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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 クリスマス・イヴ
2020-12-24 Thu 00:25
 クリスマス・イヴの日(厳密にいうと、“イヴ”は日没からなのですが…笑)になりました。というわけで、ストレートにこの切手です。(画像はクリックで拡大されます。(画像はクリックで拡大されます)

      ソロモン諸島・クリスマス(1995・クリスマスツリー)

 これは、1995年11月6日にソロモン諸島が発行した同年のクリスマス切手のうち、クリスマス・ツリーの前でパンパイプを吹きながら精霊信仰の儀礼を行う男性と、それを見る洋服姿の母子が描かれています。

 ソロモン諸島の先住民と西洋人との本格的な交易は1840年代から始まりましたが、それと連動して、キリスト教の宣教師も来航するようになります。

 その嚆矢となったのが、1845年12月16日、サンタ・イサベル島ブゴトゥ地域に上陸したフランス人カトリックのエパル神父と12人の宣教師でした。彼らは上陸するや、ヨーロッパ製の鉄製武器で武装した先住民に襲撃され、エパルは殺害されてしまいます。他の宣教師たちはなんとか生き残り、サン・クリストバルに留まって布教活動を続けたものの、何人かは先住民に殺害され、文字通り、“餌食”となりました。こうしたこともあって、1852年、カトリック教会はソロモン諸島での布教を断念します。

 これに対して、ソロモン諸島に定着することに成功したのが、ジョン・コーリッジ・パティソンら英国国教会のメラネシアン・ミッションでした。

 パティソンは、1855年以降、ニュージーランドを拠点に太平洋地域での布教を行っていましたが、1861年、メラネシアン・ミッションが設立されると初代主教に就任。「ミッショナリーは大英帝国の付属物ではなく、政治的戦略の歯車として異教徒と接するのではない」として政治と宗教の分離を主張するとともに、部下の宣教師たちには、白人とメラネシア人を平等に扱い、能力に応じてメラネシア人も登用することや伝統文化を尊重することなどを厳命していました。また、メラネシア・ミッションは、1860年代にはニュージーランドからサツマイモをもたらすなど、地元との共存に努力したため、カトリックのように住民の強い反発を招くこともありませんでした。

 ところが、1871年9月20日、パティソンはサンタ・クルス島で“白人”であるという理由で島民によって殺害されてしまいます。その背景には、白人たちがソロモン諸島から先住民を拉致して、フィジーやオーストラリアのプランテーションでの労働力として働かせる“ブラック・バーディング”が横行していたという事情がありました。

 1893年の英領ソロモン諸島成立を経て、1896年、植民地行政の責任者である弁務官として現地に赴任したチャールズ・モリス・ウッドフォードは、ソロモン諸島の開発には外国人の投資が必要だと考えていましたが、当時のソロモン諸島は部族間抗争が激しく、治安は不安定でした。

 このため、ウッドフォードは、まず、農作に適した土地のあるガダルカナル島北部とニュージョージア島を中心に、キリスト教の宣教師とともに“平和化”に取り組み、1901年には先住民の間で長年続けられてきた“首狩り”の習慣も廃止されるなど、一定の成果を上げています。

 一方、フィジーやオーストラリアでの労働からソロモン諸島jに帰郷した者の中には、海外生活を通じてキリスト教に改宗した者も多く、彼らを通じて徐々にキリスト教に改宗する島民も増加。植民地政府の後押しもあり、宣教師たちがキリスト教の価値観として強調した“平和と(部族を超えた)結束”の理念が浸透していくことになります。

 当時の島民の間では、伝統的な土着宗教では祖先の霊や森の精霊などに対する信仰が篤かったのですが、宣教師たちは、過去の失敗を踏まえ、土着の信仰を否定するのではなく、彼らの伝統的な聖地へ自ら赴き、現地の精霊・祖霊よりもキリスト(教)の霊力の方が強いと説き、キリスト教がそれらを封じ込めることで社会は安定するというロジックで島民たちを感化していきました。いわば、最強の精霊としてキリスト(教)を人々に認知させたわけです。

 その結果、ソロモン諸島では伝統的な精霊信仰がキリスト教に従属しながら共存するという状況が作られていきます。その点において、素肌にペインティングした男たちが、キリスト教の象徴としてのクリスマス・ツリーの前で伝統的な精霊信仰のパフォーマンスを行っているという、この切手のデザインは、そうした精霊信仰とキリスト教の関係を象徴的に示しているといってよいでしょう。

 なお、その後も、ソロモン諸島においては土着の精霊信仰が政治的・社会的にも重要な意味を持ち続けるのですが、そのあたりについては、拙著『日本人に忘れられたガダルカナル島の近現代史』でもいろいろご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。


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 出版社からのコメント
 【中国の札束攻勢にソロモン諸島は陥落寸前!】
 日本軍の撤退後、悲劇の激戦地は
 いかなる歴史をたどり、
 中国はどのように浸透していったのか

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