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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 幻の中曽根切手
2019-11-30 Sat 05:21
 中曽根康弘元首相が、きのう(29日)、亡くなりました。享年101歳。謹んでご冥福をお祈りしつつ、きょうはこの切手をご紹介します。(画像はクリックで拡大されます。以下、肩書などは当時のもの)

      韓国・全斗煥訪日

 これは、1984年9月6日に韓国で発行された“全斗煥大統領日本訪問”の記念切手で、太極旗を背にした全斗煥と富士山が描かれています。

 当時の韓国では、大統領の外遊や国賓の訪韓などの際には、両国の国旗を背景に、大統領と相手国の元首ないしはそれに準じる人物の肖像を並べてデザインするのが通例でした。したがって、1984年の大統領訪日の記念切手であれば、全斗煥と昭和天皇または中曽根首相の肖像を並べて取り上げるのが自然な対応となります。特に、中曽根に関しては、1983年4月のASEAN諸国歴訪の際、訪問国の一つであったフィリピンでは、マルコス大統領と並んだ形での肖像切手が発行されていたこともあって、全=中曽根の2人が並んだ切手が発行される可能性も高いとみられていました。

 しかし、そもそも、当時の韓国内には、大統領の訪日に対して賛否が二分されており、賛成派が、両国の不幸な過去を清算し、新しい両国関係を形成するために大統領の訪日は不可欠であると主張したのに対して、反対派は、国民感情を考慮すれば大統領の訪日は時期尚早と反論していました。こうしたこともあって、実際に発行された記念切手では、全斗煥と太極旗は描かれているものの、日本に関しては、日章旗もなければ肖像もなく、富士山のみで表現するという異例なスタイルとなり、中曽根切手も幻に終わっています。

 さて、1984年の全斗煥訪日は、前年(1983年)1月の中曽根訪韓の答礼として、9月6日から8日までの3日間の日程で行われたもので、韓国の国家元首が日本を公式訪問したのはこれが最初です。

 9月6日、出発に先立ち、全斗煥は金浦空港で次のように演説しました。

 「韓日間には不幸な歴史があり、忘れがたい痛手が我々の心のそこに残っていることも、私はよく承知している。しかし、今は未来のため前進すべきときであり、いつまでも過去にとらわれて前進を拒むべきではない…韓日両国の関係はいまや新しい時代に入ったのである…このような新しい幕開けのため、日本訪問を決意した」

 6日の晩に開催された歓迎晩餐会で昭和天皇が「今世紀の一時期において両国の間に不幸な過去が存在したことは誠に遺憾であり、再び繰り返されてはならないと思います」と述べられたことを受け、韓国政府は「意義ある表明であり過去に対する真摯な反省と見られる」とのコメントを発表。国際慣例では、国家間では“謝罪”という表現を使わないことを考えると、韓国政府としても、日本の象徴である天皇が“遺憾の意”を示したことは、実質的に“謝罪”の表明であるとの見解を示したわけです。

 一方、両国首脳の会談は6・7日の両日にわたって行われ、北朝鮮問題への対応や在日韓国人の地位向上、貿易不均衡の是正、産業技術協力の拡大、サハリン残留韓国人問題などが話し合われています。また、政府要人の名前について、お互い、現地語で呼ぶようにしようという合意がなされ、メディアもこれに倣うことになったため、一部の報道では、全斗煥はゼントカンとして来日し、チョンドファンとして帰国するということになりました。

 そして、8日、「朝鮮半島における平和と安全の維持が、日本を含む東アジアの平和にとって重要であり…韓日両国間の幅広い経済協力関係を増進させ、貿易均衡を図ることが重要である」との両国首脳の共同声明が発表され、歴史的な全斗煥訪日は無事に終了しました。

 なお、この辺りの事情については、拙著『韓国現代史:切手でたどる60年』でもご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。
 

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