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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手が語る宇宙開発史(16)
2011-10-17 Mon 15:50
 御報告が遅くなりましたが、 雑誌『ハッカージャパン』の2011年11月号が出来上がりました。僕が担当している連載「切手が語る宇宙開発史」では、今回は、この切手を取り上げました。(画像はクリックで拡大されます)

        ルナ1号

 これは、1959年4月、ソ連が発行したルナ1号打ち上げの記念切手です。

 1958年の時点で人工衛星の地球周回軌道投入に成功していた米ソ両国にとって、次なる課題となったのが無人の月探査でした。

 1958年9月以降、アメリカはパイオニア月探査機の打ち上げを繰り返していましたが、成果を上げることができませんでした。一方、ソ連もルナ探査機を3回にわたって打ち上げたものの、1958年中はすべて失敗に終わっています。

 しかし、1959年1月1日、ソ連首相のフルシチョフが新年の辞で社会主義の優位をうたいあげ、その翌日の2日、バイコヌール宇宙基地から探査機を載せて打ち上げられたボストーク・ロケットは、ついに月へと向かう軌道に探査機を投入することに成功しました。これがルナ1号です。

 ルナ1号の目的は月面への着陸ないしは衝突でしたが、結果的に、同機は1月4日に月から5995キロの地点を通過し、初期の目的を達成できずに終わっています。

 もちろん、米国はU-2偵察機により、ルナ1号の打ち上げを察知しており、ソ連の“失敗”も把握していましたが、世界の世論は、米国のパイオニア1号が達成していた高度記録をソ連があっさりと破ったことに加え、衛星からナトリウムを放出して“人工彗星”をつくる実験に成功したこと、さらに、第2宇宙速度達成を達成したことに目を奪われ、スプートニク・ショック以来のソ連優位のイメージはますます強固になりました。ソ連科学アカデミーのブラゴヌラボフが「月ロケットのスピードは非常に大きく月の重力圏に入るには早すぎた。ロケットは月の衛星にはならず月を飛びこして太陽系内の宇宙を飛び続けるだろう」と“弁明”ことも、かえって、宇宙開発競争におけるソ連の優位を世界に印象づけ、多くの人々に月一番乗りもソ連が達成するのではないかと思わせる効果をもたらしたといってよいでしょう。

 はたして、ソ連は早速、ルナ1号の打ち上げを1月27日からの党大会を記念してのものと主張。これに先立つ1月4日から、副首相のミコヤンはルナ1号の成功を手土産に意気揚々と訪米しました。

 前回の本連載でご紹介した“ソヴィエト人民による宇宙征服”の切手は、こうした文脈の下で党大会に合わせて発行されたもので、切手はスプートニク1-3号の人工衛星とルナ1号を打ち上げたロケットを描くと説明されています。しかし、切手の製作準備が進められていた1958年中、ソ連がルナ探査機の打ち上げにことごとく失敗していたことを考えると、ルナ1号そのものが描かれていないことと併せて、これは後付けの説明のように思われます。

 ちなみに、ルナ1号打ち上げ成功をストレートに記念して、今回ご紹介の切手が発行されたのは、打ち上げから3ヶ月以上がたった4月13日のことでした。おそらく、それまでの経緯からして、打ち上げの成功を確認してからでないと、切手の制作作業に取り掛かれなかったためでしょう。ちなみに、今回ご紹介の切手は、あえて月を飛び越したロケットを描いており、ブラゴヌラボフ発言と同様のプロパガンダ効果を狙った内容となっている点も見逃せません。


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