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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 リビアで暫定統一政府が発足
2021-03-12 Fri 03:25
 国が東西に分裂していたリビアの代表議会は、10日(現地時間)、アブドゥルハミド・ダバイバ(ドベイバとも)暫定首相が率いる新内閣を賛成多数で信任し、東西の2勢力に代わる統一政府が発足しました。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

      リビア・2月17日革命(2012)

 これは、2012年1月25日、カダフィ政権崩壊後最初の切手としてリビアで発行された“2月17日革命”の記念切手で、国土の形をしたリビア国旗が描かれています。

 2010年末のテュニジアのジャスミン革命に端を発した“アラブの春”は、2011年に入るとリビアにも波及し、インターネット上では2月17日を“怒りの日”としてリビア各地で反政府デモを行うよう、呼びかけが行われていました。

 こうした状況の下、2月15日、ベンガジで拘留中の人権活動家の弁護士の釈放を求める大規模デモが発生し、警察官を含む38人が負傷します。政府のデモ弾圧に対する抗議として、16日と17日にはリビア各地で反政府デモが行われると、カダフィ政権支持派もカウンターのデモを行い、17日以降、リビアは内戦状態に突入しました。これが、今回ご紹介の切手の題材となっている“2月17日革命”の始まりとなります。

 2月27日、カダフィ政権に反旗を翻して辞任したアブドルジャリル前司法書記が、ベンガジにて暫定政権として“リビア国民評議会”設立を宣言。評議会側はNATO(北大西洋条約機構)などから軍事的な支援を受け、同年8月23日に首都トリポリを制圧しました。10月20日にはカダフィがスルトで殺害され、42年間続いたカダフィ政権は崩壊。これを受けて、10月23日、評議会はリビア全土の解放を宣言しました。今回ご紹介の切手は、こうした状況を受けて、革命の成就を記念して国民評議会が発行したものです。

 ところで、リビア国家はもともと、東部のキレナイカを母体に、西北沿岸部のトリポリタニアと西南内陸部のフェザーンが連合して成立した経緯があり、潜在的に地域間対立を抱えていました。カダフィ政権時代には地域間の対立は強権で封じられていましたが、カダフィ政権崩壊後の2012年3月6日、リビア東部の有力部族や民兵組織の指導者らがベンガジで会議を行い、“キレナイカ暫定評議会”の樹立を宣言。トリポリを拠点とする国民評議会とは別に、旧キレナイカ地域での自治を行うことを決定します。これに対して、国民評議会は彼らの行為を国家を分断するものとして非難し、対立が深まりました。

 一方、トリポリでは、2012年7月7日、60年ぶりに国民全体会議(定数200。以下、国民会議)の選挙が行われ、国民勢力連合が39議席、ムスリム同胞団系の公正建設党が17議席、残りの議席は各中小政党が獲得。国民評議会は同年8月8日に権限を国民会議に移譲して解散し、1年以内の新憲法制定と正式政府発足を目指して、暫定政府が樹立されます。

 しかし、トリポリの暫定政府では、9月12日にムスタファー・アブーシャーグールが首相に指名されたものの、組閣できずに退陣。その後も首相が目まぐるしく後退するなどの混乱が続く中、旧カダフィ政権を支持する“緑のレジスタンス”が活動を開始。さらに、2014年に入ると、各地でイスラム系武装勢力の攻勢が活発化。彼らは、2014年6月25日に行われたリビア国民議会選挙で世俗派が圧勝したことを不服として武装闘争を展開。こうして、リビアは再び内戦状態に陥り、西(トリポリ)と東(トブルク)に事実上分裂しました。

 このため、国連主導で2015年に国民統一政府が樹立され、シラージュ暫定首相が就任しましたが、東部を拠点に武装組織のリビア国民軍を率いるハフタルが同政府をこれを拒否します。

 ちなみに、ハフタルはイスラム原理主義勢力と距離を置いていた旧カダフィ独裁政権の軍高官で、イスラム過激派の排除を掲げて、サウジやエジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、ロシア等の支援を受けていましたが、国連が支援してきたシラージュ暫定政権はイスラム勢力と近く、サウジと対立するカタールやトルコなどが後ろ盾となっていました。

 特に、トルコは、旧オスマン帝国時代にリビアを支配してきたという歴史的経緯に加え、欧州向けのガス・パイプラインに関して沿岸国の計画から排除されてきたこともあり、東地中海の対岸にあるリビアの排他的経済水域(EEZ)と自国のEEZを合わせて、このパイプラインの敷設予定ルートをふさぐためにも、シラージュ暫定政府との協力が不可欠という事情がありました。さらに、リビアの石油利権をめぐっては、フランスが東部の油田地帯に権益を持つことからハフタルを支援。一方、旧宗主国のイタリアは、自国の油田の利権を確保すべく、暫定政権を支援しており、そのことが、さらに内戦を複雑化させます。

 こうした状況の下、2019年春、ハフタルのリビア国民軍はトリポリに向けて進撃を開始したものの、トリポリのシラージュ暫定政権側の抵抗に遭い、戦局は膠着。そこで、ロシアのプーチン大統領の側近が率いる民間軍事会社“ワグネル・グループ”が、兵器や戦車、無人機などをリビアに搬入して現地で活動。リビア国民軍の無人機による攻撃も増加しました。

 これに対して、暫定政府側は、2019年11月、トルコとの間で、トルコが暫定政府の部隊に訓練や武器を提供するほか、共同軍事計画に関して助言したり、人員を派遣したりすることなども定めた軍事協力の覚書に合意。翌2020年1月、暫定政権側の要請を受けるというかたちでトルコがリビアに派兵し、同年6月、暫定政権がトリポリを奪還します。

 これを受けて、2020年10月にはシラージュ暫定政権とリビア国民軍の間で停戦合意が成立。2021年2月には、リビアの各政治勢力の協議により、実業家出身のアブドゥルハミド・ダバイバを暫定首相に選出したうえで、彼が提出した組閣名簿案をリビア東部に疎開していた代表議会が審議していましたが、このたび賛成多数で承認され、暫定統一政府が発足したというわけです。

 今後、暫定統一政府は、ことし12月24日に予定されている大統領選と議会選までの統治を担当することになっていますが、昨年の停戦合意に盛り込まれていた外国人雇兵の退去は実現しておらず、先行きは楽観できないのが実情です。
 
 なお、拙著『世界はいつでも不安定』では、リビアの内戦について、シリア内戦やナゴルノ・カラバフ紛争と連動して、ロシアとトルコがどのように動いたかという観点からまとめています。機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。


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