2008-04-15 Tue 14:07
1965年の第2次印パ戦争以来、運航が中断されていたインドのコルコタ(カルカッタ)とバングラデシュのダッカを結ぶ旅客列車の運行が、昨日(14日)、43年ぶりに再開されたそうです。というわけで、今日はこの切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1971年12月にインドで発行された難民救済の加刷切手です。 1947年に英領インド帝国が解体された際、現在のバングラデシュに相当する地域は東パキスタンとして、現在のパキスタンに相当する西パキスタンとともに“パキスタン”を構成していました。“パキスタン”の政治的な実権を握っていたのは西パキスタンで、東パキスタンで生産されるジュートによってもたらされる外貨は、西パキスタン地域に優先的に支出される状況が続いていました。また、1970年の集中豪雨によって東パキスタン国土のほとんどが水没、17万人に上る死者が出たにもかかわらず、パキスタン政府の西パキスタン偏重政策は変わらず、東パキスタン住民の不満は高まります。 このため、1970年の総選挙では、東パキスタンを地盤とした政党・アワミ連盟が“バングラ民族主義”を掲げて大躍進。東パキスタンの分離・独立運動は一挙に高揚することになりました。 この動きに目をつけたインドは、パキスタンを弱体化させるために、東パキスタンの独立運動を支援。パキスタン軍が東パキスタンの独立運動を阻止すべく武力での征圧を開始し、東パキスタン難民がインドに流入するようになると、インドはこれを“人口学的侵略”としてパキスタンに侵攻。パキスタン軍はわずか2週間で降伏し、東パキスタンは1971年12月、バングラデシュとして独立します。 こうした状況の下で、インドでは1971年11月15日から1973年3月31日まで、インド政府はバングラデシュ地域から流入する難民の救援資金を集めるため、葉書・新聞・盲人用郵便・軍事郵便・カシミール地域からの郵便などを除く郵便物に対して郵便料金とは別に5パイサの課金をすることを決定。そのための強制貼付切手を1971年12月1日に発行しました。ただし、当初は全インドの需要を満たす正刷切手を供給することができなかったため、家族計画キャンペーンの切手に“Regugee Relief”の文字を加刷したものが追加的に発行されています。 ところで、今回ご紹介の切手については、僕はカタログの図版を見間違えて当初、“全インド共通”のものと書いてしまったのですが、これは誤りで、バンガロールで発行の地方加刷です。お詫びして訂正いたします。なお、この点については、黒崎卓先生から丁寧な解説を頂きましたので、そのまま、以下に転載しておきたいと思います。 ブログで紹介されている切手は、インド政府が地方に有する印刷所(官報などを印刷するオフィス)において凸版やオフセットなどで加刷したLocal Typographed Provisionalsと呼ばれる一群の臨時切手の1つで、バンガロールの印刷所で加刷したものです。6箇所ないし7箇所で作成され、加刷文字にはいくつかのパターンがあって、全部共通ではありません。発行日は定かでありませんのでギボンズのCommonwealthなどは発行日を載せず、インドの専門カタログでは救済税開始の11月15日を採用しています。同じ11月15日には、ISPによる凸版加刷の臨時切手が発行され、これを、ISP所在地にちなみNasik Provisionalと呼びます。このほかに各地の郵便局が思い思いにゴム印などを押した臨時切手がありLocal Provisionalsと呼ばれています。ポイントは、全インド共通に使われたのは、正刷切手とNasik Provisionalの2種類だけ。地方で使われたものにLocal Typographed ProvisionalsとLocal Provisionalsがあって、前者は6種類ないし7種類、後者は星の数ほど種類があるということになります。 (転載はここまでです。黒崎先生、ありがとうございました) さて、上述のように、インドがバングラデシュの独立を支援したのは、あくまでも、パキスタン(旧西パキスタン)を弱体化させることが目的でしたから、独立後のバングラデシュから大量の難民や不法入国者が流入してくることに対しては、これを何とかして阻止したいというのがインドの本音でした。このため、インド側はバングラデシュとの国境の往来には非常に慎重で、長らく鉄道が再開されなかったのもそのためです。 今回の鉄道再開は、近年、インド経済が急成長を遂げる中で貿易拡大への期待が高まったことや、最大の仮想敵国である中国の躍進に対抗するため周辺諸国との関係改善が必要になってきたことなどの事情があると思われます。ただ、インドとバングラデシュの間の経済格差が埋まらない限り、“人口学的侵略” も収まらないでしょうから、そのあたり、インドとしても頭の痛いところでしょうな。 イベントのご案内 4月26日(土)13:00より、東京・浅草の都立産業貿易センター台東館にて開催のスタンプショウ’08会場内にて、拙著『近代美術・特殊鳥類の時代』の刊行を記念してトークイベントを行います。入場は無料で、スタンプショウ会場ならではの特典もご用意しておりますので、是非、遊びに来てください。皆様のお越しを心よりお待ち申しております。 雑誌『郵趣』を読んでみませんか 無料でサンプルをお送りしております。くわしくはこちらをクリックしてください。 |
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