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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 ワインで泥酔
2015-11-19 Thu 10:44
 きょう(19日)は11月の第3木曜日。いわずと知れたボジョレー・ヌーボーの解禁日です。というわけで、刊行されたばかりの拙著『ペニー・ブラック物語』にちなんで、こんなワインがらみのマテリアルをご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)

      カリカテュア(ピックポケット)

 これは、1840年に発行されたマルレディ・カバーのパロディ封筒のうち、“ピック・ポケットNo1”と呼ばれているデザインのモノで、1840年6月9日、イングランド南西部のエクセターからトトネス宛に差し出されています。中央のブリタニアの足元に、ワイングラスを片手に泥酔して寝転ぶ男が描かれているので、今夜の僕じしんの予想図を兼ねてご紹介してみました。拙著『ペニー・ブラック物語』でも図版として未使用の封筒(拙著の表紙のマテリアルと同じく、千葉晋一さんからお借りしました)を使っておりますので、わかりやすいように、そこから泥酔男の部分のみをトリミングした画像も下に貼っておきましょう。こちらは泥酔男の口元に少しシミが出ていて、それがあたかもワインがこぼれたように見えるのがご愛嬌です。
      
      カリカテュア(ピックポケット・部分拡大)

 英国では、ローランド・ヒルの提唱した郵便改革により、1840年1月10日から、1/2オンス以下の書状基本料金を全国1律1ペニーとする統一1ペニー郵便がスタートしました。そして、同年5月、新たな郵便の料金前納の証紙として世界最初の切手ペニー・ブラックが発行されました。これとあわせて、発行されたのがマルレディ・カバーです。

 マルレディとは、封筒のデザインを担当したウィリアム・マルレディ(1786-1863)のことで、カバーは封筒の意味。この封筒は、すでに1ペニーの料金込みで販売されたので、切手を貼らなくとも、切手を貼った封筒と同様に料金納付済の扱いで差し出すことができました。

 マルレディ・カバーのイラストでは、大英帝国を示す女神ブリタニアを中央に、インド、アラビア、中国、南米など、1840年までに英国が進出していった地域の風俗が取り上げられています。新たに発足した近代郵便制度が、全世界を結びつける情報ネットワークとなるという、英国の意気込みを表現した内容で、イギリス政府は切手よりもマルレディ・カバーの方が良く売れると予想していました。

 ところが、実際にはマルレディのデザインは一般国民には不評で、しかも、カバーの代金には郵便料金の1ペニーに封筒代が上乗せされて2ペンスで販売されたため、売れ行きは芳しくありませんでした。

 この結果、マルレディ・カバーは皮肉屋の英国人たちの格好の餌食となり、今回ご紹介のモノのように、さまざまなパロディ封筒が作られ、郵便に使用されています。

 今回ご紹介のカバーに関しては、右上に、廣州での茶の貿易風景が描かれているのと、ブリタニアの左側に、英国の軍艦に撃沈されているジャンクが描かれており、香港の歴史をテーマにコレクションを作っている僕としては、アヘン戦争(じつは、ペニー・ブラックやマルレディカバーの発行と同じ1840年の出来事です)関連のマテリアルとして外せない1点で、つい数日前に、某オークションで落札したものです。残念ながら、拙著『ペニー・ブラック物語』や今回のアジア国際切手展<HONG KONG 2015>の出品作品には間に合いませんでしたので、来年のニューヨーク展でデビューさせてやるつもりです。


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