2020-09-07 Mon 01:04
台湾外交部(外務省)は、きのう(6日)、新型コロナウイルスの影響で太平洋の島国、ツヴァル(ツバル)に足止めされていた台湾人男性3人が、同じくツヴァルに足止めされていた日本人2人と共に海上保安当局の公船で無事帰国したことを発表しました。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1976年1月1日に発行されたツヴァル最初の切手で、英領ギルバート&エリス時代の切手の国名を抹消し、“TUVALU”の文字が加刷されています。 現在のツヴァル国家の領域は、4つのサンゴ礁に囲まれた島と5つの環礁から構成されており、島々は125-150間隔で、およそ700キロにわたる火山弧をなしており、そのうち、最大のものがフナフティ島です。西洋人としては、アルバロ・ド・メンダーニャ・ド・ネイラの船団が、ソロモン諸島へ向かう途中の1568年1月15日、ヌイ環礁の存在を確認し、ここを“イエス島”と命名したのが最初の接触となりました。 1892年5月27日、現在のツヴァルの領域は“エリス諸島”として、隣のギルバート諸島とともに英国の“ギルバート&エリス”保護領となりました。当初、この地の郵便は周辺を往来する船の幸便に託されていましたが、1911年1月1日から定期便が開設され、同日、当時のフィジー切手に“GILBERT & ELLICE / PROTECTORATE”と加刷した切手が発行されます。なお、1916年、ギルバード&エリスは英国の保護領から直轄植民地に変更され、その首府がギルバート諸島のタラワに置かれました。 1941年12月8日の日英開戦に伴い、日本軍はマキン環礁のブタリタリとタラワへの攻撃を開始し、12月10日には占領。これに対して、1942年8月17日、米軍がブタリタリを攻撃し、日本軍の守備隊に大きな打撃を与えましたが、翌18日、米軍はいったん撤退し、エリス諸島のフナフティ、ヌクフェタウ、ナヌメアに基地を設置しました。 1971年、ギルバート&エリスは自治領になりますが、ギルバート諸島ではミクロネシア人が多数派を占めていたのに対して、エリス諸島ではポリネシア人が主流と、民族構成が異なっていたため、1974年、住民投票で両者の分離が決定。1976年、エリス諸島は英自治領ツヴァルとしてギルバート&エリスから分離し、旧ギルバート&エリス切手の国名を抹消し、ツヴァルの地名を加刷した独自の切手が発行されます。なお、ツヴァルの独立が正式に認められたのは1978年10月1日のことで、1979年には台湾との正式な外交関係を樹立します。 ところで、台湾は、1950年代末から、外交部(外務省に相当)の海外技術合作委員会ならびに海外経済合作発展基金管理委員会を通じて途上国への支援を積極的を行っていました。具体的には、1959年、最初の途上国支援として、北ヴェトナムと対峙する反共国家の南ヴェトナムに農業ミッション(中外農技團)を派遣。これが一定の成果を上げたことを受けて、1961年、外交部内に“先鋒案執行小組”が設置され、“先鋒案(Operation Vanguard、前衛作戦の意)”の名の下、アフリカの新興独立諸国を中心に、農業支援の技術ミッションの派遣を開始するとともに、翌1962年にはこれを制度として恒久化するため、“中非技術合作委員會(非はアフリカの意)”が設置されています。 しかし、アフリカの新興独立諸国に対しては中国側の援助攻勢が激しく、中国の影響力が急速に拡大したことから、1963年、台湾はラテンアメリカ諸国を対象とした“拉丁美洲農業技術合作小組”を設置。1968年には同小組を“外交部海外技術合作委員會”に発展的に改組し、アフリカで切り崩された親台湾派諸国の分を、米国の強い影響下で、反共諸国の多かったラテンアメリカで穴埋めしようとしました。 その後、1971年10月25日、国連における“中国”の代表権が台湾から中共に移ると、台湾は巻き返しのため途上国援助の拡充を決断。翌1972年、既存の中非技術合作委員會と外交部海外技術合作委員會を合併し、農業の技術支援を中心に、途上国支援政策を総合的に扱う部署として“海外技術合作委員會(海外會)”を設置しました。なお、海外會は、1996年、“海外經濟合作發展基金管理委員會(海合會。1989年に経済部が設置)”と合併し、“財團法人 國際合作發展基金會”となって現在に至っています。 ツヴァルに対しても、こうした文脈に沿って、台湾は農業技術支援を行っており、徴兵の代わりに実施している外交代替役の対象者3人が昨年、ツヴァルに派遣されました。しかし、今年3月、新型コロナウイルス対策のため、ツヴァル政府が国境を閉鎖。このため、3人の台湾人が帰国困難となっていましたが、今回、台湾による公船派遣が認められ、帰国が実現しました。 その際、台湾側は、公船の座席に余裕があったことから、同じように帰国が難しくなっていた日本人2人の求めに応じて、彼らも受け入れてくれたそうです。なお、ツヴァル政府による国境閉鎖は2021年3月まで延長されることになったため、一行は現地を離れられた初の外国人となりました。 ★★ Web講座のご案内 ★★ 武蔵野大学の生涯学習講座で、「切手と仏像」と題して4回に分けてお話しします。配信期間は8月26日から10月6日まで。お申し込みなどの詳細はこちらをご覧ください。皆様、よろしくお願いします。 ★ 内藤陽介の最新刊 『みんな大好き陰謀論』 ★ 本体1500円+税 出版社からのコメント 【騙されやすい人のためのリテラシー入門】 あなたは大丈夫?賢い人ほどダマされる! 無自覚で拡散される負の連鎖を断ち切ろう まずは定番、ユダヤの陰謀論を叱る! ! 本書のご予約・ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、本書の目次をご覧いただけるほか、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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