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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 大韓航空機爆破事件と切手
2009-03-11 Wed 17:22
 けさ、北朝鮮による拉致被害者田口八重子さんの親族が、大韓航空機爆破事件の実行犯で北朝鮮の元工作員・金賢姫と韓国・釜山市で面会しました。というわけで、こんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

 金日成モンゴル訪問

 これは、1988年8月30日に北朝鮮が発行した金日成モンゴル訪問の記念切手です。

 韓国の大統領選挙とソウル・オリンピックを目前に控えた1987年11月、北朝鮮工作員の金勝一(日本の偽造パスポートで蜂谷真一と名乗っていた)と金賢姫(同じく蜂谷真由美と名乗っていた)がバクダード発バハレーン経由ソウル行きの大韓航空機858便を爆破しました。いわゆる大韓航空機爆破事件です。

 当初、北朝鮮側は、事件は大統領選挙を控え与党候補・盧泰愚を当選させるための韓国側の自作自演であると主張していましたが、バハレーン当局に身柄を拘束され、韓国に移送された金賢姫(金勝一はバハレーンで取調べ中に服毒自殺)の供述により、事件が金正日の指示によるソウル・オリンピック妨害のための謀略であったことが明らかになりました。

 事件の結果、国際社会は北朝鮮に対してテロ国家との印象を強くし、北朝鮮は国際的な孤立を一層深めます。特に、事件の実行犯がハンガリー経由でバグダードに入ったことから、ハンガリー当局は当初から事件が北朝鮮による謀略であることを察知し、ハンガリーを通じて事件の真相は社会主義諸国にも知れ渡っていました。その結果、北朝鮮は社会主義諸国の反発も招き、事件直後、ソ連と中国もソウル・オリンピックへの参加を正式に表明しています。

 追い詰められた北朝鮮は、米韓合同演習(チームスピリット)をとらえて「朝鮮半島は戦争瀬戸際だ」と主張して戦争の危機を大々的に宣伝を大々的に行い、中国・ソ連に対して有事の際の支援を要請。しかし、当然のことながら、中ソ両国はこうした北朝鮮の主張をまともに相手にせず、かえって、北朝鮮に対する反感を募らせることになりました。

 こうした状況の中で1988年6月、北朝鮮の国家主席であった金日成がモンゴルを訪問します。このモンゴル訪問は大韓航空機爆破事件の以前から計画されていたもので、金は中国経由で二日かけてウランバートルへ到着しましたが、途中の全通過駅で金は中国側の“出迎え”を受け、要人が列車に乗り込んでウランバートルまで同行しています。また、ウランバートル到着時には、ソ連側要人が金を出迎えたほか、帰路、ハバロフスク近郊でのソ連副首相との会談などが行われました。これらの機会をとらえて、中ソ両国は、北朝鮮に対して、これ以上ソウル・オリンピックを妨害するのであれば、平壌で開催予定の世界青年学生祭典(北朝鮮がソウル・オリンピックに対抗して企画したイベント)をボイコットする、として北朝鮮に圧力をかけたといわれています。

 結局、北朝鮮も中ソ両国の説得を受け入れざるをえず、ようやく、ソウル・オリンピックに対する妨害工作は中止されました。その後、北朝鮮は金日成の帰国から2ヶ月も経過した8月30日になって、今回ご紹介の切手を発行しています。上記のような政治的文脈を考えると、この記念切手には、金日成のモンゴル訪問時に中ソ両国の行った説得を北側が受け入れたというシグナルを出すために発行されたという側面もあったのではないかと推測されます。

 ちなみに、ソウル・オリンピックの開幕は、この切手が発行されてから間もない9月17日のことでした。

 なお、このあたりの事情は、拙著『韓国現代史:切手でたどる60年』でもいろいろとご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。

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