fc2ブログ
内藤陽介 Yosuke NAITO
http://yosukenaito.blog40.fc2.com/
World Wide Weblog
<!-【↓2カラムテーブルここから↓】-->
 “アラブの春”から10年
2020-12-17 Thu 01:42
 2010年12月17日、いわゆる“アラブの春”の発端となったテュニジア人青年、モハメド・ブアジジの焼身自殺事件が起きてから、ちょうど10年になりました。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

      テュニジア・モハメド・ブアジジ

 これは、2011年3月25日、テュニジアが発行した“1月14日革命(ジャスミン革命)”の記念切手のうち、モハメド・ブアジジを義士として讃えた1枚です。

 モハメド・ブアジジは、1984年3月29日、テュニジア中央部のシディ・ブー・ジドで、建設労働者の子として生まれました。幼くして父親を亡くし、母親の再婚相手(ブアジジの叔父)も健康に問題があって定職に就けなかったため、家計を助けるため、10歳の頃からさまざまな仕事を始め、10代後半には高校も中退しています。

 2010年頃のテュニジアは、23年間続いたベンアリ政権下で政治腐敗が進むとともに、3.8%という経済成長率とは裏腹に、若年失業率は30%近くにも達するなど、経済成長の恩恵からはじかれた若年層の間に不満が鬱積していました。

 こうした状況の下で、2010年12月17日、シディ・ブー・ジドで露天商を営んでいたモハメド・ブアジジは、販売の許可がないことを理由に地方役人がによって野菜と秤を没収されたうえ、役所の女性職員から侮辱を受けました。その後、ブアジジは没収された秤の返還を役所に求めたところ、賄賂を要求されたため、いったんは引き揚げましたが、同日昼頃、再度役所を訪れ、抗議の焼身自殺を行いました。

 その様子を撮影した動画が、ブアジジの従兄弟のアリ・ブアジジによってフェイスブックに投稿され、さらにアルジャジーラによって報じられることになり、長期独裁政権に対する不満が爆発。暴動・ストライキは急速に拡大し、2011年1月14日、ベンアリは政権は崩壊に追い込まれました。いわゆるジャスミン革命です。

 その後、ジャスミン革命はアラブ世界に波及し、ヨルダンでは2月1日にサミール・リファーイー内閣が総辞職。エジプトでは1月25日以降、大規模な反政府抗議運動が発生し、2月11日、ホスニー・ムバーラク政権が退陣しましたが、革命政権は明らかに政権担当能力を欠いており、社会的・経済的混乱が蔓延したため、2013年にはクーデターが発生し、準軍事政権が発足して事態の収拾が図られました。

 一方、ペルシャ湾岸のバハレーンでも反政府運動を政府の治安部隊が強制排除して死者が発生。アラビア半島のイエメンでは、サーリフ大統領の退陣を求める反政府デモが頻発し、サーリフはいったん次期大統領選挙への不出馬を表明したものの、後に撤回するなどの混乱から内戦に発展しています。

 また、北アフリカのリビアでも2月17日にはカダフィ退陣を要求するデモが発生し、8月24日には首都トリポリが陥落して、カダフィ政権が崩壊しましたが、その後は、いったんは新政権が成立したものの、2014年に西(トリポリ)と東(トブルク)に分裂し、内戦状態に陥ってます。

 さらに、シリアでは3月18日に大規模な反政府デモが発生しましたが、混乱に乗じてイスラム過激派が勢力を拡大し、大規模な内戦に発展しました。

 結局のところ、“アラブの春”は、その発端となったジャスミン革命のテュニジアでこそそれなりの民主化が進展したものの、それ以外の国や地域では、混乱を拡大させただけという残念な結果に終わっています。


★ 内藤陽介の最新刊 『日本人に忘れられたガダルカナル島の近現代史』 ★

      日本人に忘れられたガダルカナル島の近現代史カバー 本体1600円+税

 出版社からのコメント
 【中国の札束攻勢にソロモン諸島は陥落寸前!】
 日本軍の撤退後、悲劇の激戦地は
 いかなる歴史をたどり、
 中国はどのように浸透していったのか

 本書のご予約・ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、本書の目次をご覧いただけるほか、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 

別窓 | テュニジア | コメント:0 | トラックバック:0 | top↑
<< “工匠の技”無形文化遺産に | 郵便学者・内藤陽介のブログ |  ベートーヴェン生誕250年>>
この記事のコメント
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
| 郵便学者・内藤陽介のブログ |
<!-【↑2カラムテーブルここまで↑】-->
copyright © 2006 郵便学者・内藤陽介のブログ all rights reserved. template by [ALT-DESIGN@clip].
/