2020-12-23 Wed 04:02
米上下両院は、21日(現地時間)、チベットでの人権弾圧を批判し、人権や信教の自由を擁護する法案(チベット人権法案)を賛成多数で可決しました。今後、同法案はホワイトハウスに送付され、大統領の署名を経て成立することになっています。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)
これは、2019年1月10日、同年2月5日の春節を前に、中国が発行した同年用の年賀切手で、ラサのポタラ宮を背景に、伝統的な民族服を着て新年の縁起物を捧げ持つチベット人男女が描かれています。原画作者は清華大学美術学院教授の吳冠英で、切手の左右に配された対聯の文字(雪月冰星春酒暖 吉祥興旺彩雲飛)は、中国を代表する書家で、先日(2020年11月5日)、92歳の天寿を全うした歐陽中石によるものです。 中国では、干支の動物を描くオーソドックスなデザインの年賀切手に加え、2015年から2019年まで、歡歡と喜喜という男女のキャラクターとローカルな正月風景を組み合わせたデザインした年賀切手として発行されていました。2015年と2016年の切手では歡歡と喜喜は現在の若者の服装(特定の民族を連想させる要素はない)で描かれていましたが、2017年からは“民族大団結”をテーマとして、歡歡と喜喜は、モンゴル人(2017年)、チワン人(2018年)、チベット人(2019年)の民族服姿で描かれました。 ちなみに、中国では、2014年に雲南省・昆明駅で、刃物を持った集団が通行人らを襲撃する無差別殺傷事件が発生し、31人が死亡、130人以上が負傷。公安当局は容疑者4人を射殺し、1人を拘束したうえで、“新疆分裂勢力による計画的かつ組織的な重大暴力テロ事件”と断定し、習近平は「独裁の仕組み」を活用して「テロリズム、侵入、分離独立」に対する「情け容赦は無用」の全面闘争を指示していました。 そうした方針の下、2016年、陳全国が新疆ウイグル自治区の党委書記、朱海侖が党委副書記兼政法委員会書記にそれぞれ抜擢され、翌2017年2月には、朱海侖が武装警察、公安部、民兵を集めた決起大会で「人民民主独裁の強力な拳で、全ての分離主義者とテロリストは粉砕する」と演説。以後、中国国内では強制収容所の数が急増したとされています。 歡歡と喜喜の年賀切手のテーマが“民族大団結”となったのもこうした政策の反映であることは明らかです。なお、歡歡と喜喜の年賀切手は2019年間で発行されたものの、2020年には発行されませんでした。その理由は明らかにされていませんが、2019年12月8日には新型コロナウイルスの最初の症例が報告されていますので、あるいは、その影響があったのかもしれません。 なお、今回ご紹介の切手が発行された2019年は、1959年3月10日にチベット民族蜂起が発生し、同17日にダライ・ラマ14世がインドに亡命してから60周年という節目の年に当たっていました。今回ご紹介の切手のテーマとしてチベットが取り上げられたのも、この機会をとらえて、あらためて、チベットが中国の一部であり、チベット人は中国共産党の指導の下で幸福に生活しているとの主張を強調しておこうという意図があったものと思われます。 もっとも、実際には、漢族の急激な流入により、チベットの伝統的な社会構造が破壊され続けていることもあって、強圧的な共産党の支配と強引な中国化・社会主義化への抵抗運動が続けられています。また、中国政府は、チベットの独立運動家やその支援者(とみなされた人々)に対しては容赦のない人権抑圧を日常的に行っており、そのことが国際社会から厳しく指弾されているのは周知のとおりです。 今回、米議会を通過した米国のチベット人権法案は、香港デモへの対応で中国を牽制する香港人権・民主主義法、ウイグル人への弾圧に対応を求めるウイグル人権法に続くもので、中国がダライ・ラマ14世の後継者選定に介入した場合、米国は制裁を検討すると明記しているほか、チベットの首府、ラサに米領事館の設置を認めない限り、在米中国領事館の新設を承認しないよう米政府に求めています。 チベット人権法案は、今年1月28日に下院で可決されていたものの、上院での審議は大幅に遅れ、今回、新型コロナウイルス危機の追加経済対策などと一括してまとめられた法案に盛り込まれて、上院を通過したという経緯があります。それだけに、トランプ大統領には1月20日の任期切れの前にぜひとも法案に署名していただき、2月12日の春節を前に、チベットの人々に少しでも「雪月冰星春酒暖 吉祥興旺彩雲飛」の気分を味あわせてあげてほしいですね。 ★ 内藤陽介の最新刊 『日本人に忘れられたガダルカナル島の近現代史』 ★ 本体1600円+税 出版社からのコメント 【中国の札束攻勢にソロモン諸島は陥落寸前!】 日本軍の撤退後、悲劇の激戦地は いかなる歴史をたどり、 中国はどのように浸透していったのか 本書のご予約・ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、本書の目次をご覧いただけるほか、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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