侵害を結果的にサポートすることになりかねないというリスクについては、十分に理解しておいてもらわないと困りますね。
 
 ちなみに、キューバと他のラテンアメリカ諸国との関係については、拙著『チェ・ゲバラとキューバ革命』でもいろいろな角度からご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。


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 出版社からのコメント
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