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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 コルベ神父の連帯ラベル
2016-01-08 Fri 13:31
 きょう(8日)は、アウシュヴィッツ収容所で殉教したカトリックの聖人、聖マキシミリアノ・コルベ神父の誕生日(1894年)です。というわけで、コルベ神父関連のマテリアルの中から、この1枚を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      コルベ・連帯ラベル

 これは、ポーランドで非合法時代の“連帯”が作成したコルベ神父のプロパガンダ・ラベルです。

 1978年にローマ教皇となったヨハネ・パウロ2世は、翌1979年、祖国ポーランドを訪問しました。1979年は、ポーランドおよびクラクフの守護聖人、聖スタニスワフが1079年にポーランド王ボレスワフ2世によって殺害され、殉教してから900周年という節目の年にあたっており、教皇のポーランド訪問の背景には、スタニスワフを“道徳秩序の守護聖人”として、圧制者と戦った彼を称えることで、暗に、統一労働者党政権とその背後にいるソ連を批判する意図がありました。

 はたして、ヨハネ・パウロ2世の企図した通り、教皇の訪問を契機として、ポーランド国内のナショナリズムと反ソ感情は高揚。1980年7月、政府が発表した食糧品等の大幅値上げに反対し、グダニスク等のバルト海沿岸地方で労働者のストが発生し、これが全国に波及する勢いとなったため、政府とグダニスクの連合スト委員会の交渉が行われ、政府は、9月17日、ポーランドでは共産圏として初めて、共産党(ポーランドでは統一労働者党)の統制を受けない独立自主管理労働組合“連帯”の発足を認めざるを得なくまりました。

 当初、統一労働者党の目論見としては、党が政治、“連帯”が社会活動にそれぞれ専念するという分業を想定していましたが、“連帯”の組織は全国的に拡大し、レフ・ワレサ率いる指導部は政府との対立のなかでしだいに急進化します。

 これに対して、ソ連はポーランドに軍事介入する姿勢を見せるようになったため、1981年12月、ポーランド政府は戒厳令を発令。“連帯”幹部の大半が拘禁され、翌1982年10月には、“連帯”は非合法化されました。

 これに対して、逮捕を免れた“連帯”幹部は、1982年4月、地下組織として暫定委員会を結成し、1989年の民主化実現まで、抵抗を訴え続けます。

 ポーランド情勢の変化を受けて、1982年10月10日、教皇ヨハネ・パウロ2世は、急遽、アウシュヴィッツで殉教したコルベをカトリックの信徒として最高の栄誉である聖人に列しました。コルベの列聖に際しては、直接的に批判されているのは、彼を餓死刑で殺害したナチス・ドイツですが、暗に、“連帯”を非合法化したポーランド政府もナチス同様の存在であるとの批判が込められていたのは明らかでした。

 こうした背景の下で、非合法化された“連帯”が作成したのが、今回ご紹介のラベルです。

 “連帯”は、地下活動の一環としてさまざまな切手状のラベルを作成し、ソ連を批難したり、ポーランドの共産政権をナチスになぞらえたりするなどのプロパガンダを展開していましたが、今回ご紹介の1枚は「神と国家に忠実であれ(WIERNY BOGU I OJCZYNIE wierny bogu i ojczyznie)」との文言とともにコルベの肖像を取り上げており、コルベに仮託して、神と国家に忠実ではない共産党政権を批判する意図が示されています。

 なお、第二次大戦後の政治状況の中で、コルベやアウシュヴィッツがどのように語られてきたかという点については、拙著『アウシュヴィッツの手紙』でもご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。


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 第7回テーマティク出品者の会切手展 1月17-20日(日ー水。ただし、18日は休館)
 於・切手の博物館(東京・目白)

 テーマティク出品者の会は、テーマティクならびにオープン・クラスでの競争展への出品を目指す収集家の集まりで、毎年、全国規模の切手展が開催される際には作品の合評会を行うほか、年に1度、切手展出品のリハーサルないしは活動成果の報告を兼ねて会としての切手展を開催しています。僕も、昨年の香港展に出品した香港の歴史のコレクションを展示します。入場は無料ですので、ぜひ、遊びに来てください。(詳細はこちらをご覧ください)

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 物騒なクリスマスケーキ
2009-12-24 Thu 09:28
 今夜はクリスマス・イブです。同時に、1979年12月24日にソ連がアフガニスタンへの軍事進攻を開始してから30周年になります。というわけで、両者に絡めて、こんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

     連帯プロパガンダ(アフガン)

 これは、1986年、アフガニスタンでの反ソ闘争7周年を記念して造られたプロパガンダ・ラベルで、ダイナマイトでできたケーキ(時期的にクリスマス・ケーキでしょうな)を受け取るソ連兵が描かれています。正規の切手ではありませんが、ポーランド語で“郵便”を意味する“poczta”の文字や額面が入っており、切手を意識してつくられたものといってよいでしょう。なお、当時のポーランドでは、非合法化された“連帯”系の組織が反ソ・反共プロパガンダ・ラベルをいくつか作っていますが、これもその1枚です。

 1978年4月、アフガニスタンでは、ソ連の支援を受けたアフガニスタン人民民主党(共産党)による反政府クーデタ(4月革命)が発生。同年12月、人民民主党の党首で革命評議会議長兼首相のヌール・ムハンマド・タラキーがモスクワを訪問してソ連=アフガニスタン友好善隣協力条約を締結し、アフガニスタンは完全にソ連の勢力圏内に組み込まれることになりました。

 ところで、4月革命の結果、1747年以来のパシュトゥン人支配体制は終結し、パシュトゥン人、タジク人、ウズベク人、ハザラ人のアフガニスタン主要4民族の参加する政治体制が樹立されることになりますが、人民民主党の指導部は、長年にわたってアフガニスタンの支配層を構成してきたパシュトゥン人のドッラーニー族ではなく、ギルザイ族の出身者で構成されていました。それゆえ、従来は民族的に傍流であった勢力がヘゲモニーを握り、旧支配層の粛清に躍起になっているという構図は、複雑で保守的な部族社会から構成される地方において、新政権への嫌悪感を抜きがたいものとすることになります。もちろん、イスラムの信仰に基づく伝統的なアフガニスタン社会では、共産主義(=無神論)が悪魔の思想として嫌悪されていることはいうまでもありません。

 そうした新政権が、“土地改革”と称して、部族の族長を地主ないしは反動派と決め付けて彼らの土地を強制的に接収し、勝手に他の人々に分配していったことで農村での不満が爆発。1978年10月以降、各地でムスリムの抵抗運動が頻発し、翌1979年3月、ヘラートでイスラム原理主義者による大規模な武装デモが展開され、5000人もの死者が発生したことで、アフガニスタン全土は実質的な内戦に突入していきます。

 このため、1979年12月24日、ソ連は、ソ連=アフガニスタン友好善隣協力条約の内乱条項(アフガニスタンで内乱やクーデターが発生し、政府が危機的な状況になった場合には、政府の要請がなくてもソ連軍がアフガニスタンの秩序回復のため、アフガニスタンに軍事介入できるという条項)に基づき、首都カブールとその周辺地域の飛行場をすべて制圧。29日までにアフガニスタン全土を占領し、バーブラーク・カールマルを大統領とする親ソ政権を樹立しました。

 以後、アフガニスタンでは、ソ連軍と親ソ政権に対抗するムジャーヒディーン(イスラム戦士)の反ソ闘争が展開され、1989年、ソ連軍を撤退させます。この結果、左翼政権は崩壊しますが、今度は、それまで反左翼連合を形成していたムジャーヒディーン諸派の内紛が勃発。いったんはタリバンがアフガニスタンの大半を征圧したものの、911同時多発テロ事件に絡んでアメリカがタリバン政権の攻撃に踏み切り、同政権は崩壊します。しかし、アメリカの支援を受けて作られたカルザイ政権は首都とその周辺しか掌握できず、また、タリバン勢力も次第に復活し、アフガニスタンは再び軍閥割拠の混迷状態に陥っていることは広く知れられている通りです。


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