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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 ヴァヌアツ、中国漁船を異例の拿捕
2021-01-31 Sun 03:36
 南太平洋の島国、ヴァヌアツの警察は、きのう(30日)までに、同国海域内で違法操業をしていた疑いで中国漁船2隻とロシア船1隻を拿捕したことを発表しました。中国から巨額の支援を受け、南太平洋でも古くからの親中国家として知られるヴァヌアツ当局が中国漁船を拿捕するのは異例のことで、おそらく、今回が最初の事例とみられています。というわけで、きょうはこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      ヴァヌアツ・対中国交25年

 これは、2007年3月26日、ヴァヌアツと中国の国交樹立25周年を記念して用いられたヴァヌアツの記念印のオンピース(カバーの一部)です。ヴァヌアツ、中国ともに、両国の国交樹立に際しては記念印の使用のみで記念切手の発行はありませんでしたので、今回ご紹介の記念印は、2001年に発行された“(ユネスコの無形遺産にも指定された)砂絵”の切手に押印されています。

 現在のヴァヌアツの地は、1774年、ジェームズ・クックによる調査が行われ、“ニュー・ヘブリデス(ニュー・ヘブリディーズ)”と命名されました。その後、英仏による領有権争いを経て、1906年、ニュー・ヘブリデス諸島は両国の共同統治領(コンドミニアム)とすることで妥協が成立。1980年の独立まで、第二次大戦中の一時期を除き、コンドミニアム体制が続きました。

 さて、ニュー・ヘブリデスは1980年にヴァヌアツとして独立します。独立運動の指導者で初代大統領に就任したウォルター・リニは“メラネシア社会主義”の提唱者だったこともあり、リニ政権バヌア・アク党はメラネシア社会主義に基づく政策を採用し、1982年には中国と国交を樹立。東西冷戦下においては、東側諸国との友好関係を重視し、ソ連などから援助を受けていました。

 また、ヴァヌアツは独立当初から、海底資源をめぐって仏領ニューカレドニアと“大陸棚争い”をしていましたが、この件に関して、中国は一貫してヴァヌアツを支持。その見返りとして、ヴァヌアツは南シナ海における中国の領有権の主張を全面的に支持するという関係が築かれます。

 1991年にソ連が崩壊すると、親ソ派のリニは退陣を余儀なくされましたが、1998年に首相として返り咲きました。この頃から、ヴァヌアツと中国の経済的な関係が徐々に強まり、2002年にはヴァヌアツと中国との貿易総額は約131万8000ドルに到達。そのうちの100万ドル以上が中国からの衣料品、薬品、食料品、軽工業製品などの輸入で占められるなど、ヴァヌアツ経済の対中依存が大きく進みました。さらに、2005年には中国中央電視台がヴァヌアツでテレビ放送を開始し、中国のメディアによるヴァヌアツ国民への世論捜査も開始されています。

 2006年には両国間で経済協力協定が調印されると、中国(大陸)系企業のヴァヌアツ進出は加速度的に進み、その結果、2018年までにヴァヌアツの対中債務は2億2200万ドルにまで拡大。文字通り、中国の債務漬けになった状態で、2018年4月にはヴァヌアツに中国の海軍基地を建設するための協議が進められているとの報道が一部でなされ、米豪両国が対応に追われる一幕もありました。

 このように、ヴァヌアツに対する中国のプレゼンスは絶大なものがありましたが、2021年1月19日、ヴァヌアツ当局の巡視船が同国北方のヒウ島付近で違法操業の疑いのある中国漁船2隻を拿捕し、中国籍の乗組員14人を拘束。さらに、中国漁船を首都ポートビラに連行する過程で、やはり、違法操業の疑いがあるとして、ロシア船1隻をルーガンヴィル付近で発見し、拿捕しています。

 ロンドンを拠点とする海外開発研究所が昨年発表した報告書によると、中国籍の遠洋漁船は少なくとも推定1万7000隻ありますが、彼らは、船団としての統制が取れていなければ、慣行にも従わず、世界の違法操業の“最も重大な当事者”になっていることが指摘されています。また、南太平洋の域内大国であるオーストラリアは、近年、中国が南太平洋で急速に勢力を拡大していることに加え、自国内でも長年にわたって中国が浸透工作を行ってきたことが証拠と共に明らかになったことなどから、中国に対する警戒感を強め、豪中対立が深刻になっています。

 こうしたこともあり、南太平洋における親中国家の筆頭格といわれてきたヴァヌアツとしても、さすがに、これまでのように、中国の違法操業を野放しのままにはできなくなり、明らかに悪質な事例として、今回の拿捕に踏み切ったのでしょう。ただし、ヴァヌアツ経済が中国に大きく依存している状況には大きな変化はありませんので、今回の一件だけで、ヴァヌアツが対中関係を見直すとは考えにくいのが実情です。

 あるいは、他の南太平洋諸国同様、ヴァヌアツも政治腐敗が深刻な問題となっていますが、昨今のコロナ禍を機に、政府高官の汚職はますますひどくなっているとの報道もあり、その点からすると、中露両国を本気で怒らせない程度に違法操業を取り締まることで、国内の政権に対する不満を逸らそうという意図があったということなのかもしれません。

 なお、南太平洋において、近年、中国が急速に勢力を拡大していった経緯については、拙著『日本人に忘れられたガダルカナル島の近現代史』でもまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。


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