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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 カティンの森事件と亡命政府
2010-04-11 Sun 18:59
 きのう(10日)、ロシア西部のスモレンスクでポーランド政府専用機が墜落し、“カティンの森事件”の慰霊祭に向かう予定だったカチンスキ大統領夫妻のほか、軍参謀総長や中央銀行総裁、主要政党幹部ら同国の国家要人多数が亡くなりました。謹んでご冥福をお祈りいたします。というわけで、きょうはこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      ポーランド亡命政府書留便
      ポーランド亡命政府書留便・中身

 これは、1943年11月1日、ロンドンのポーランド亡命政府の切手を貼って差し出されたアイルランド宛の書留便ですが、イギリスの検閲当局により、海外宛に郵送することを禁じられていた物品が同封されているがゆえに差出人戻しにされています。カバーに貼られている付箋には、別紙の理由により差出人戻しになったことが説明されていますが、その別紙として封筒に入れられていたのが右側の紙片です。

 第二次大戦中、独ソ両国によって分割されたポーランドの旧政府は、当初はパリに、後にロンドンに亡命政権を樹立するとともに、自らの正統性を示すために切手を発行し、“ポーランド(もちろん、亡命政府のことですが)”船籍の船で運ぶ郵便物などで実際に使用されました。このカバーもその一例です。

 さて、ソ連占領下のポーランド東部では多くのポーランド人が捕虜として強制収容所へ送られました。1941年の独ソ戦の勃発後、ポーランド亡命政府はソ連と条約を結び、ポーランド人捕虜を釈放して部隊を編成し、ドイツと戦うことになりました。

 ソ連の占領下では、将校1万人を含む25万人の軍人と民間人が消息不明となっていましたが、実際に対独戦のポーランド人部隊に集められたのは、将校1800人、下士官と兵士27000人に過ぎませんでした。このため、亡命政府側はソ連に対して捕虜の即時釈放を要求しましたが、ソ連側は、事務手続きや輸送の問題で遅れているだけで、すでに捕虜は釈放したと回答しています。しかし、実際には、4400人のポーランド人捕虜がスモレンスク近郊のグニェズドヴォの森で銃殺されていました。

 独ソ戦の勃発後、スモレンスクを占領下に置いたドイツ軍は、1943年2月27日、カティン近くの森・山羊ヶ丘でポーランド人将校の遺体が埋められているのを発見。“国際的に通用しやすい名前”であるカティンの名にちなみ、カティン虐殺事件として報告書を作成し、ワルシャワ、ルブリン、クラカウの有力者とポーランド赤十字社に調査を勧告しました。これが、4月13日に世界各国で報じられ、“カティンの森事件”は全世界に知られるようになりました。

 これに対して、ソ連側は、ポーランド人の遺体はドイツ軍によって殺害されたものと主張しました。しかし、ソ連側は、それまで、捕虜がスモレンスクにいたことを亡命政府に説明しておらず、亡命政府の調査によれば、ポーランド人捕虜の殺害時期は独ソ戦以前1940年3-4月であることが判明。このため、ポーランドとドイツの赤十字社はジュネーブの赤十字国際委員会に中立的な調査団による調査を依頼します。すると、ソ連は亡命政府を猛烈に批判し、亡命政府に対して、“カティンの森事件”はドイツの謀略であったと声明することを要求。亡命政府がこれを拒否すると、ソ連は亡命政府と断交しました。

 その後、1944年8月のワルシャワ蜂起で亡命政府系のポーランド国内軍を見殺しにしたソ連は、1944年7月に占領地域のルブリンを首都として樹立していた親ソ政権(いわゆるルブリン政権)を戦後のポーランド政府として育成し、ポーランドを自国の藩屏となる衛星国として確保するための具体的な行動を開始しました。

 1945年2月、戦後の国際秩序を決めたヤルタ会談がはじまると、ロンドンの亡命政権と、ルブリン政権のどちらを正統政府とするかで、英ソは激しく対立。結局、アメリカのとりなしで、総選挙を実施し、国民自身で政権を選ぶこと、また新生ポーランド国家の領域を、戦前よりも大幅に西へ移動させることで決着がはかられました。

 ところが、選挙のためにロンドン亡命政権の指導者がポーランドに戻ると、ソ連の息のかかったルブリン政権は彼らを逮捕し、裁判にかけてしまいます。この結果、ポーランドの共産化は決定的となりましたが、このことが米英を強く刺激し、東西冷戦が幕を開けることになるのです。


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 ポーランド亡命政府
2005-10-20 Thu 14:11
 いよいよ<JAPEX >(10月28~30日、東京・池袋のサンシャイン文化会館で開催)と反米の世界史展(11月1~10日、東京・白金の明治学院大学 キャンパス内のインブリー館で開催)が迫ってきました。というわけで、ここ数日、その最終追い込みに追われる日々が続いています。

 作品制作は余裕をもって行うべきだとお考えの方からすると、僕のようにギリギリまで作業をしている人間は段取りが悪いということになるのかもしれません。しかし、僕自身は、どんなものを作る場合でも、自分を追い込んで、最後の一瞬まで粘って頑張ったほうが、結果として良いものができると信じています。“火事場の馬鹿力”ってのは、けっこう侮れないものですからね。まぁ、この辺は人それぞれなので、どちらが正しいという筋合いのものではないのですが…。

 さて、<JAPEX >の特別展示“1945年”のコーナーに出品する「“戦後”の誕生」は、欧州・日本・中国(含台湾・香港)・朝鮮・東南アジアの5つの地域それぞれの、第二次大戦の終戦直後の状況をまとめた5つのミニコレクションから成り立つ短編集のような作品とお考えいただければよいかと思います。で、現在、最終チェックとあわせて本格的に手を入れているのが、作品の構成上は一番最初に来る「欧州:東西冷戦の開幕」の部分です。

 東西冷戦のルーツをどこに求めるかは、いろいろと議論が分かれるかと思いますが、とりあえず、ポーランド問題をめぐるソ連と西側の対立が一つの発火点となったことは間違いありません。

 第二次大戦中、独ソ両国によって分割されたポーランドの旧政府は、当初はパリに、後にロンドンに亡命政権を樹立。1941年の独ソ戦勃発以降は、ポーランド全土を占領したドイツ軍と戦っていました。

 1944年、ドイツが敗走を重ねる中で、ソ連軍の解放地域がワルシャワ近郊にまで及んでくると、ポーランド亡命政府系の国内軍は、それに呼応するかたちで8月1日にワルシャワでの武装蜂起を行います。いわゆるワルシャワ蜂起です。しかし、戦後のポーランドを衛星国化する意向を既に固めていたソ連は、親英的な亡命政府がポーランドに復活することを望まず、ワルシャワを目前にして進軍をストップ。イギリスの度重なる要請にも関わらず、蜂起を援助しなかったどころか、イギリスによる支援も妨害しました。この結果、ワルシャワ蜂起は失敗に終わり、ドイツ軍による懲罰的攻撃によってワルシャワは徹底的に破壊にされ、レジスタンス・市民約22万人が虐殺されました。

 ポーランド亡命政府は、失敗に終わったワルシャワ蜂起を宣伝する切手を発行し、自分たちこそがポーランドの解放のために戦っていることをアピールしようとしています。この亡命政権の切手が貼られたカバー
(封筒)が↓です。

      ワルシャワ蜂起


 一般に、亡命政権の切手というと、実際の郵便には使えないラベルのようなものが多いのですが、ポーランド亡命政府に関しては、“ポーランド(もちろん、亡命政府のことですが)”船籍の船で運ぶ郵便物などで実際に使用されました。このカバーもその一例で、1945年2月3日にロンドンの亡命政府からニューヨークの亡命政府の大使館宛に送られたもので、裏面には3月19日の到着印も押されています。

 こうして、ワルシャワ蜂起を見殺しにし、亡命政府に打撃を与えた上で、いよいよ、ソ連はポーランドに衛星国を樹立するのですが、その辺の事情を語るマテリアルについては、機会を改めてお話しすることにしましょう。
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