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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 中国切手にヴェトナム猛反発
2013-09-17 Tue 11:15
 きのう(16日)付の『環球時報』によると、ヴェトナムの関総局は全国の税関に対し、“同国の主権を侵害する中国の切手”の検査を強化するよう命じたそうです。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

       西沙諸島(中国・2013)

 これは、今年(2013年)5月19日に中国が普通切手として発行した「美しい中国」のうち、“三沙七連嶼”としてパラセル諸島(西沙諸島)を取り上げた1枚で、今回、ヴェトナム政府が問題視したものです。西沙諸島は南シナ海に浮かぶサンゴ礁の小島群で、ここでいう“三沙”は、同諸島のウッディー島(永興島)・ツリー島(趙述島)・トリトン島(中建島)を意味しています。

 パラセル諸島に関しては、フランス領インドシナ時代のアンナンが、1926年、領有を前提とした調査活動を行い、1938年以降、仏印部隊が常駐していました。

 第一次インドシナ戦争の結果、1954年にフランスは撤退し、ヴェトナムは北緯17度線で南北に分割されましたが、北緯16度30分の位置にある西沙諸島に関しては、上記のような経緯からすると、ヴェトナム国(南ヴェトナム)が継承するのが自然と見られていました。ところが、1956年、中国は突如、パラセル諸島に侵攻して東半分を占領。西半分を領有する南ヴェトナムと対峙することになります。さらに、ヴェトナム戦争末期の1974年1月には、中国はパラセル諸島西半部にも侵攻し、南ヴェトナム軍を排除して同諸島を完全に占領してしまいました。以後、パラセル諸島は中国の実効支配下に置かれています。

 ヴェトナム戦争の時代、北ヴェトナム(ヴェトナム民主共和国)は、中国からの援助を受けているという建前もあって、中国による南ヴェトナム領への侵攻に対しては事実上黙認せざるを得ませんでしたが、当然のことながら、ヴェトナム戦争が終結し統一ヴェトナムが発足すると、1979年の中越紛争もあって、西沙諸島の領有権問題はヴェトナムにとって中国による侵略の脅威を象徴するもののひとつとなりました。

 さて、今回の切手に関しては、すでにヴェトナム側は中国に対して抗議し、切手の回収を求めているとのことで、ベトナム郵政の担当者も「中国側は直ちに切手を廃棄し、ベトナムの主権を尊重すべきだ」とコメントしています。もっとも、中国側としては、西沙諸島が自国領であるということを内外に広くアピールするため、いわば確信犯的にこの切手を発行しているわけですから、ヴェトナム側の抗議をまともに相手にするとは思えません。

 そうなると、今回ご紹介の切手を貼って中国からヴェトナム宛に差し出された郵便物が、実際にどういう扱いを受けるのか、非常に興味があるところですな。可能性としては、“不適切な切手が貼られているため受け取り拒否”として差出人にそのまま返送問題の切手を黒塗りして宛先に配達切手はそのままで料金未納扱いとして受取人から不足料を徴収、などのパターンが考えられますが、いずれにせよ、その実物はなんとしても入手したいものです。

 なお、切手と領土問題の関係については、拙著『事情のある国の切手ほど面白い』でもいろいろなケースを取り上げてご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。


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