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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 マルティニークのジョゼフィーヌ像破壊
2020-07-28 Tue 02:21
 カリブ海のフランス海外県、マルティニーク島で、“反人種差別”を標榜する活動家らが皇帝ナポレオンの皇后、ジョゼフィーヌの像を破壊しました。というわけで、きょうはこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      マルティニーク・ジョゼフィーヌ像絵葉書

 これは、今回破壊されたマルティニークのジョゼフィーヌ像を取り上げた絵葉書で、1906年、マルティニークの県都、フォール=ド=フランスからパリ宛に郵送されたものです。ちなみに、絵葉書の裏面はこんな感じになっています。

      マルティニーク・ジョゼフィーヌ(裏面)

 マルティニークは、西インド諸島のウィンドワード諸島に属する火山島で、ドミニカ国の南、セントルシアの北に位置しています。

 1635年、マルティニーク島を領有したフランスは、アフリカから黒人奴隷を導入して砂糖のプランテーションを行い、莫大な利益を上げます。後にナポレオン・ボナパルトと結婚するジョゼフィーヌ・ド・ボアルネは、1763年、マルティニークの貧乏貴族の家に生まれました。

 1789年にフランス革命が勃発すると、1791年には黒人奴隷の叛乱が発生しますが、叛乱を鎮圧した王党派の白人は革命政府の支配を嫌って英領となることを選択し、1794年から1802年まで、マルティニークは英国の占領下に置かれます。ナポレオンとジョゼフィーヌの結婚はこの間の1796年のことでした。

 ところで、フランス本国では革命後の1794年に奴隷制が廃止されましたが、英国の支配下にあったマルティニークでは従来通り奴隷制は事実上維持されていました。1802年、マルティニークはフランスに返還されましたが、折から、ハイチでは独立戦争が展開されていたこともあって、プランテーションの経営を維持するため、マルティニークでの奴隷制はごく短期間の中断を除いて継続され、その他の西インド諸島のフランス植民地でも奴隷制が復活します。

 ところが、1802年、第一統領の地位にあったナポレオンの妻、ジョゼフィーヌがマルティニークの出身であったことから、彼女が実家や知人に有利になるよう夫を説得して、植民地での奴隷制を復活させたとの噂が広まり、それがそのまま俗説として定着してしまいました。

 さて、ジョゼフィーヌは1814年に亡くなり、1848年にはマルティニークでも奴隷制が廃止されます。その後、1859年8月29日、今回ご紹介の絵葉書の像がフォール=ド=フランスに設置され、盛大な除幕式が行われました。

 ところが、1968年のパリ5月革命後、“人種差別”に対する批判がフランス国内でも広まると、ジョゼフィーヌが奴隷制を復活させたとの俗説に基づき、マルティニークのジョゼフィーヌ像も撤去すべきと主張する人々が現れます。そして、1991年9月、何者かによってジョゼフィーヌ像の首が切り落される事件が発生します。

 事件後の1992年、フランス政府は像の撤去派と保存派の双方の顔を立てるべく、首のない状態のジョゼフィーヌ像を国の歴史文化財に指定。そのうえで、2007年8月、修復のために像を一時撤去し、2010年7月、現在の場所へ像を再設置した際にも、首のない状態のままとされていました。

 さて、5月25日、米ミネソタ州ミネアポリスで詐欺容疑で拘束された黒人男性が、拘束時に警官に膝で首を押さえつけられたことが原因で死亡した事件を巡り、米国内のみならず、世界各地に抗議行動が拡大し、一部では暴動にエスカレート。各地で、奴隷を所有していたことのある歴史上の人物を“差別主義者”などとして、その銅像等を損壊・汚損する事件(未遂を含む)が相次いでいます。

 今回のジョゼフィーヌ像に関しても、活動家らは、ジョゼフィーヌがナポレオンを唆して奴隷制を復活させたとの俗説を根拠として、26日(現地時間)までに撤去しなければ像を破壊すると犯行予告を出し、それを実行したというわけです。

 ちなみに、マルティニーク出身の作家・思想家、エメ・セゼールは、黒人が“ニグロ(フランス語では Négre,、ネグル)”として受けてきた差別や抑圧、“歴史の最悪の暴力を経験し、周辺化と抑圧に苦しんできた人間集団”としての自覚を抱き、植民地主義を拒絶して“ニグロの言葉”で語ることを訴え、アフリカ、北米、カリブ海地域の黒人知識人に大きな影響を与えた人物ですが、ナポレオンによる奴隷制を復活に関してジョゼフィーヌに責任があるとする俗説を明確に否定しています。

 まぁ、“反差別”を掲げて破壊衝動を満たしたいだけの連中は、エメ・セゼールさえをも“歴史修正主義者”ないしは“差別主義者”と罵り、歴史的事実をから目を背け続けるのでしょうけれど。

 
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