2011-04-14 Thu 13:12
韓国釜山の古里原子力発電所1号機が電気供給系統の遮断機故障により、現地時間12日20時46分に運転を停止していたそうです。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1971年12月5日に韓国で発行された「第2次5カ年計画」の切手で、原子力発電所が描かれています。 植民地時代の朝鮮では、鴨緑江上流域など、主として現在の北朝鮮地域に設けられた大型発電所によって電力の需要がまかなわれていましたが、解放とそれに続く南北の分断により、それらの設備は北朝鮮の所有となりました。このため、当初こそ、北朝鮮から米軍政下の南朝鮮へも一定の送電が行われていたものの、冷戦の進行とともにその量は次第に減少。1948年5月、南朝鮮での単独選挙実施をきっかけに北朝鮮からの送電は完全に停止され、同年8月に発足した大韓民国はほとんど発電設備のない状態からのスタートを余儀なくされます。 このため、1956年2月、当時の李承晩政権は、アメリカと原子力協力協定を調印。これを受けて、1958年3月には原子力法を公布して原子力委員会を発足させ、1959年3月に設立された原子力研究所によって、具体的な原子力利用計画を策定していくことになります。 その後、李承晩政権末期から張勉政権時代の混乱の中で韓国内での原子力開発計画は一時的に停滞しますが、1961年に発足した朴正煕政権は5ヵ年計画の推進のための最優先課題の一つとして、電力事情の改善に積極的に取り組むことになります。 その一環として、韓国政府はアメリカのゼネラル・アトミック社の研究用原子炉TRIGA(“訓練”を意味するTraining、“研究”を意味するResearch、“放射性同位元素製造”を意味するIsotope production、メーカー名のGeneral Atomicsのそれぞれの頭文字からこの名がつけられた)を輸入。TRIGA原子炉は、1962年3月に臨界(核分裂が継続し、核物質が“燃料”として連鎖的にエネルギーを放出し続ける状態。原子炉など核エネルギーを取り出すための装置では臨界状態で運転が行われる。)となり、韓国でも原子力の時代が本格的に幕を開けることになりました。ただし、この段階では、韓国の原子力開発は試験的な段階に過ぎず、実際の電力需要は、各地の工業団地に建設された大型の火力発電所によってまかなうというのが現実的な解決方法でした。 その後、1960年代を通じて、韓国ではエネルギーの石油依存度が飛躍的に高まりましたが、そうした中で、第2次5ヵ年計画の最終年にあたる1971年11月、今回問題となった古里原発が初の商用原子力発電所として着工し、1972年5月10日に完工しました。今回ご紹介の切手に描かれている原子力発電所は、1971年12月という発行のタイミングからして、古里原発を意識してデザインが作られたと見るのが自然でしょう。 なお、最初の原子炉である1号機の組み立て工事は1972年3月に始まり、1977年の竣工を経て、1978年4月から運転が開始されました。なお、この1号機と次の2号機はターンキー契約(完成品受け渡し方式)で米国から輸入されていましたが、1978年の古里3、4号の頃から国産可能な部品を国産化する努力が始められ、以後、韓国の原子力技術も急激に発展することになります。 さて、福島原発の事故以来、韓国気象庁は「日本の東京電力福島第1原子力発電所から放出された放射性物質が韓国に直接流入する可能性はほとんどない」と繰り返し発表していますが、国民の異常な過剰反応が続いており、今月6日には、京畿道教育庁が、小学校の校長が裁量によって7日に休校措置(教職員だけ出勤)を取ることを認める通達を出したほか、環境保健市民センターとソウル環境連合女性委員会が、ソウル市鍾路区の世宗文化会館前で原子力を象徴する黄色い雨具を着て「放射能雨に当たらないようにしよう」などと気勢を上げたそうです。 こうした国内世論に加え、古里原発1号機は当初の設計寿命の30年(2007年6月まで)を過ぎており、政府の承認を得て2008年1月、10年間の稼働延長を決められたという事情もあり、故障当日の12日には、釜山地方弁護士会が1号機の運転停止を求める仮処分を釜山地方裁判所に申請していましたから、今回の故障は、なんともタイミングの悪い話となりましたが、まずは大事ではなく一安心というところでしょうか。 ちなみに、古里原発では、遮断器制御ケーブルと損傷した計測器などを取り替えた後、15日午後には平常通りに運転を再開する見通しだそうです。 なお、韓国の原子力政策の歴史については、拙著『韓国現代史』でもまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。 ★★★ イベントのご案内 ★★★ 以前の記事でも少しお話ししましたが、4月25日付で平凡社から拙著『切手百撰 昭和戦後』を上梓いたします。これにあわせて、下記のイベントに登場します。 ・4月30日(土) 15:00- 出版記念トーク 於 東京・浅草 都立産業貿易センター台東館6階特設会場 スタンプショウのイベントの一つとして、出版記念のトークを行います。また、会場内で『切手百撰 昭和戦後』をお買い上げの方に、素敵なプレゼントをご用意しております。(画像は、会場内に掲示予定のポスターです。こちらもご覧ください) ・5月7日(土) 10:15- 切手市場 於 東京・池袋 東京セミナー学院 詳細は主催者HPをご覧ください。最新作の『切手百撰 昭和戦後』を中心に、拙著を担いで行商に行きます。 どちらも入場無料ですので、ぜひ、遊びに来てください。 ★★★ 内藤陽介の最新刊 ★★★ マカオ紀行:世界遺産と歴史を歩く 彩流社(本体2850円+税) マカオはこんなに面白い! 30の世界遺産がひしめき合う街マカオ。 カジノ抜きでも楽しめる、マカオ歴史散歩の決定版! 歴史歩きの達人“郵便学者”内藤陽介がご案内。 全国書店・インターネット書店(amazon、bk1、boox store、coneco.net、DMM.com、HMV、JBOOK、livedoor BOOKS、Yahoo!ブックス、カラメル、紀伊国屋書店BookWeb、ゲオEショップ、ジュンク堂、セブンネットショッピング、丸善、楽天ブックスなど)で好評発売中! |
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