2011-10-27 Thu 23:11
きのう(26日)、投票が行われた韓国の首都、ソウル特別市の市長選挙は、左派系の野党統一候補で無所属の弁護士、朴元淳が、与党ハンナラ党候補の羅卿瑗を破って当選を果たしました。というわけで、朴に関連した切手を探していたら、こんな切手が出てきました。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1956年3月26日に韓国で発行された「李承晩大統領閣下第81回誕辰(=誕生日)記念」の切手で、李承晩を称える“頌壽塔”が描かれています。実は、この切手の発行日の1956年3月26日は、新しくソウル市長となる朴元淳の誕生日です。 さて、朝鮮戦争中の1952年、1948年憲法を強引に改正(これにより、大統領は国会議員による間接選挙ではなく、国民による直接選挙によって選ばれることになりました)して大統領に再選された李承晩は、終身大統領を目指すようになります。 1953年7月、休戦協定が成立すると、彼は、戦後復興に向けてアメリカとの関係を強化するとともに、3選のための準備を着々と進めていきました。 当時の韓国の憲法では、大統領の任期は2期までとされており、3選は禁止されていましたから、李が終身大統領を目指すためには、まず、憲法改正を実現しなければなりません。 憲法を改正するためには国会議員の3分の2以上の賛成票が必要で、当時の国会の定員は203議席でしたから、単純に計算すれば、その3分の2は135.3333…人ということになります。こういう場合、通常の感覚では、136人をもって3分の2以上ということになるはずです。 このため、1954年秋の韓国国会では、136票をめぐって与野党の激しい攻防が繰り広げられ、11月29日の採決では、李承晩派の提出した憲法改正案は、賛成135、反対60となり、改正案はいったん否決されました。 ところが、これに対して、李政権は、定員数203の3分の2は135.3333…人であるから、これを四捨五入すれば135票となると強弁。いったんは否決宣言まで出された改憲案を、強引に可決されたと主張して公布してしまいます。これが悪名高い“四捨五入改憲”です。 こうした李の独善的な姿勢は、当然のことながら、内外の強い批判を招いたが、李政権は強権を持って反対派を押さえ込み、3選へ向けての活動を開始。その一環として、韓国政府は1955年と1956年の李の誕生日(3月26日)に記念切手を発行し、国民に対して“偉大なる指導者・李承晩”というイメージを浸透させることに躍起になっていました。 結局、1956年の大統領選挙では、野党統一候補の申翼熙が「もうだめだ。代えてみよう」をスローガンに現職の李承晩を猛追。彼の演説会には、30万人もの支持者が集まり、李承晩政権の命運は尽きたかに思われたのですが、投票日10日前の5月5日、申が脳溢血で急死してしまいます。このため、急遽、中道左派の曹奉岩が野党候補として立候補したものの、李が三選を果たすことになりました。 ちなみに、今回ソウル市長に当選した朴元淳は、2000年の総選挙に際して落選運動を主導して名をあげた人物ですが、申翼熙の「もうだめだ。代えてみよう」は、ある種、その原型とみなすことができるかもしれません。 なお、このあたりの事情は拙著『韓国現代史』でもいろいろとご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。 ★★★ トーク・イベントのご案内 ★★★ 11月5日(土)、東京・池袋で開催される全国切手展<JAPEX>会場内で、以下のトークを行います。 ・11:00 ハバロフスク…日本人の足跡を訪ねて 切手紀行シリーズ④『ハバロフスク』の刊行を記念してのトークです。同書の中から、シベリア抑留の痕跡を中心に、ハバロフスクに残る日本人の活動の跡をたどります。なお、1フレーム作品として出品の「シベリア抑留日本人用往復葉書」についても、あわせて、簡単な解説を行います。 ・16:00 年賀状の戦後史 角川 one テーマ21(新書)『年賀状の戦後史』の刊行を記念してのトークです。同書の内容をご紹介しつつ、10日の一般発売に先駆け、会場内でのみの先行発売(限定30部)も行います。 今回は、2冊の刊行時期が接近しているため、トークイベントもダブル・ヘッダーとなりました。ぜひ、遊びに来てください。 ★★★ 内藤陽介の最新刊 ★★★ ハバロフスク(切手紀行シリーズ④) 彩流社(本体2800円+税) 空路2時間の知られざる欧州 大河アムール、煉瓦造りの街並み、金色に輝く教会の屋根… 夏と冬で全く異なるハバロフスクの魅力を網羅した歴史紀行 写真・図版多数 オールカラー シベリア鉄道小旅行体験や近郊の金正日の生地探訪も加え、充実の内容! amazon、bk1、e-hon、HMV、livedoorBOOKS、セブンネットショッピングなどで好評発売中! |
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