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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 チベット民族蜂起記念日
2009-03-10 Tue 22:06
 きょう(3月10日)は、チベットの首都ラサで、1959年3月10日に中国共産政府の侵略に対する大規模な抗議行動が起こったチベット民族蜂起記念日です。今年は、事件から50周年の節目の年でもありますので、この切手を持ってきてみました。(画像はクリックで拡大されます)

 チベットの人民

 これは、1961年11月25日、中国が発行した“西蔵人民の再生”と題する記念切手の一枚で、中共支配下の子どもたちが描かれています。いわゆるチベット蜂起の後、中国が発行したチベット関連の最初の切手ですので、切手のタイトルそのものにも大きな意味があるのですが、どういうわけか、日本語版のカタログでは切手の表題は「チベットの人民」と訳されています。(ただし、英訳はオリジナル通り“Rebirth of the Xizang People”となっています)

 1951年4月、チベットに対する軍事侵略を開始した中国共産政府は、5月23日、チベットに対して「中央人民政府とチベット地方政府のチベット平和解放に関する協定」(いわゆる17条協定)を押し付け、チベットの独立を奪いました。これに対して、チベット側では1956年以降、カムやアムド地方での武装反乱が始まります。抵抗運動を何とか抑え込みたい中国側はチベット東部には人民解放軍を増派するだけでなく、チベットの村や僧院に対して制裁攻撃を実施。人民解放軍の司令官はポタラ宮やダライ・ラマ14世を攻撃するとの恫喝も行っていました。

 こうした状況の中で、1959年3月1日、中国側がダライ・ラマを観劇に招待します。そして、会合の前日の3月9日、人民解放軍陸軍の将校たちは、ダライ・ラマの観劇に際してはボディガードを同行させないことや、ダライ・ラマ14世が宮殿から会見場所の人民解放軍駐屯地に移動する際にも公式な儀式を行わないことを強く要求。これに対して、中国がダライ・ラマの監禁ないしは誘拐をたくらんでいると察知したチベットの人々は、翌10日、ダライ・ラマが宮殿から連れ出されるのを防ごうと宮殿を取り囲みました。

 事態が緊迫する中で、3月12日、チベットの人々は独立を宣言。ラサの通りにはバリケードが築かれるとともに、インドの領事に対してもチベット支援の訴えが行われました。そして、3月17日、ついにダライ・ラマの宮殿の近くに2発の砲弾が着弾したことで、ダライ・ラマは亡命を決断するのです。

 一連の混乱の中で、チベット亡命政府の推定値によると、およそ8万6000人のチベット人が亡くなり、ノルブリンカ宮殿には、約800発の砲弾が打ち込まれました。また、ラサの三大寺院であるサラ、ガンデン、デプンは砲撃によって深刻な損傷を受け、ラサ市周辺の僧院や寺院は略奪もしくは徹底的に破壊されました。ラサに残ったダライ・ラマのボディガードたちは、数千人の僧侶とともに処刑されまています。

 こうした血まみれの虐殺劇の後に、事件が一段落したことを記念して中国側が発行したのが、今回ご紹介の切手です。無邪気に絵を書く子どもたちのほのぼのとしたデザインですが、彼らの傍らのカバンには中国共産党を案じさせる星のマークがしっかりと入っており、彼らに対して“中国人”としての洗脳教育を行っていこうという中国共産政府の意図が透けて見えています。

 それにしても、現実に中国の圧政下で生活していかざるを得ないチベットの子どもたちは、現在なお、なによりもまず“面従腹背”という処世の知恵を覚えなければ生きていけないわけで、そのことを考えるとなんとも胸が痛みます。
 

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