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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 DJ 歿す
2009-08-19 Wed 11:41
 きのう(18日)、韓国の金大中(韓国ではしばしば“DJ”と略されます)元大統領が多臓器不全のため、ソウル市内の病院で亡くなりました。謹んでご冥福をお祈りいたします。というわけで、きょうはこの1枚です。(画像はクリックで拡大されます)

 金大中ノーベル賞

 これは、2000年12月9日、金大中のノーベル平和賞受賞を記念して韓国で発行された切手です。

 金大中は、1924年(戸籍上は1925年)、全羅南道の木浦沖合、荷衣島でうまれました。朝鮮戦争の休戦後まもない1954年に国会議員に初当選し、反李承晩派の実力者である張勉の引き立てにより、野党政治家として頭角を現しました。1960年代以降は朴正煕政権の掲げる開発独裁政策に対して民主化を主張する野党政治家として活躍。1970年9月には民主党の大統領候補になり、翌1971年の大統領選挙では現職の朴正煕に97万票差まで迫る健闘を見せました。

 その結果、朴政権からは危険人物視され、交通事故を装った暗殺工作に遭遇。さらに、1972年の10月維新後は国内での政治活動が事実上封じられたため、日米両国に滞在しながら民主化運動に取り組みました。1973年8月、東京に滞在中、韓国中央情報部によって拉致され、暗殺の危機に遭いましたが、米国の介入により解放され、ソウルで軟禁状態に置かれた“金大中事件”は日本人にとってもなじみが深いところです。

 朴正煕暗殺後の1980年2月、公民権を回復し、政治活動を再開しましたが、全斗煥の新軍部によって5月に逮捕されます。その抗議に端を発した民主化デモを軍部が鎮圧して流血の惨事となったのが光州事件です。事件後は、軍法会議で死刑判決を受けたものの、無期懲役に減刑後、刑の執行を停止されて米国に出国しました。

 1985年に帰国した後、1987年に公民権を回復し、同年末の大統領選挙では盧泰愚に挑んだものの敗退。さらに、1992年の大統領選挙でも金泳三に敗れ、政界引退を表明しました。しかし、1995年に新政治国民会議を結成して政界に復帰し、1997年の大統領選挙で悲願の当選を果たし、1998年2月から5年間、政権を担当しました。

 1997年後半に韓国がアジア通貨危機に巻き込まれてデフォルト寸前の大不況に陥り、国際通貨基金(IMF)の管理下に入った中で大統領に就任した金大中は、韓国史上初の全羅道出身の大統領でした。このため、既得権益を持つ政治家や高級官僚とのしがらみが薄かったことが幸いし、彼は韓国社会の抜本的な改革に着手。一定の成果をあげることに成功しています。具体的には、官界に根強かった慶尚道優先の慣例を排除し、非慶尚道出身者を重要なポストに大幅に登用するなどの“地域主義”の是正、財務部を解体し経済部とするなどの行政機構改革、経済危機に対処するための現代財閥の分割や大宇財閥の解体とIT産業の育成などが挙げられます。また、こうした改革の成果として、任期中の2001年8月までにIMFに対する借入金を完済できたことは、金大中政権の業績として、高く評価されてしかるべきでしょう。

 その反面、外交面では、北朝鮮に対する“太陽政策”を展開し、2000年6月には北朝鮮の金正日総書記との南北頂上会談を実現。その功績によって、ノーベル平和賞を受賞したわけですが、結果的に、“太陽政策”は期待された北朝鮮の軟化をもたらさず、彼らをつけあがらせるだけに終わったことは周知のとおりです。特に、頂上会談の直前に金大中政権が現代グループを巻き込んで北朝鮮に不正送金を行っていた疑惑も明らかになったことから、彼のノーベル平和賞は“金で買ったもの”という批判の声も上がるようになり、韓国人初のノーベル平和賞受賞という金看板も色あせてしまうことになりました。

 現在の大韓民国の骨格は、良くも悪くも、朴正熙と金大中の二人によって作られたと僕は理解しています。その一方の主役であった朴正熙の功罪(あくまでも対日関係ではなく韓国の歴史的文脈においてですが)が7:3の割合であったとするなら、金大中の功罪もやはり同じくらいの比率になりましょうか。すくなくとも、金大中は、盧武鉉やその支持基盤であった386世代の連中のような単純な“左派”とは一線を画すスケールの大きな政治家だったことは間違いありません。

 なお、金大中と彼の軌跡については、拙著『韓国現代史:切手でたどる60年』でもいろいろと取り上げておりますので、機会がありましたら、ご覧いただけると幸いです。

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