2007-06-10 Sun 08:23
1967年6月5~10日の第3次中東戦争からちょうど40年になりました。というわけで、今日はこの1枚を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)
これは、第3次中東戦争の帰趨が決した後の1967年6月22日、エジプトが発行した「パレスチナ防衛のためのアラブの団結」を訴えるためのプロパガンダ切手です。 1967年4月、シリア、イスラエル両国の空軍が国境地帯で空中戦を展開し、シリアのミグ戦闘機6機が撃墜される事件が発生。これを機に、軍事的緊張は一挙に高まり、アラブ世界では、“アラブの盟主”であったナセルにイスラエルへの実力行使を求める世論が沸騰します。当初、慎重姿勢を保っていたナセルも、同年5月14日、アラブ諸国からの要請を拒否しきれずに、シナイ半島に兵力を進駐させ、第2次中東戦争の終結以来駐留を続けていた国連緊急軍に撤兵を要求。同月22日、イスラエルにとって紅海への出口となるチラン海峡を再び封鎖しました。 アラブ諸国はナセルの決断を歓迎し、5月30日にはヨルダンとエジプトとの間で相互防衛条約が調印されたほか、エジプトとシリア、ヨルダンの間では軍事同盟が結成されます。さらに、イラク、クウェート、スーダン、アルジェリアの各国も有事の際の派兵を約束。イスラエルは周囲を完全に包囲されてしまいます。 これに対して、イスラエルはアラブ諸国軍に対する戦闘準備を急ぎ、先制攻撃を計画。当初、米国はイスラエルの先制攻撃に反対し、問題の政治的解決を求めましたが、最終的には、和平解決のための具体的行動をとる用意がないことをイスラエルに通告します。これを受けて、1967年6月5日、イスラエルはアラブ諸国軍に対する先制攻撃を開始しました。第3次中東戦争の勃発です。 戦争の勝敗は、開戦早々、イスラエル空軍が、エジプト、ヨルダン、シリア、イラク各国の空軍基地を壊滅状態に追い込んだことによって、早々に決まってしまいます。イスラエル軍は早くも6月7日には東エルサレムを占領し、同月10日にはゴラン高原のシリア軍が潰滅。この間、6月8日には国連安保理の勧告を受けて、エジプトが無条件停戦に応じ、シリアも10日には停戦に応じ、戦争はわずか6日間でアラブ側の惨敗に終わります。イスラエルが、この戦争を誇らしげに“6日戦争”と呼ぶのはこのためです。 第3次中東戦争の結果、イスラエルのエルサレムを含む広大な占領地を得て、その領土は一挙に戦前の三倍に拡大。一方、アラブ世界は、イスラエルとの圧倒的な戦力差を見せ付けられ、パレスチナ解放=イスラエル国家の解体という政治目標は全く現実味のないものであることが白日の下にさらされてしまいます。エジプトやシリア、イラクなどの国家イデオロギーであったアラブ民族主義の権威は地に堕ち、アラブ民族主義の象徴的な存在であったナセルは辞意を表明。結局、ナセルはエジプト国民の支持により辞意を撤回するものの、もはや、彼の掲げるアラブ統一の夢は封印されてしまうのです。 今回の切手は、そうした状況の下で発行されたもので、開戦前の昂揚した雰囲気の中で制作準備が開始されたものの、実際に切手が出来上がったときには、すでに戦争はエジプトの敗戦というかたちで決着していました。 このため、切手に表現されている理念もすでに空文化していたわけですが、それでも、こうした切手が発行されたのは、依然としてナセルが体現してきた“夢”を信じたいという空気が当時のエジプト国内に充満していたからなのかもしれません。それだけに、この切手を見ると、僕には、滑稽さを通り越して、痛ましさが充満しているように感じられてならないのです。 なお、第3次中東戦争と切手・郵便に関しては、以前、『中東の誕生』という本でまとめてみたことがあります。よろしかったら、ぜひ、ご一読いただけると幸いです。 |
#709 「世の中の気分」
というものがよく分かる切手ですね。よく、国家が国民の気分をあおるために発行する場合も多いのですが。
イスラエルは、アラブ国家の国民にとって「目の中のとげ」のようなものなのでしょう。 #716 コメントありがとうございます
muraki様
現代アラブの病理(あえてこういう表現をしますが)の一つに、とにかくイスラエルのせいにしておけば丸く収まるという心性があります。たしかに、イスラエル国家の存在やイスラエルとの戦争状態が続いたことが彼らの国家建設にとって大きなダメージを与えたことは事実ですが、経済政策の失敗の原因をイスラエルという外的なものに求めて、自分たちの責任を真摯に反省しないという姿勢からは何も生れてこないように思います。 このあたりをどう克服するのか/できるか、という点が、彼らにとって最大の課題のはずなのですが、なかなか、そういうストレートな指摘をする人は多くないみたいですね。 #749 承認待ちコメント
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