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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 ラマダーンはじまる
2018-05-16 Wed 01:00
 ことし(ヒジュラ暦では1439年)のラマダーンが、きのう(15日)から始まりました。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

      パレスチナ(ハマース)・ラマダーン

 これは、2011年8月1日、ガザ地区を実効支配していたハマース政府が、イスラム暦1432年ラマダーン(月)のスタートにあたって発行した記念切手で、岩のドームが取り上げられています。

 イスラム暦の第9月にあたるラマダーンは、ムスリムにとっては断食の月で、目視による新月の確認をもって正式にスタートします。切手に細い月が描かれているのは、このことを踏まえ、ラマダーンの始まりを表現したものです。

 ラマダーンの断食は、ムスリムが行わなければならない宗教的義務“五行”のひとつ。もともとはユダヤ教の習慣だったものを預言者ムハンマドが信徒に課したのが始まりで、忍耐力を養うとともに、貧しくて食事をとることのできない人々に思いをいたし、彼らの苦しみを理解するのが目的とされています。

 ラマダーン期間中は、単に食欲・性欲を断つだけではなく、嘘や下品な話、口論、喧嘩、淫らな思考などをせず、ムスリムとして正しい振る舞いをし、貧者に思いをいたし、進んで喜捨をするべきとされています。そして、断食の苦行体験を皆で共有し、日没後の食事(イフタール)を共にすることで、ムスリムとしての連帯感を涵養することになっています。

 ラマダーンは断食という肉体的な苦行を伴うだけでなく、精神的にも“正しいムスリム”であることを強く要求されるため、個々のムスリムにとっては負担も大きく、それゆえ、ラマダーン明けの大祭(イード・フィトゥル)は多くの人々が心の底から開放感を感じる“ハレの日”として、いわゆるイスラム諸国ではなくても、ムスリムが一定の割合を占める国では記念切手が発行されることも少なくありません。

 これに対して、ハマース政権の切手は、ラマダーン月の初め、すなわち、これから断食の苦行が始まるタイミングで発行されているという点でユニークです。その背景には、ハマースなどのいわゆるイスラム原理主義勢力が、自らの勢力拡大ないしは資金獲得の手段としてラマダーンを利用しているという現状があります。

 すなわち、ラマダーンの期間中、ムスリムは精神的に高揚した状態になることが少なくありませんが、そうした状態で、モスクに通い、イフタールの食事をとる人は数多くいます。

 その際、モスクでの説教が、宗教的にオーソドックスで穏健な内容であれば問題はないのですが、中には、イスラム原理主義に親和的な説教師が、腐敗堕落した欧米文化やそれに毒された既存のイスラム社会を糾弾して信徒の憎悪を煽るケースもあり、一定の割合で彼らに感化されて過激な言動に走る者が発生します。

 じっさい、ハマースにも、そうしたラマダーン期間中の特殊な空気を活用して、勢力を拡大してきた面がありました。

 たとえば、彼らはガザ地区を支配するようになってからは、ラマダーンの始まりに際して囚人に対して恩赦を行うとともに、ラマダーン明けのタイミングで“犯罪者”の公開処刑も行うなどして、権力の行使を可視化する機会としてラマダーンを利用しています。

 また、ラマダーン期間中は貧者を対象とした喜捨が奨励されていることを利用し、ハマースは巨額の金銭や物品を信徒から集めており、それが彼らの重要な資金源になっているという点も見逃せません。ラマダーンを悪用したハマースの資金集めは、ガザ地区のみならず、オーストリアを拠点に欧州でも活発に行われており、集められた資金はトルコのハマース系企業、レバノンなどを経由して、テロ活動の原資としても使われているとも指摘されています。

 したがって、ハマースにしてみれば、ラマダーン明けのイードもさることながら、ラマダーン期間中こそが自らの勢力を拡大するための重要な機会になっているともいえるわけで、そうした意識の下、彼らは、ラマダーン初日に岩のドームを取り上げた切手を発行することで、(彼らの認識では)パレスチナの正統政府として「イスラエル国家を承認せず、武力闘争路線を継続する」という姿勢をあらためて強調しようとしたのでしょう。

 くしくも、おととい(14日)、(西暦での)イスラエル建国70周年にあわせて、米国大使館がテルアヴィヴからエルサレムへ移転。これに対して、ハマースの実効支配下にあるガザ地区では抗議活動が激化(一部暴徒化)しており、この記事を書いている時点で、イスラエル軍との衝突により、60人超が死亡しました。また、ヨルダン川西岸でもゼネストが発生するなど、情勢が緊迫しています。

 今月27日からエルサレムで開催予定の世界切手展<WSC Israel 2018>に日本コミッショナーとして、日本からの出品作品をお預かりして現地入りする予定の僕としては、ともかくも事態が沈静化し、無事に切手展が開催されることを祈るばかりです。

 なお、ハマースとその切手については、拙著『パレスチナ現代史 岩のドームの郵便学』でも詳しくまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひお手にとってご覧いただけると幸いです。 


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 詳細につきましては、今後、このブログでも随時ご案内して参りますので、よろしくお願いします。

      ゲバラ本・仮書影

(画像は書影のイメージです。刊行時には若干の変更の可能性があります) 

 なお、当初、『チェ・ゲバラとキューバ革命』は、2018年5月末の刊行を予定しておりましたが、諸般の事情により、刊行予定が7月に変更になりました。あしからずご了承ください。


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 ハマース、ファタハと和解合意
2017-10-13 Fri 10:47
 パレスチナ・ガザ地区を実行支配するハマース政府は、昨日(12日)、カイロでパレスチナ自治政府を率いるファタハと共同会見を行い、今年12月1日までにハマースがガザ地区のすべての行政権限を自治政府に返還することで合意したと発表しました。というわけで、きょうはこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      ハマース政府最初の切手FDC

 これは、2009年3月21日、ハマース政府として最初に発行された“アラブ文化首都”の切手の初日カバーです。

 2004年11月11日、長年にわたってPLOを率いてきたアラファトが75歳で亡くなり、マフムード・アッバースが後継のPLO議長・自治政府大統領に就任します。

 2005年2月3日、アッバースは、さっそくシャルム・シェイクでイスラエル首相のアリエル・シャロンと会談し、各地で頻発していた武力衝突の停戦に合意。中断していた中東和平ロードマップ交渉の再開に意欲を示しました。

 こうした穏健な現実主義者としてのアッバースの姿勢は、ヨルダン川西岸地区の一般国民の間では一定の支持を得ましたが、ガザ地区を基盤とするイスラム原理主義組織のハマースなどは“イスラエル寄り”のアッバースに対して露骨な敵意と不信感を向け、テロを継続していました。

 そうしたなかで、翌2006年1月25日に投票が行われたパレスチナ評議会選挙では、アラファト時代のPLO幹部の汚職腐敗に対する一般市民の反感もあって、定数132議席の過半数にあたる76議席をハマース系の候補者が獲得。選挙結果を受けて、2月16日、ハマースは候補者名簿の1位にランクされていたイスマーイール・ハニーヤを首相候補として推薦したため、アッバースもこれを受け入れざるを得ず、3月29日、ハニーヤ内閣が発足しました。

 ハニーヤは首相就任演説で「イスラエル国家を承認せず、武力闘争路線を継続する」と宣言。なんとかしてロードマップ交渉を再開したい大統領のアッバースに対して冷水を浴びせかけます。イスラエル側も態度を硬化させ、6月30日、ハマース過激派が拘束しているイスラエル兵士ギラド・シャリートの無傷での即時解放を要求。要求が受け入れられなければ、ハニーヤを暗殺すると表明しました。また、PLO主流派のファタハとハマースの間でも流血を伴う衝突が頻発するようになり、ハニーヤを含むハマースのガザ地区の政治指導者は次々と地下に潜伏します。

 こうした中で、2006年12月14日、首相として初の外遊から帰国しようとしたハニーヤが、ラファフの国境検問所でエジプトからガザへの国境通過を拒否される事件が発生。このとき、ハニーヤは国外からの自治政府への寄付金として推定3000万ドルの現金を所持していましたが、イスラエル政府はその寄付金を持ち込まないという条件で、ハニーヤの国境通過を許可すると発表しました。

 ところが、緊迫した空気の中で、検問所の現場では、ハマースの戦闘員とパレスチナ大統領警護隊との偶発的な銃撃戦が発生。さらに、ハニーヤが国境を通過しようと試みた際、彼の護衛の一人が銃撃されて死亡、ハニーヤの長男も負傷してしまいます。この事件を機に、ファタハとハマースの対立はエスカレートし、双方の武装集団による襲撃事件が頻発するようになりました。

 このため、両者の対立を解消して、ともかくもハマース、ファタハの連立政権を実現するため、2007年2月15日、ハニーヤ内閣はいったん総辞職したうえで、3月18日、あらためてハニーヤを首班とする連立内閣を組織するとの妥協が図られます。

 しかし、その後も武力衝突は一向に収まらず、6月11日には、ハマースがガザ地区を占拠したため、6月14日、もはやハマースとの関係修復は不可能と判断したアッバースが非常事態宣言を発令。ハニーヤを解任し、ハマースによるガザの統治は非合法なものであるとして、6月17日、元世界銀行副総裁で自治政府での蔵相経験のあるサラーム・ファイヤードを首相に任命し、ハマースを除外した非常事態政府の樹立を宣言します。

 これに対して、ハニーヤは解任を拒否し、ハニーヤ内閣こそパレスチナの正当政府であると主張。“パレスチナ”はPLO/ファタハの支配する西岸地区と、ハマース支配下のガザ地区に、事実上、分裂しました。

 こうして“パレスチナ”が分裂した後も、郵便に関しては、当初は西岸地区のパレスチナ郵政が従前どおり、西岸地区とガザ地区の郵便事業を統一的に扱っており、両者は共通の切手を使用していました。

 こうした状況の下で、2009年、“アラブ文化首都 エルサレム”のイベントが行われます。

 アラブ文化首都は、欧州文化首都に倣い、ユネスコとアラブ連盟の主催の下、アラブ諸国の中から一都市を選んで“アラブ文化首都”に指定し、一年間を通してさまざまな芸術文化に関する行事を開催することで、加盟国の相互理解を深めようというものです。

 2009年のアラブ文化首都は、各国持ち回りの順番で、パレスチナから選ばれることになっていましたが、大統領のアッバースは自治政府の支配下にあるベツレヘムや首都のラマッラーではなく、和平プロセスを進展させるための契機とすべく、あえてエルサレムを提案。アラブ連盟とユネスコもこれを受け入れていました。

 “アラブ文化首都 エルサレム”のキックオフ・イベントは、当初、2009年1月に行われる予定でしたが、イスラエルとハマースの戦闘により延期され、停戦後の3月21日、自治政府支配下のベツレヘムで行われました。当初の計画では、エルサレム、ガザ、ナゼレ、そしてレバノン領内のマール・エリアス難民キャンプの5ヵ所で同時にイベントを開催することも計画されましたが、イスラエル政府はイスラエル領内での“アラブ文化首都”と銘打ったイベントを全面禁止し、神殿の丘/ハラム・シャリーフへの道路を封鎖。エルサレムとナゼレのみならず、多くの関連イベントは中止を余儀なくされます。

 これに対して、ガザ地区では、ファタハ政府によるベツレヘムでのイベント開催日の3月21日に先んじ、ハマースがファタハに無断で独自にイベントのロゴマークを制作し、3月17日、ファタハを無視して独自に記念行事を開催。自分たちこそがパレスチナの正統政権であると主張し、ファタハ政府を挑発しました。

 また、ハマース政府は、ファタハ政府が“アラブ文化首都”の記念切手を用意していないことに目をつけ、西岸地区とは別に、ロゴマークを描く独自の記念切手を発行。記念切手に取り上げられたロゴマークは、モスクとミナレットを図案化した象徴的なデザインで、今回ご紹介のような初日カバーも制作されました。

 なお、この切手は、ハマース政府が、従来のファタハ政府の郵政機関とは別に、独自に発行した最初の切手となり、以後、パレスチナでは、西岸地区とガザ地区で別々の切手が発行・使用される状況が続いていました。

 今回、ハマースとファタハの間で成立した和解合意によれば、ハマースは、ガザ地区とイスラエルとの境界で人や物資の出入りを管理する権限は11月1日までに、ガザ地区のすべての行政権限は12月1日までに、それぞれ自治政府に返還することになっており、これが実現されれば、ガザ地区におけるハマースの郵政活動も停止され、独自の切手が新規に発行されることもなくなります。その場合、ハマース政府がこれまで発行してきた切手について、どのような処理が行われるのか、僕としては大いに興味があるところです。

 もっそも、ファタハとハマースの間では、過去にも和解に向けた合意が結ばれたものの、実施段階では頓挫していますので、今回の合意もその轍を踏む可能性は大いにあります。

 なお、パレスチナ分裂後のファタハ、ハマース双方の切手と郵便については、拙著『パレスチナ現代史 岩のドームの郵便学』でもまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。


★★ NHKラジオ第1放送 “切手でひも解く世界の歴史”  次回は19日!★★

 10月19日(木)16:05~  NHKラジオ第1放送で、内藤が出演する「切手でひも解く世界の歴史」の第10回が放送予定です。今回は、10月18日が米国によるアラスカ領有150年の記念日ということで、アラスカを買った米国務長官、ウィリアム・スワードにスポットを当ててお話をする予定です。なお、番組の詳細はこちらをご覧ください。


★★★ トークイベントのご案内  ★★★ 

 11月4日(土) 12:30より、東京・浅草で開催の全国切手展<JAPEX>会場内で、拙著『パレスチナ現代史 岩のドームの郵便学』刊行記念のトークイベントを予定しております。よろしかったら、ぜひ遊びに来てください。なお、詳細は主催者HPをご覧いただけると幸いです。


★★★ 世界切手展<WSC Israel 2018>作品募集中! ★★★

  明年(2018年)5月27日から31日まで、エルサレムの国際会議場でFIP(国際郵趣連盟)認定の世界切手展<WSC Israel 2018>が開催される予定です。同展の日本コミッショナーは、不詳・内藤がお引き受けすることになりました。

 現在、出品作品を11月10日(必着)で募集しておりますので、ご興味がおありの方は、ぜひ、こちらをご覧ください。ふるってのご応募を、待ちしております。


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 ホークスが2年ぶりの優勝
2017-09-16 Sat 21:28
 プロ野球のパシフィック・リーグはソフトバンク・ホークスが2年ぶり18度目の優勝を果たしました。9月16日の優勝決定は2015年の9月17日より早いリーグ最速記録だそうです。というわけで、きょうは鷹を描いた切手の中からこの1枚です。

      ガザ・ジャアバリー追悼

 これは、2013年6月5日、ガザ地区を実行支配するハマース政府が発行したアフマド・ジャアバリーの追悼切手シートで、ジャーバリーの肖像と並んで、岩のドームを中心としたパレスチナの地図とアラブの象徴としての鷹、上空を飛ぶロケット弾と撃墜されるイスラエル軍の軍用ヘリがコラージュされています。

 アフマド・ジャアバリーは、1960年、ガザ生まれで、ガザのイスラム大学を卒業しました。当初はファタハの活動家として、世俗的な反イスラエル闘争に参加していましたが、1982年に逮捕され、獄中で13年間を過ごす間にイスラム原理主義に感化され、ファタハを離脱してハマースに参加します。

 1995年の釈放後は、ガザで反イスラエルの武装テロ活動に従事して頭角を現し、第二次インティファーダ発生後の2002年、ハマースの軍事組織、イッズッディーン・カッサーム旅団の事実上の司令官として戦闘を指揮。2006年にはイスラエル兵ギラド・シャリートの誘拐と他の兵士2名の殺害に関して主導的な役割を果たしたほか、2007年のハマースによるガザ制圧に際しても軍功を挙げました。

 以後、ハマースの軍事部門トップとして、ファタハ政府(パレスチナ自治政府として国際的な承認を得て西岸地区を統治)とイスラエルの和平交渉の進展を徹底的に妨害すべく、ロケット弾によるイスラエル領内への攻撃を指揮しました。当然のことながら、イスラエル側からすれば、ジャアバリーは、当時のもっとも凶悪・危険なテロリストとみなされていました。

 ところで、2011年9月23日、ファタハ政府は“パレスチナ”として国連への加盟申請を行い、同年10月31日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)がパレスチナを加盟“国”として承認しましたが、これを受けて、国連の場では、パレスチナ自治政府を従来の“オブザーヴァー組織”から“オブザーヴァー国家”に格上げする(=パレスチナを国連の“加盟国”としては認めないものの、正規の独立国であることを国連として事実上承認するという妥協策です)総会決議を2012年に採択する方向で調整が進められていました。これに対して、ハマース政府はガザを拠点にあくまでもイスラエル国家の存在そのものを否定し続けていたため、国連総会での決議採択を前に、イスラエルのネタニヤフ政権はハマースのテロ活動に打撃を与えるべく、2012年11月14日、ガザ地区に空爆を行い、車で移動中のハマースの軍事部門のトップ、アフマド・ジャアバリーを殺害しました。

 さらにジャアバリーの殺害に成功したイスラエル当局は、殺害の模様を撮影した動画を直ちにユーテューブに投稿。トゥイッターでもハマースがテロリストであることを強調したうえで、「ハマースの工作員は階級にかかわらず、今後数日間は地上に顔を出さないよう勧める」と発信します。

 イスラエルによるジャアバリー殺害に対しては、アラブ諸国がこれを批難し、エジプトはイスラエル大使を召還。当事者のハマースはイスラエルの“宣戦布告”に対して、同じくトゥイッターで「我々の神聖な手は、お前たちのリーダーや兵士がどこにいようと届く」と応酬しています。はたして、以後7日間、ハマースによるイスラエル領内への砲撃は激しさを増し、160人を超える死者が発生しました。

 こうした経緯を経て、ガザのハマース政府は、翌2013年6月5日、今回ご紹介の切手シートを発行しました。シートのデザインは、ジャアバリーの主導したロケット弾による対イスラエル攻撃を讃えるとともに、パレスチナ全土は“パレスチナ国家(ここではハマース政府のこと)”のものであり、その防衛のためには今後とも容赦なくイスラエルに対してロケット弾を撃ち込んで行く意思があることが示されています。

 ちなみに、ジャアバリー殺害から約半月後の2012年11月29日に開催された国連総会で、パレスチナ(ファタハ政府)を“オブザーヴァー組織”から“オブザーヴァー国家”に格上げする決議67/19が、賛成138、反対9、棄権41、欠席5の圧倒的多数で承認されました。反対票を投じた9ヵ国はカナダ、チェコ、ミクロネシア、イスラエル、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、パナマ、米国で、わが国は賛成票を投じています。

 なお、ガザ地区を実効支配下に置くハマース政府とそのプロパガンダ切手については、新刊の拙著『パレスチナ現代史 岩のドームの郵便学』でもいろいろと分析しておりますので、機会がありましたら、ぜひお手にとってご覧いただけると幸いです。
 

 ★★★ トークイベントのご案内  ★★★ 

      タウンミーティング in 福山

  2017年9月17日(日) 14:00~、広島県立ふくやま産業交流館で開催の「日本のこころタウンミ-ティング in 福山」に憲政史家の倉山満さんとトークイベントをやります。お近くの方は、ぜひ、ご参加ください。なお、イベントそのものの詳細は、こちらをご覧ください。
      
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 母の日
2017-05-14 Sun 12:00
 きょうは“母の日”です。というわけで、毎年恒例、母と子を題材とした切手の中から、この1枚です。(画像はクリックで拡大されます)

      パレスチナ・ナクバ(2014)

 これは、2014年5月15日にパレスチナ・ガザ政府が発行した“ナクバ66周年”の記念切手で、子供を抱き、哺乳瓶代わりに鍵を咥えさせている母親が描かれています。

 “ナクバ”は、もともとはアラビア語で大災厄ないしはカタストロフを意味する語ですが、中東近現代史の文脈では、1948年5月のイスラエル建国とそれに伴う第一次中東戦争の結果、70-80万人のアラブが“パレスチナ難民”となったことを意味しています。

 第二次大戦後の1947年2月、パレスチナを委任統治領としていた英国はアラブとシオニストの対立を解決する責任を放棄し、国際連合に問題の解決を一任すると一方的に宣言。これを受けて、同年5月、国連にパレスチナ問題特別委員会が設立され、同委員会によるパレスチナ分割案(パレスチナにアラブ、ユダヤの二独立国を創設し、エルサレムとその周辺は国連信託統治下に置くという内容)が11月29日に国連決議第181号として採択されます。

 国連決議をめぐってパレスチナがアラブ対シオニストの内戦に突入する中、1948年3月、シオニストたちは、パレスチナ分割の国連決議を受けて、テルアビブにパレスチナのユダヤ人居住区を統治する臨時政府「ユダヤ国民評議会」を樹立し、新国家樹立に向けて動き出しました。同時に、シオニストたちは、英国の撤退後の軍事的空白を利用して、軍事的にパレスチナを制圧するダレット計画(パレスチナのアラブ社会を破壊してアラブ住民を追放し、パレスチナ全土を制圧してユダヤ人国家創設を既成事実とすることをめざす計画)を発動します。

 これにより、1948年4月の時点で、生命の危険を感じたアラブ系住民約10万人がパレスチナから脱出。こうした中で、シオニスト側は着々と建国準備を進め、パレスチナにおけるイギリスの委任統治が終了する1948年5月14日午後4時すぎ(現地時間)、テルアビブの博物館でユダヤ国民評議会が開催され、イスラエル初代首相となったベングリオンが、“ユダヤ民族の天与の歴史的権利に基づき、国際連合の決議による”ユダヤ人国家イスラエルの独立を宣言。これを認めない周辺アラブ諸国はイスラエルに宣戦を布告。イスラエルの独立戦争ともいうべき第一次中東戦争が勃発しました。

 一連の経緯を経て大量のパレスチナ難民が発生することになりましたが、その大半は、ユダヤ側軍事組織による大量虐殺や攻撃、銃器による脅迫等が原因で、パレスチナ域外に逃れた難民たちが故郷に残した資産の多くは没収されました。

 着の身着のままで難民となった人々は、いつか故郷の自分が元住んでいた家に帰還するという意思を込めて、鍵を“ナクバ”のシンボルとしており、今回の切手でも、祖国を知らぬままに生まれた子供の口に哺乳瓶ではなく鍵を咥えさせることで、そうした“民族の悲劇”を子々孫々に語り継いで一行という意図が示されています。

 さて、ことし(2017年)は、英国がパレスチナに“ユダヤ人の民族的郷土”を作ることを支持するとしたバルフォア宣言(1917年)から100年、イスラエル国家建国の根拠とされる国連のパレスチナ分割決議(1947年)から70年、中東現代史の原点ともいうべき第三次中東戦争(1967年)から50年という年回りになっています。これにあわせて、懸案となっている「ユダヤと世界史」の書籍化と併行して、本のメルマガで連載中の「岩のドームの郵便学」に加筆修正して書籍化する企画も現在進行中です。具体的な内容や発売日などが決まりましたら、このブログでもご案内いたしますので、よろしくお願いいたします。


 ★★★ 内藤陽介 『朝鮮戦争』(えにし書房) 重版出来! ★★★ 

      朝鮮戦争表紙(実物からスキャン) 本体2000円+税

 【出版元より】
 「韓国/北朝鮮」の出発点を正しく知る!
 日本からの解放と、それに連なる朝鮮戦争の苦難の道のりを知らずして、隣国との関係改善はあり得ない。ハングルに訳された韓国現代史の著作もある著者が、日本の敗戦と朝鮮戦争の勃発から休戦までの経緯をポスタルメディア(郵便資料)という独自の切り口から詳細に解説。解放後も日本統治時代の切手や葉書が使われた郵便事情の実態、軍事郵便、北朝鮮のトホホ切手、記念切手発行の裏事情などがむしろ雄弁に歴史を物語る。退屈な通史より面白く、わかりやすい内容でありながら、朝鮮戦争の基本図書ともなりうる充実の内容。

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 アース・デイとランド・デイ
2017-04-22 Sat 10:26
 きょう(22日)は“アース・デイ”です。というわけで、こんな切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      パレスチナ・アースデイ(2014)

 これは、2014年にパレスチナ・ガザ政府が発行した“アース・デイ”の記念切手で、図案としては、岩のドームを含むパレスチナの風景イメージと鳥、オレンジの木が組み合わされています。

 さて、今回ご紹介の切手の発行名目は“アース・デイ”となっていますが、そのアラビア語は“ يوم الأرض‎‎”です。このうち、“يوم ”は“日”ですが、“الأرض”は“地”の意味ですから、英語で“earth”とも“land”とも訳すことが可能で、世界的に認知されている4月22日の“アース・デイ”とは別に、“ランド・デイ”とされる記念日に対しても“ يوم الأرض‎‎”という語が使われています。

 ランド・デイというのは、1976年3月30日、イスラエル政府がガリラヤ地方の1万9000平方キロの土地を強制収用し、アラブ系の住民(いわゆるパレスチナ人)をネゲブ砂漠に強制移住させようとした際、これに対抗する大規模なデモが発生し、6人のパレスチナ人が殺されたことにちなむ記念日で、毎年、事件のあった3月30日には、イスラエルに抗議し、パレスチナの土地がパレスチナ人のものであると主張する大規模な集会やデモが行われています。

 さて、今回ご紹介の切手は、もともと、2014年3月30日の“ランド・デイ”にあわせて発行される予定でしたが、実際の発行は同年11月にまでずれ込んでいます。その際、“ يوم الأرض”の訳語として、従来用いられていた“ランド・デイ”ではなく、あえて“アース・デイ”があてられたのが興味深いところです。その理由は定かではないのですが、“(パレスチナの)ランド・デイ”に比べれば、はるかに認知度の高い“アース・デイ”の語を使うことで、あえて、4月22日のアース・デイの記念切手と誤解させ、この切手(とその背後にあるランド・デイ)に対する関心を集めようという意図があったのかもしれません。

 ちなみに、ガザの郵政当局が制作した公式FDCの消印には、3月30日付のモノと4月17日付のモノがありますので、その点でも、この“يوم الأرض”の切手が、ランド・デイを記念したものなのか、アース・デイを記念したものなのか、見る側は混乱してしまいそうですね。

 さて、ことし(2017年)は、英国がパレスチナに“ユダヤ人の民族的郷土”を作ることを支持するとしたバルフォア宣言(1917年)から100年、イスラエル国家建国の根拠とされる国連のパレスチナ分割決議(1947年)から70年、中東現代史の原点ともいうべき第3次中東戦争(1967年)から50年という年回りになっていますので、懸案となっている「ユダヤと世界史」の書籍化と併行して、パレスチナにフォーカスをあてた書籍の企画も進めています。具体的な内容などが明らかになりましたら、このブログでもご案内いたしますので、よろしくお願いいたします。
 

 ★★★ NHKラジオ第1放送 “切手でひも解く世界の歴史” 次回 は27日! ★★★ 

 4月27日(木)16:05~  NHKラジオ第1放送で、内藤が出演する「切手でひも解く世界の歴史」の第2回目が放送予定です。今回は、23日のフランス大統領選挙の第1回投票と5月7日の決選投票の間の放送ということで、フランスの初代大統領と切手についてのお話をする予定です。みなさま、よろしくお願いします。番組の詳細はこちらをご覧ください。


 ★★★ 内藤陽介 『朝鮮戦争』(えにし書房) 重版出来! ★★★ 

      朝鮮戦争表紙(実物からスキャン) 本体2000円+税

 【出版元より】
 「韓国/北朝鮮」の出発点を正しく知る!
 日本からの解放と、それに連なる朝鮮戦争の苦難の道のりを知らずして、隣国との関係改善はあり得ない。ハングルに訳された韓国現代史の著作もある著者が、日本の敗戦と朝鮮戦争の勃発から休戦までの経緯をポスタルメディア(郵便資料)という独自の切り口から詳細に解説。解放後も日本統治時代の切手や葉書が使われた郵便事情の実態、軍事郵便、北朝鮮のトホホ切手、記念切手発行の裏事情などがむしろ雄弁に歴史を物語る。退屈な通史より面白く、わかりやすい内容でありながら、朝鮮戦争の基本図書ともなりうる充実の内容。

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 パレスチナの“国旗”
2011-12-13 Tue 23:47
 パレスチナが国連教育科学文化機関(ユネスコ)に加盟したことを受け、きょう(13日)、パリのユネスコ本部にパレスチナの“国旗”が掲揚されました。国連機関に“加盟国”としてパレスチナの旗が掲げられるのは初めてのことです。というわけで、きょうはパレスチナ国旗を描いたこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

        ガザ封鎖への抵抗

 これは、昨年(2010年)、パレスチナ自治政府が発行した“ガザ封鎖に反対するパレスチナ人の断固たる意志”の小型シートです。シートには、ガザ地区の地図を背景にパレスチナ国旗を持つ人物のシルエットを描く2000フィルス切手が1枚収められていますが、シート全体としては、国旗を持つ子供たちの写真に目を奪われますな。

 パレスチナ自治政府内部では、発足当初から、PLO傘下のファタハといわゆるイスラム原理主義勢力のハマスが対立し、各地で散発的な戦闘が発生していました。2007年6月、ハマスがガザを武力制圧すると、その対イスラエル強硬姿勢を懸念したイスラエルは、ガザへの人や物の出入りを従来にもまして厳しく制限。これに反発したハマスは、2008年1月9日、アメリカのブッシュ大統領のイスラエル・パレスチナ歴訪も合わせてイスラエルへのロケット弾攻撃を敢行し、イスラエルがその報復としてガザを完全封鎖するという事態になりました。

 その後、イスラエルとガザのハマス政権との間では散発的に戦闘が繰り返されており、イスラエル側は一時的に封鎖を緩和することもありましたが、基本的には、ガザとの境界、総延長75キロを高さ数メートルの金網フェンスやコンクリート壁で封鎖。ガザへの人や物の出入りをエジプト側のラファを含め計5カ所の検問所に限定し、軍の監視の下、人道支援物資の搬入や農産物など一部の搬出入のみ(国連パレスチナ難民救済事業機関:UNRWAによると、1日あたりトラック100台分程度だそうです)を認めるだけという状況が続いています。

 今回ご紹介の切手は、こうした状況の下、パレスチナ自治政府としてイスラエルによるガザ封鎖に抗議し、これに屈しないという意思を示すために発行されたもので、その象徴としての国旗の使われ方が実に印象的なデザインです。こういうデザインを見ると、あらためて、どんな国の国旗も丁重に扱わねばならないということを実感させられますな。

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 ★ TBSラジオ・ニュース番組森本毅郎・スタンバイ(11月17日放送)、11月27日付『東京新聞』読書欄、『週刊文春』12月1日号、12月1日付『全国書店新聞』『週刊東洋経済』12月3日号、12月6日付『愛媛新聞』地軸、同『秋田魁新報』北斗星、TBSラジオ鈴木おさむ 考えるラジオ(12月10日放送)、12月11日付『京都新聞』、同『山梨日日新聞』みるじゃん『サンデー毎日』12月25日号で紹介されました。

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