2019-07-28 Sun 04:19
中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案などへの大規模な抗議デモが毎週末行われている香港の元朗で、きのう(27日)、警察の許可が下りない中、21日のテロ事件に対する抗議デモが行われ、およそ29万人が参加。これに対して、警察が催涙弾などを使って強制排除に乗り出し、この記事を書いている時点で、17人が負傷(うち2人が重傷)しました。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1994年、英領時代の香港が発行した“香港警察150年”の記念切手のうち、1900年の警察官として、トーピー帽スタイルの中国系警察官とターバン姿のインド系警察官が描かれています。 アヘン戦争やアロー戦争などの戦闘、太平天国の混乱、さらには、移民によって構成される不安定な社会構造などから、1860年代までの香港総督府は、レッセ・フェールの経済政策とは裏腹に、西洋系の民間人の2倍とも言われた数の軍隊と、大英帝国の中では当時最大規模といわれた警察組織を動員して、かなり強権的な植民地支配を行っていました。 英領香港における近代警察制度は1844年5月1日に発足しましたが、当初、総督府は地元の華人を警察官として採用することには消極的でした。そもそも、初期の香港への移住者の中には“犯罪者予備軍”とでも呼ぶべき人々が少なくなかったことに加え、中国系住民の間には外国人に対する反感・嫌悪感が抜きがたくあり、外国人に対する襲撃事件が頻発していたからです。じっさい、香港でも、1857年には、パン屋を経営していた張亜霖が総督府の要人を皆殺しにすべく、砒素を混ぜたパンを販売し、400人の英国人が犠牲になるという“毒入りパン事件”が起こっていました。 このため、総督府は華人を信用せず、英国人とインドで徴募したシーク教徒たちを中心に警察組織を立ち上げました。当然のことながら、彼らの多くは地元住民の言語である広東語を理解できず、強圧的に住民に接するものの、中国人を対象とした治安対策は不十分なものとならざるを得ません。また、治安維持のコストも総督府にとって大きな負担となりました。 そこで、1866年、総督府はヴィクトリア登録条例を発し、地域住民の推薦により総督が地域警邏員を任命できるとして、伝統的な華人社会の自警団的な組織を、半ば公的な性格を持つ地域警邏隊として取り込み始めました。この結果、1870年代以降、華人警察官の採用が大幅に増やされ、今回ご紹介の切手に見られるように、トーピー帽スタイルの中国系警察官とターバン姿のインド系警察官が街を闊歩する姿が日常的に見られるようになります。こうした“混成チーム”は西洋人の目から見ると香港独特の風俗として興味深いものに写ったようで、両者のスタイルの警察官を並べて撮影した写真は、たとえば、下の画像のように、当時の絵葉書にも盛んに取り上げられました。 さて、昨日の元朗でのデモは、21日のテロ事件に関して警察が事前に情報を得ていながらこれを放置し、対応も遅れたことへの反発が強まる中で計画されたもので、香港警察は「デモ参加者と地元住民が衝突する可能性が高い」として、デモ申請を認めない異例の判断を下していました。しかし、午後3時ごろから大通りには人々が集まり、暴行事件や警察などに抗議するデモが行われました。これに対して、午後5時すぎ深夜まで、警官隊は断続的に催涙弾を発射してデモ隊を強制排除。多数の市民が拘束されています。 香港の歴史書などでは、かつてのインド系警察官は、広東語が理解できず、地元とのしがらみもないがゆえに、住民に対してかなり手荒なことをした(できた)という記述を散見するのですが、その伝で行くと、現在の香港警察には広東語を解さず、北京語しか理解できない警察官も少なくないということなんでしょうかねぇ。 なお、英領香港時代の香港警察についてのエピソードは、拙著『香港歴史漫郵記』でもいろいろご紹介しておりますので、機械がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。 ★ 8月2日(金) 文化放送「おはよう寺ちゃん 活動中」 出演します!★ 8月2日(金)05:00~ 文化放送で放送の「おはよう寺ちゃん 活動中」に内藤がコメンテーターとして出演の予定です。番組は早朝5時のスタートですが、僕の出番は6時台になります。皆様、よろしくお願いします。なお、番組の詳細はこちらをご覧ください。 ★★ 内藤陽介の最新刊 『チェ・ゲバラとキューバ革命』 好評発売中!★★ 本体3900円+税 【出版元より】 盟友フィデル・カストロのバティスタ政権下での登場の背景から、“エルネスト時代”の運命的な出会い、モーターサイクル・ダイアリーズの旅、カストロとの劇的な邂逅、キューバ革命の詳細と広島訪問を含めたゲバラの外遊、国連での伝説的な演説、最期までを郵便資料でたどる。冷戦期、世界各国でのゲバラ関連郵便資料を駆使することで、今まで知られて来なかったゲバラの全貌を明らかする。 本書のご予約・ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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