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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 ビロビジャンに杉原千畝の顕彰プレート
2017-09-09 Sat 09:05
 第二次大戦中にナチス・ドイツに迫害され、亡命を希望するユダヤ人へのヴィザ発給に奮闘した外交官、杉原千畝氏の功績をたたえ、きのう(8日)、ロシア・ユダヤ自治州の州都ビロビジャンのシベリア鉄道駅で、記念プレートを設置する式典が開かれました。

      ソ連・ビロビジャン(1933)

 これは、1933年にソ連が発行したビロビジャンの労働者を描く切手です。

 ハバロフスクの西約150キロの地点にあるビロビジャンは、中国との国境近くのビラ川、ビジャン川沿いにあることが地名の由来です。

 ロシア革命後の内戦期、極東地域には、緩衝国家として極東共和国が樹立されていましたが、列強による干渉出兵の最後の兵力であった日本軍が1922年10月にシベリアから撤退すると、ボルシェビキ政権にとって同国の存在意義もなくなり、同年12月のソヴィエト社会主義共和国連邦(ソ連)の成立にあわせて、同国はソ連に吸収され、消滅しました。

 しかし、その後も、ソ連にとって極東情勢は必ずしも安泰ではなかったため、ふたたび、極東の緩衝地帯が必要とされるようになります。

 一方、ソ連領内のユダヤ系に関しては、当初、黒海沿岸のクリミア半島の一部に彼らを入植させた民族区を作る構想がありましたが、ユダヤ系を信用していなかったスターリンは、モスクワはもとより中央ロシアやウクライナから彼らを事実上追放するとともに、極東における防波堤として活用することを考えました。

 この結果、1927年、クリミア半島でのユダヤ民族区創設のプランは破棄され、翌1928年、「社会主義的な枠組みのなかでユダヤ人の文化的自治をめざす」との名目で、極東の国境地帯にユダヤ民族区が創設されます。今回ご紹介の切手は、こうした状況を踏まえ、ユダヤ民族区とビロビジャンを宣伝するために発行されたものです。

 はたして、スターリンの予想通り、1929年には中国との間で国境紛争が発生し、1931年に勃発した満洲事変では、日本軍はソ連と隣接する満洲の全域を制圧し、翌1932年には満洲国を建国します。

 こうした状況の下で、極東からの脅威に備えるべく、ユダヤ民族区は1935年にユダヤ自治州に昇格し、ソ連政府は「ユダヤ人の歴史上初めて自分の故郷の建設、自らの民族国家の成就への燃えるような要望が満たされた」と喧伝しました。

 ちなみに、イスラエルの建国は1948年のことで、当時は、ナチス・ドイツの迫害を逃れて欧州のユダヤ人が英国の委任統治領だったパレスチナに大挙して流入し、地元のアラブ住民との確執が深刻化していましたから、ソ連としても、社会主義体制下でのユダヤ自治洲の創設をアピールすることは、プロパガンダとしても重要なことだったわけです。

 一方、日本でも、ほぼ時を同じくして、5万人のドイツ系ユダヤ人を満洲に受け入れ、同時にユダヤ系アメリカ資本の誘致を行うことにより、満洲の開発を促進させると共に、対ソ防衛の拠点を構築する「河豚計画」が検討されたこともありましたが、結局、日の目を見ないままに終わっています。

 さて、鳴り物入りで発足したソ連のユダヤ自治州ですが、そもそも、20世紀にいたるまでほとんど人跡未踏の地だったという土地の自然環境は苛酷で、道路をはじめとする都市のインフラ機能もほとんど整備されていませんでしたから、それまで都市生活を送ってきたユダヤ系の移住者が定着するのは無理がありました。

 このため、自治州発足から4年後、1939年の時点でさえ、ユダヤ人自治州の名前とは裏腹に、同州の人口10万9000人のうち、ユダヤ人は16%の1万7695人しか住んでいませんでした。現在では、州の人口19万人弱のうち、ユダヤ系はわずか4%ほどで、ロシア人が87%と人口の圧倒的多数を占めています。

 なお、ビロビジャンの詳細については、拙著『ハバロフスク』でも1章を設けて説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。


 ★★★ NHKラジオ第1放送 “切手でひも解く世界の歴史”  ★★★ 

 9月7日(木)に放送の「切手でひも解く世界の歴史」の第8回は無事に終了しました。お聞きいただいた皆様、ありがとうございました。次回の放送は、10月5日(木)16:05~の予定です。引き続き、よろしくお願いいたします。 

 なお、7日放送分につきましては、9月14日(木)19:00まで、こちらの“聴き逃し”サービスでお聴きいただけますので、ぜひご利用ください。

 ★★★ トークイベントのご案内  ★★★ 

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