2013-07-04 Thu 17:36
ムハンマド・ムルシー大統領の退陣を求める反大統領派とイスラム主義組織ムスリム同胞団などの親大統領派の対立が続いていたエジプトで、現地時間の3日夜(日本時間の4日未明)、エジプト軍トップのシシ国防相が全土に向けたテレビ放送を通じ、憲法を停止して議会選挙を実施し、最高憲法裁判所のマンスール長官がムルシー大統領に代わって暫定大統領に就任すると発表しました。というわけで、きょうはこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)
これは、昨年(2012年)、エジプトで発行された“1月25日革命1周年”の記念切手で、革命当日のカイロ・タハリール広場の群集と翻るエジプト国旗がデザインされています。きのうのカイロ市内でも、反大統領派のデモ隊が町を埋め尽くす画像や映像が盛んに紹介されていましたが、現地ではこの切手のような光景が見られたのかもしれません。 ちなみに、この切手は、ムバーラク政権崩壊後の国軍最高評議会による暫定統治期間に発行されたものですが、昨年6月のムルシー政権発足後、今年1月には革命2周年の記念切手も発行されています。ただし、革命2周年の記念切手のデザインは、今回ご紹介のモノに比べると、かなり抽象的で無難なデザインで、今回ご紹介のモノのような迫力は感じられません。やはり、支持率が低迷する中、自分たちもまた“革命”でひっくり返されてはかなわないというメンタリティが、そうしたデザインを生んだということなのでしょうかね。 さて、今回のクーデターにいたる過程で、メディアでは、イスラム主義団体のムスリム同胞団を背景にした政権と、世俗派の反大統領派の対立という枠組で報じられていたことが多かったように見受けられます。もちろん、それはそれで間違いではないのでしょうが、今回の反大統領派の拡大と国軍の介入の背景には、イスラム主義云々という以前に、単純素朴に、ムルシー政権の1年間でエジプト国民の生活が大幅に悪化したことが大きいように思われます。 すなわち、エジプトの収入源はスエズ運河の通行料と観光が大きなウェイトを占めていますが、このうちの観光収入に関しては、革命後の混乱により外国人観光客が激減して大打撃を受けています。そのこと自体は、すべてがムルシー政権の責任とは言い切れない面もあるのですが、そうした経済的に苦境にある時こそ、イデオロギーとは無関係に有能な経済官僚ないしは専門家が大胆な対策を打ち出していかねばなりません。ところが、大統領の出身母体であるムスリム同胞団は、これまで、貧困層の生活支援をボランティアとして組織的に行ってきた経験はあるものの、国家レベルでの経済運営の専門家は無きに等しい集団です。その結果として、ムルシー政権は経済対策という点では無為無策に終始し、その結果、失業者数は革命前から100万人以上増えて343万人(失業率は12%)にも達し、食料品も小麦が約28%、卵が約22%、牛乳や鶏肉が約15%値上がりするなど、国民生活は大きな打撃を受けたのです。 さらに、大統領が自身に絶対的な権限を付与する憲法宣言を発したり、政権に批判的な活動家らを名誉毀損などの容疑で次々と拘束したりするなど強権的な手法で乗り切ろうとしたことに加え、先月17日には、外国人観光客の減少で苦境に陥っている観光業界の反対を押し切って、1997年にルクソールで外国人観光客58人を殺傷するテロ事件を起こした“イスラム団”の関係者を、あろうことか、ルクソール県の知事に任命するということまでやっています。たしかに、現在のイスラム団はテロとの決別を宣言してはいるのですが、イメージが大きな意味を持つ観光業にとって、わざわざイメージを悪化させるような経歴の知事の任命は受け入れがたいというのが標準的な国民の正直なところでしょう。 ことほど左様に、ムルシー政権とムスリム同胞団が、彼らの主義主張とは別の次元で、統治能力のなさを白日の下にさらしてしまった以上、もはや、一般のエジプト国民の支持を回復することは絶望的といえます。その意味では、決してほめられたことではないにせよ、軍が事態の収拾に乗り出したことを頭から否定することはできないと僕は思います。ただし、一般のエジプト国民の心情としては、宗教的な保守派寄りというスタンスの人が多いのも事実で、穏健派イスラム主義をベースに掲げたムルシー政権の失敗は、期待が大きかっただけに、失望感も深いのでしょうけれど。 ちなみに、かつてダマスカス(現シリア共和国の首都)で大法官を務めたイブン・ジャマーアは「40年間の専制は1時間の無政府状態より良い」との言葉を残しましたが、だからと言って、再びムバーラク時代並みの独裁体制に戻った方が良いと考えるエジプト国民はどのくらいいるのでしょうかねぇ。なかなか難しいいところですな。 ★★★ 内藤陽介の最新作 ★★★ 『マリ近現代史』 北アフリカ・マリ共和国の知られざる歴史から混迷の現在まで、 切手・絵葉書等で色鮮やかに再現したオールカラーの本格的通史! amazon、e-hon、hontoネットストア、Honya Club、JBOOK、7ネット・ショッピング、紀伊國屋書店、版元ドットコム、ブックサービス、文教堂、丸善&ジュンク堂書店、楽天ブックスなどで好評発売中! ★★★ 予算1日2000円のソウル歴史散歩 ★★★ 毎月1回、よみうりカルチャー(読売・日本テレビ文化センター)荻窪で予算1日2000円のソウル歴史散歩と題する一般向けの教養講座を担当しています。開催日は7月2日、7月30日、9月3日(原則第一火曜日)で、時間は各回とも13:00~14:30です。講座は途中参加やお試し見学も可能ですので、ぜひ、お気軽に遊びに来てください。 ★★★ ポストショップオンラインのご案内(PR) ★★★ 郵便物の受け取りには欠かせないのが郵便ポストです。世界各国のありとあらゆるデザインポストを集めた郵便ポストの辞典ポストショップオンラインは海外ブランドから国内製まで、500種類を超える郵便ポストをみることができます。 |
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