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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 日韓請求権協定で解決済み
2021-01-09 Sat 09:09
 いわゆる元慰安婦女性12人(故人を含む)が日本政府に損害賠償を求めた訴訟で、韓国のソウル中央地裁は、きのう(8日)、1965年の日韓請求権協定で韓国人の個人請求権問題は解決済みだとの日本側主張を退け、原告の請求通り1人当たり1億ウォン(約950万円)の支払いを命じる判決を言い渡しました。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

      韓国・第2次経済建設(4大河川流域の開発)

 これは、1971年12月5日、韓国が発行した(日本の資金援助による)第2次経済開発5ヵ年計画の宣伝切手のうち、“4大河川(漢江洛東江、錦江、栄山江)流域の開発”を取り上げた1枚です。

 1965年6月22日、「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約」(通称・日韓基本条約)および付属の諸協定が調印されました。同条約の主な内容は以下の通りです。

 ①両国間に外交・領事関係が開設され、大使級の外交使節が交換される(第1条)。
 ②1910年8月22日(=日本による朝鮮統治の根拠となった「韓国併合ニ関スル条約」の調印日)以前に日本と大韓帝国の間で結ばれた条約等はすべて「もはや無効である」ことが確認される(第2条)。
 ③韓国は国連総会決議195号IIIに明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府である(=北朝鮮は正規の国家ではなく、朝鮮の北半部は彼らによって不法占拠されている)ことが確認される(第3条)。
 ④両国は相互の関係で国連憲章の原則を指針とする(第4条)。
 ⑤貿易、海運、その他の通商関係に関する条約等の締結のため、速やかに交渉を開始する(第5-6条)。

 日韓基本条約とともに、両国間では「漁業協定」、「財産および請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」、「日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定(日韓法的地位協定)」、「文化財及び文化協力に関する協定」、「紛争解決に関する交換公文」など多くの合意が署名され、両国の関係は“正常化”されました。

 「財産および請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」では、日本は韓国に対し、朝鮮統治時代に投資した資本及び日本人の個別財産の全てを放棄するとともに、約11億ドルの無償資金と借款を援助すること、韓国は対日請求権を放棄することで合意が成立しており、日本統治時代の建造物もすべて韓国側に無償で譲渡されました。

 また、 “請求権”の中には、いわゆる慰安婦や徴用工を含め民間人への補償も全て含まれています。じっさい、解放後に死亡した者の遺族、傷痍軍人、被爆者、在日コリアンや在サハリン等の在外コリアン、元慰安婦らを補償対象から除外したのは、ほかならぬ韓国政府です。

 なお、当時の韓国の国家予算は約3.5億ドルですから、“請求権”によって得られた11億ドルという資金が、韓国にとっていかに巨額のものであったか、お分かりいただけると思います。

 日本との国交正常化により巨額の援助資金を得た韓国政府は、ヴェトナム戦争に派兵した見返りに得られた米国からの経済援助とあわせて、1967年、今回ご紹介の切手の主題である第2次経済開発5カ年計画を発動。切手に描かれているような“河川の流域開発”をはじめ、高速道路や工場の建設などインフラや企業に集中的な投資を行い、“漢江の奇跡”と呼ばれる高度経済成長を実現しました。

 こうした経緯を考えれば、日韓基本条約に伴って日本から得た資金を、当時の韓国政府が個人補償に使わなかったからといって、それは韓国政府の判断(その判断が大局的にみれば誤っていなかったことは、その後の歴史が証明しています)によるもので、わが国がとやかく言うべき筋合いのものではありません。

 ところで、日韓基本条約に関しては、当初から、条約の基本的な理解が日韓両国で異なっていることが日本の国会でも問題視されていました。

 すなわち、条約第2条の「もはや無効である」との文言に関して、日本側は、韓国併合条約は(それが締結された1910年の時点では合法であったが)日韓基本条約を結ぶことによって無効となったと解釈していたのに対して、韓国側は、併合条約そのものが(当初から)無効であったと解釈し、国民にもそのように説明していました。

 また、第3条の“朝鮮にある唯一の合法的な政府”との文言に関しても、韓国側は「軍事境界線以北を含む全朝鮮における正統政府であることを日本が承認した」と解釈し、国内でもそのように説明していましたが、日本の外務省は「休戦ライン以北に事実上の政権があるということを念頭に置きながら今回の初版の取り決めを行っ」たと説明しており、「北鮮(ママ)に関する限りは全然触れていない」との立場をとっていました。

 当然のことながら、こうした基本的な部分での解釈の相違には、将来的に深刻な問題を種々生じる恐れがあるのではないかとの懸念も強かったのですが、当時の椎名悦三郎外相は「われわれは韓国当局がどういう場合にどういう説明をしようと、あくまで条約の成分に従って解釈するものである」、「そういうことにあまり心を弄する必要はないものであるという基本的な立場」を取っていると応じ、日本国内の慎重論ないしは反対論を押し切ってしまいました。

 もちろん、韓国併合条約は、常識的に考えれば、それが締結された1910年の時点では国際法上の瑕疵がない合法なものであり、同条約そのものが当初から無効だったという韓国側の認識には無理があります。そもそも、第二次大戦後の国際社会が韓国を“戦勝国”として扱われず、サンフランシスコ講和会議への参加も認めなかったことが、そのことを何よりも雄弁に物語っています。

 しかし、「韓国併合条約そのものが当初から無効だった」という韓国側の認識を、日韓基本条約の時点で完全に否定しておかなかったことが、その後、韓国が植民地支配に対する謝罪と賠償を要求し続ける一因となったという面は否定できません。彼らがそうした認識に立つ限り、そもそも日本による朝鮮統治そのものが無効である以上、朝鮮総督府による全ての政策には根拠がなく、それゆえ、日本統治下で朝鮮人が強いられた負担は不法なものであったとのロジックが導き出されることになるからです。

 もちろん、“歴史”をめぐる韓国側の無理な主張は明確に否定すべきものではあるのですが、日本側にも、彼らにそうした主張をさせる余地を残した詰めの甘さがあったことは十分に反省しなければなりますまい。

 この辺りの事情については、拙著『日韓基本条約』でも詳しくご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。

 * きのう(8日)の文化放送「おはよう寺ちゃん 活動中」の僕の出番は、無事、終了いたしました。リスナーの皆様には、この場をお借りして御礼申し上げます。なお、次回は2月5日(金)の予定です。引き続きよろしくお付き合いください。

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