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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 日韓条約調印記念日
2020-06-22 Mon 04:30
 きょう(22日)は、1965年6月22日に日韓基本条約が調印されたことにちなむ“日韓条約調印記念日”です。というわけで、こんな切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      韓国・光復20年(太極旗と工場)

 これは、1965年8月15日に韓国が発行した“光復20年”の記念切手のうち、宙に浮かぶ太極旗の下、飛行機雲で描いた“20”の文字と工場街が描かれています。

 さて、1965年6月22日に調印された「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約」(通称・日韓基本条約)と付属の諸協定のおもな内容は以下の通りです。

 ①両国間に外交・領事関係が開設され、大使級の外交使節が交換される(第1条)。
 ②1910年8月22日(=日本による朝鮮統治の根拠となった「韓国併合ニ関スル条約」の調印日)以前に日本と大韓帝国の間で結ばれた条約等はすべて「もはや無効である」ことが確認される(第2条)。
 ③韓国は国連総会決議195号IIIに明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府である(=北朝鮮は正規の国家ではなく、朝鮮の北半部は彼らによって不法占拠されている)ことが確認される(第3条)。
 ④両国は相互の関係で国連憲章の原則を指針とする(第4条)。
 ⑤貿易、海運、その他の通商関係に関する条約等の締結のため、速やかに交渉を開始する(第5-6条)。

 日韓基本条約とともに、両国間では「漁業協定」、「財産および請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」、「日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定(日韓法的地位協定)」、「文化財及び文化協力に関する協定」、「紛争解決に関する交換公文」など多くの合意が署名され、両国の関係は“正常化”されました。

 このうち、「漁業協定」は、沿岸線から12海里までの水域を沿岸国が漁業に関して排他的管轄権を行使する水域と定め、これより以遠の水域は原則自由に操業することとされ、漁船の旗国(所属国)が当該漁船を取締まることができるという、いわゆる旗国主義が採用されていました。同協定により、1952年1月18日に韓国が一方的に宣言していた“平和線(李承晩ライン)”は消滅しましたが、竹島問題に関しては事実上の棚上げとなっています。

 ついで、「財産および請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」では、日本は韓国に対し、朝鮮統治時代に投資した資本及び日本人の個別財産の全てを放棄するとともに、約11億ドルの無償資金と借款を援助すること、韓国は対日請求権を放棄することで合意が成立しており、日本統治時代の建造物もすべて韓国側に無償で譲渡されました。また、 “請求権”の中には、いわゆる慰安婦や徴用工を含め民間人への補償も全て含まれています。じっさい、解放後に死亡した者の遺族、傷痍軍人、被爆者、在日コリアンや在サハリン等の在外コリアン、元慰安婦らを補償対象から除外したのは、ほかならぬ韓国政府でした。

 なお、当時の韓国の国家予算は約3.5億ドルですから、“請求権”によって得られた資金が、韓国にとっていかに巨額のものであったか、お分かりいただけると思います。こうした日本からの資金と、ヴェトナム戦争に派兵した見返りに得られた米国からの経済援助をもとに、韓国政府は道路やダム・工場の建設などインフラや企業に集中的な投資を行い、“漢江の奇跡”と呼ばれる高度経済成長を実現しました。それゆえ、“漢江の奇跡”の象徴して、しばしば切手にも取り上げられている高速道路なども、もとをただせば、そのかなりの部分が日本からの資金によるものといえます。

 その後、1965年の光復節前日の8月14日、韓国の国会は与党の民主共和党が単独で基本条約を批准。その翌日、光復節当日の15日に発行されたのが、今回ご紹介の切手です。従来の光復記念切手が、独立門や断ち切られた鎖、松明など、植民地支配からの解放のイメージをストレートに表現していたのに対して、今回ご紹介の切手では、光復節を祝いながらも、日本(の朝鮮統治)を否定するのではなく、むしろ、国交正常化によって日本から得られる経済支援が、韓国の経済成長に寄与することを想起させるような内容といるのも、上記のような時代背景を反映したものです。
 
 一方、日韓基本条約に関しては、日本国内でも、条約の基本的な理解が日韓両国で異なっていることが国会でも問題視されていました。

 すなわち、条約第2条の「もはや無効である」との文言に関して、日本側は、韓国併合条約は(それが締結された1910年の時点では合法であったが)日韓基本条約を結ぶことによって無効となったと解釈していたのに対して、韓国側は、併合条約そのものが(当初から)無効であったと解釈し、国民にもそのように説明していました。

 また、第3条の“朝鮮にある唯一の合法的な政府”との文言に関しても、韓国側は「軍事境界線以北を含む全朝鮮における正統政府であることを日本が承認した」と解釈し、国内でもそのように説明していましたが、日本の外務省は「休戦ライン以北に事実上の政権があるということを念頭に置きながら今回の初版の取り決めを行っ」たと説明しており、「北鮮(ママ)に関する限りは全然触れていない」との立場をとっていました。

 当然のことながら、こうした基本的な部分での解釈の相違には、将来的に深刻な問題を種々生じる恐れがあるのではないかとの懸念も強かったのですが、当時の椎名悦三郎外相は「われわれは韓国当局がどういう場合にどういう説明をしようと、あくまで条約の成分に従って解釈するものである」、「そういうことにあまり心を弄する必要はないものであるという基本的な立場」を取っていると応じ、日本国内の慎重論ないしは反対論を押し切ってしまいました。

 もちろん、韓国併合条約は、常識的に考えれば、それが締結された1910年の時点では国際法上の瑕疵がない合法なものであり、同条約そのものが当初から無効だったという韓国側の認識には無理があります。そもそも、第二次大戦後の国際社会が韓国を“戦勝国”として扱われず、サンフランシスコ講和会議への参加も認めなかったことが、そのことを何よりも雄弁に物語っています。

 しかし、「韓国併合条約そのものが当初から無効だった」という韓国側の認識を、日韓基本条約の時点で完全に否定しておかなかったことが、その後、韓国が植民地支配に対する謝罪と賠償を要求し続ける一因となったという面は否定できません。彼らがそうした認識に立つ限り、そもそも日本による朝鮮統治そのものが無効である以上、朝鮮総督府による全ての政策には根拠がなく、それゆえ、日本統治下で朝鮮人が強いられた負担は不法なものであったとのロジックが導き出されることになるからです。

 もちろん、“歴史”をめぐる韓国側の無理な主張は明確に否定すべきものではあるのですが、日本側にも、彼らにそうした主張をさせる余地を残した詰めの甘さがあったことを見落としてはなりますまい。

 なお、この辺りの事情については、拙著『日韓基本条約』でも詳しくご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。


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