2012-10-21 Sun 15:20
ご報告が遅くなりましたが、雑誌『ハッカージャパン』の2012年11月号が出来上がりました。僕が担当している連載「切手が語る宇宙開発史」では、今回からは、何回か、1959-60年の米国の状況を取り上げようかと思いますが、まずは、その中から、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1959年6月8日、米国でのミサイル・メールの実験で運ばれたカバーです。 1959年末の時点で、ソ連はルナ2号を月に衝突させ、同3号で月の裏側の写真撮影に成功し、その成果を政治的プロパガンダとして大々的に活用していました。ただし、そうした成果は、必ずしも、すぐに軍事・民生面で実際に応用されたわけではなく、見かけの華やかさに比して、じつは米ソの実際の軍事バランスは米国が圧倒的に優位という状況は変わっていません。 一方、米国の宇宙開発は実用本位の地道なものであったため、ソ連の後塵を拝しているような印象を与え、西側世界に“ミサイル・ギャップ”の不安を与えていましたが、ソ連に比して遜色のない成果を着実にあげています。すなわち、1958年1月のエクスプローラー1号の打ち上げ成功を皮切りとして、3月のヴァンガード1号(太陽電池パネルを利用した最初の衛星)、12月のプロジェクト・スコア(世界初の通信衛星)、1959年2月のヴァンガード2号(世界初の気象衛星)、ディスカバラー1号(世界初の極軌道周回衛星)、8月のエクスプローラー6号(初の衛星からの地球撮影)などです。 こうした宇宙開発の成果を実際に応用したものとして、1959年6月、米海軍は郵政省(現・郵便公社)とともにミサイル・メールの実験を行っています。 すなわち、1959年6月8日正午少し前、フロリダ沖に停泊中の米海軍の潜水艦バルベロから郵便物(郵政長官、アーサー・サマーフィールドの挨拶状が同封されていました)を搭載したミサイルが発射され、22分後、フロリダ州メイポートの海軍補助飛行場の標的に着弾。3000通の郵便物は、バルベロがヴァージニア州ノーフォークを出航する前に、6月8日午前9時30分のバルベロ艦内郵便局の消印を押してミサイルに搭載され、着弾後、大統領アイゼンハワー以下の米政府要人ならびに万国郵便連合加盟各国(当然、ソ連も含まれる)の郵政機関の長宛に届けられました。 実験に立ち会ったサマーフィールドは、無事に郵便物がメイポートに到着したことを受けて、「郵便物の輸送という重要かつ実用的な目的のために、誘導ミサイルを平和的に利用したことは、今回が世界初の快挙であります」と演説し、ミサイル・メールを「全世界の人々にとっての歴史的偉業」と自賛しました。さらに、サマーフィールドは「人類が月に到着する前に、誘導ミサイルを利用して、ニューヨークからカリフォルニア、英国、インド、オーストラリアまで、数時間以内が郵便が届くようになるでしょう」とも述べています。このくだりは、「ソ連はルナ計画で月ロケットを成功させているというが、それが一般国民の生活にとって何の価値があるのか」と言っているようで、正論ではあろうが、負け惜しみに聞こえなくもありません。 なお、誘導ミサイルを郵便の輸送に利用するというプランは、結局、実用化されませんでしたが、現在の我々は、瞬時に世界各国に文書を送信できる電子メールを日々利用しているというわけです。 ★★★ T-moneyで歩くソウル歴史散歩 ★★★ ・よみうりカルチャー荻窪 10月30日、12月4日、1月29日、2月5日、3月5日 13:00-14:30 8月の韓国取材で仕入れたネタを交えながら、ソウルの歴史散歩を楽しんでみようという一般向けの教養講座です。詳細につきましては、青色太字をクリックしてご覧いただけると幸いです。皆様のご参加を心よりお待ちしております。 ★★★★ 内藤陽介の最新刊 ★★★★ 毎秋恒例、切手紀行シリーズの第5巻は、10月25日に発売です! 『喜望峰:ケープタウンから見る南アフリカ』 いままでなかった喜望峰とケープタウンの物語 美しい風景とウンチク満載の歴史紀行!! ただいま、アマゾン、hmv、honto、JBOOKなどでご予約受付中! なお、本書をご自身の関係するメディアで取り上げたい、または、取り上げることを検討したい、という方は、是非、ご連絡ください。資料を急送いたします。 ★★★ ポストショップオンラインのご案内(PR) ★★★ 郵便物の受け取りには欠かせないのが郵便ポストです。世界各国のありとあらゆるデザインポストを集めた郵便ポストの辞典ポストショップオンラインは海外ブランドから国内製まで、500種類を超える郵便ポストをみることができます。 |
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