2021-11-13 Sat 06:12
きょう(13日)は、文徳天皇の第一皇子・惟喬親王が京都・嵐山の法輪寺に参籠し、その満願の日である11月13日に漆の製法を菩薩から伝授されたとの伝説にちなみ、“漆の日”です。というわけで、漆器の切手の中からこの1枚です。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1982年12月6日に発行された“春日山蒔絵硯箱”を取り上げた70円切手(普通切手)です。 春日山蒔絵硯箱は、室町幕府第8代将軍・足利義政が愛用していた硯箱で、蓋には『古今和歌集』巻4に収められている壬生忠岑の「山里は秋こそことにわひしけれ 鹿の鳴く音に目をさましつつ」を題材にした装飾がなされています。 切手に取り上げられているのは、その表面の装飾で、満月の下、女郎花や桔梗、薄、菝葜が生い茂り、三頭の鹿がたたずむ秋の野の風景が金研出蒔絵と高蒔絵で表現されています。文様の中には、歌の中の“盤(は)”、“こ・と・尓(に)”、“け”、“連(れ)”の文字が葦手(装飾文様の一種で、文字を絵画的に変形し、葦・水鳥・岩などになぞらえて書いたもの)の手法で表されています。また、裏面(蓋の内側)には、山中の茅屋で鹿の声に耳を傾けているかのような男が描かれています。現在は根津美術館の所蔵品です。 ところで、1970年代末まで、郵政省は、普通切手のデザインを一定のコンセプトの下に構成するのではなく、その時々の料金体系に応じて必要な額面の切手を五月雨式に発行していました。このため、郵便局の窓口では新旧さまざまな図案の切手が混在し、シリーズとして統一的な図案の普通切手を使用している諸外国に倣って普通切手の図案統一を望む声が上がっていました。 そこで、1981年1月20日の郵便料金改正を前に、郵政省は、新発行の普通切手について、書状料金未満の低額面については花、書状料金以上の中高額面については文化財を題材とする“図案統一”を発表。まず、1980年10月1日、“つばき”を描く30円切手、“菜の花”をえがく40円切手、“さくら”を描く50円切手が発行され、11月25日には料金改正後の書状基本料金となる60円切手(図案は平等院の梵鐘)が発行されました。ただし、新普通切手の発行後も従来の切手の多くは販売が継続されたため、“図案統一”は中途半端に終わっています。 この時の図案統一では、当初、1980年11月25日に発行された70円切手には“法隆寺金堂小幡”が取り上げられていましたが、子に炉の刷色が濃く消印が見づらかったため、1982年12月6日、今回ご紹介の切手が新たに発行されたという経緯があります。 なお、この辺りの事情については、拙著『切手でたどる郵便創業の歴史 vol.2 戦後編』でもまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。 ★ 放送出演・講演・講座などのご案内★ 11月15日(月) 05:00~ おはよう寺ちゃん 文化放送の「おはよう寺ちゃん」に内藤がコメンテーターとして出演の予定です。番組は早朝5時から9時までの長時間放送ですが、僕の出番は07:48からになります。皆様、よろしくお願いします。 武蔵野大学のWeb講座 2021年12月1日~2022年2月8日 「日本の歴史を学びなおす― 近現代編その1 ― 黒船来航」 12月1日から2月8日まで、計7.5時間(30分×15回)の講座です、お申し込みなどの詳細は、こちらをご覧ください。 ★ 『切手でたどる郵便創業150年の歴史 vol.2 戦後編』 11月20日刊行! ★ 2530円(本体2300円+税) 明治4年3月1日(1871年4月20日)にわが国の近代郵便が創業され、日本最初の切手が発行されて以来、150年間の歴史を豊富な図版とともにたどる3巻シリーズの第2巻。まずは、1945年の第二次大戦終戦までの時代を扱った第1巻に続き、第二次大戦後の1946年から昭和末の1989年までを扱っています。なお、2022年3月刊行予定の第3巻では平成以降の時代を取り扱う予定です。 * ご予約・ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、本書の目次をご覧いただけるほか、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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