2010-08-12 Thu 15:22
雑誌『ハッカージャパン』の2010年9月号が出来上がりました。僕が担当している連載「切手が語る宇宙開発史」では、今回は、こんな切手を取り上げました。(画像はクリックで拡大されます)
これは、スプートニク3号打ち上げ直後の1958年7月1日にソ連が発行した切手で、3機の人工衛星を誇示するとともに、反核を訴える内容が描かれています。 1958年5月15日にソ連がスプートニク3号の打ち上げに成功した時点で、アメリカが打ち上げていた人工衛星はエクスプローラー1号・2号の2回。このうち、エクスプローラー2号は結果的に軌道投入に失敗していますから、人工衛星打ち上げ成功の回数は、ソ連の3回に対してアメリカの1回とみなすこともできます。 人工衛星を打ち上げるためのロケットは、そのまま、大陸間弾道ミサイル(ICBM)に転用することが可能です。そして、その弾頭に、人工衛星ではなく核兵器を搭載すれば、地球上のどこからでも敵国を攻撃することができます。それゆえ、宇宙開発においてソ連がアメリカに先んじているとすれば、西側諸国にとっては大いに脅威となります。 もっとも、米ソの総合的な軍事力を比べれば、実際にはアメリカは圧倒的にソ連を凌駕していました。そして、アメリカ政府も、1956年7月以降、U-2型偵察機をもちいてソ連の偵察(もちろん、領空を侵犯してのことですが)を繰り返した結果、そうした実情を正確に把握していましたし、ヨーロッパ・中東・東アジアなどで東側陣営を包囲し、どこからでもソ連を核攻撃できる体制を整えていました。 しかし、U-2型機による偵察は極秘裏に行われたため、ソ連の軍事的な実態は一般国民には知らされませんでした。このため、西側世界では、スプートニクの打ち上げ以降、戦略爆撃機や戦略ミサイルの数において、アメリカはソ連に劣っているという“ボンバー・ギャップ”や“ミサイル・ギャップ”の議論が説得力をもって語られていました。 そこで、ソ連は、こうした“誤解”を活用して、ソ連に対する圧力と攻撃は深刻な反撃を招きかねないので、ソ連とは一定の妥協をはかり、平和共存を目指すべきだという国際世論を誘導しようとします。その真の目標は、米ソ両国の軍縮という形式をとって、アメリカにより多くの核兵器を削減させ、ソ連包囲網を緩和させようという点にありました。 かくして、「ソ連の宇宙開発は純粋な科学技術研究で平和目的のものである」、「アメリカが膨大な核兵器を保有するがゆえに、ソ連は、自衛のため、やむを得ず最低限の核を保有しているのみである」といった論調が、西側諸国でも、ソ連に親和的な左派リベラル勢力を中心に盛んに唱えられるようになります。スプートニク3号打ち上げ直後の1958年7月1日にソ連が発行した切手は、まさに、こうした文脈に沿って発行されたもので、原子力の平和利用を象徴するものとして原子力船と3機の人工衛星を描きつつ、核兵器に×印をつけたデザインとなっています。 かつてのわが国でも、いわゆる“進歩的知識人”を中心とした反核運動は、アメリカの核のみを問題視し、ソ連の核については口をつぐんできました。それがソ連による国際プロパガンダの影響を強く受けていたことは、その元ネタともいうべきこの切手を見れば一目瞭然といえましょう。 まぁ、東西冷戦の終結から20年以上が経過した現在なお、中国や北朝鮮の核という現実的な脅威に目をつむったまま、アメリカの核の傘からの離脱を堂々と口にするような人物が被爆地・広島の市長に当選し、首相と官房長官は、国民世論の批判を無視して、いそいそと“植民地支配”に対するお詫びの談話を発表し、日本が合法的に入手した文化財の返還まで申し出るというありさまですからねぇ。この切手に見られるような左翼勢力のプロパガンダ工作は、少なくともわが国(の指導層)に対しては、十分に成功を収めたといえそうですな。 ★★★ 内藤陽介の最新刊 ★★★ お待たせしました。8ヶ月ぶりの新作です! 事情のある国の切手ほど面白い カッコよすぎる独裁者や存在しないはずの領土。いずれも実在する切手だが、なぜそんな“奇妙な”切手が生まれたのだろう?諸外国の切手からはその国の抱える「厄介な事情」が見えてくる。切手を通して世界が読み解ける驚きの1冊! 8月27日にメディアファクトリー新書007(税込777円)としていよいよ刊行! 全国書店・インターネット書店(bk1、Yahoo!ブックス、7&Yなど)で御予約受付中! |
#1758 ソ連の核は良い核(笑)
昔から反戦運動、平和運動をやってるようなウサン臭い連中や香ばしい“進歩的文化人”には奇妙なダブルスタンダードがあって、アメリカの核には激烈に反対するくせに、ソ連や中国といった社会主義国の核には至って好意的、親和的です。核には善も悪も無いと思うのですが、サヨクの方々は明確に善悪を識別出来る特殊な(相当偏った)能力をお持ちのようです。こうした傾向は今も変わらず、プロ市民の衣を着たサヨクの残党や社民党のような時代遅れの左翼政党は相変わらずアメリカの核には反対するくせに、中国や北朝鮮の核には沈黙してしまいます。まあ、今でもサヨクのスカスカなアタマの中には「アメリカ=悪、社会主義国=善」といったカビの生えた単純な二分法しかないので仕方ありませんが(笑)。
#1761 コメントありがとうございます
アルファ様
かつての反核運動は、一部の左翼人士によるものという印象が強かったのですが、最近では、どうも世間的にはそうした考えの方が多数派になってしまったようで、ちょっと心配になっています。唯一の被爆国であるからこそ、核兵器を保有する権利をもつのは日本だけだ、というまっとうな議論が、メディア等で堂々と掲載される日は、いったい、いつになったら来るんでしょうかねぇ。 #1881 管理人のみ閲覧できます
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