2021-11-12 Fri 07:31
南アフリカ共和国(以下、南ア)最後の白人大統領で、アパルトヘイト(人種隔離政策)の廃止に尽力したとして、ネルソン・マンデラと共にノーベル平和賞を受賞したフレデリック・ウィレム・デクラーク元大統領が、きのう(11日)、ケープタウンの自宅で亡くなりました。享年85歳。というわけで、謹んでご冥福をお祈りしつつ、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます。以下、文中敬称略)
これは、1989年9月20日、南アが発行したデクラーク大統領就任の記念切手です。 デクラークは、1936年3月18日、ヨハネスブルグで生まれました。父親のヨハンネスは1969-76年に上院議長を務めた大物政治家です。 1958年にポッチェフストローム大学を卒業後、弁護士を経て、1972年に父親と同じ国民党の国会議員に初当選を果たして政界入り。1978年に郵政相として初入閣した後、内相、国民教育相、白人閣僚評議会議長などを歴任。1989年2月、大統領のピーター・ウィレム・ボータの後任として国民党党首に指名され、同年9月、大統領に選出されました。 さて、第二次大戦後の南アでは、1948年、連合党政権の“対英従属・(オランダにルーツを持つ)アフリカーナー軽視”を徹底的に批判する国民党が総選挙で第一党に躍進し、政権を獲得しました。このときの選挙キャンペーンとして、国民党が大々的に掲げたのが、アフリカーンス語で分離ないしは隔離を意味する“アパルトヘイト”のスローガンです。 首相となった国民党のマランは、もともとオランダ改革派教会の聖職者で、「アフリカーナーによる南ア統治は神によって定められた使命である」との信念の下、「国内の諸民族をそれぞれ別々に、純潔を保持しつつ存続させることは政府の義務である」と主張。1950年、全国民をいずれかの“人種”に分類するための人口登録法を制定し、これと前後して、人種間通婚禁止法や背徳法(異人種間の性交渉を禁止する法律)を制定。さらに、都市およびその近郊の黒人居住地から黒人を強制移住させ、その跡地を白人(主としてアフリカーナー)のために区画整理するなどの、人種差別政策を強行していきました。 こうしたアパルトヘイト政策に対しては、人権の観点から全世界が南ア政府を非難。制裁措置として1960年のローマ五輪を最後に南ア選手はオリンピックから締め出されています。(アパルトヘイト撤廃後、1992年のバルセロナ大会で復帰) また、資源大国である南アに対しては、当初、西側諸国は経済制裁に及び腰でしたが、1976年のソウェト蜂起で多くの市民が犠牲になったことから態度を硬化させ、国際的な経済制裁が本格化。南ア経済は大きな打撃を受けました。 このため、1984年に発足したピーター・ボータ政権は、白人・インド人・カラードによる3人種議会を開設。さらに、1985年には雑婚禁止法と背徳法、分離施設法を、1986年にはパス法を1986年に廃止するなどの部分的改革に着手しました。しかし、アパルトヘイトの根拠となる基幹三法(人口登録法、原住民土地法、集団地域法)の撤廃は拒否したため、南ア全土に黒人暴動が拡大。このため、ボータ政権は非常事態を宣言し、軍と警察を動員して暴動を抑え込もうとしました。 その一方で、国民党政権はコビー・クッツェー法務大臣を窓口として、獄中にあったアフリカ民族会議(ANC)の指導者、ネルソン・マンデラと交渉を進め、1988年5月、政治犯の釈放とANCの合法化に同意。さらに、同年12月、1975年から南ア軍が介入していたアンゴラ内戦に関して、キューバ軍のアンゴラからの撤退を条件にナミビアの独立を承認し、アンゴラから撤兵しました。 こうした経緯を経て大統領に就任したデクラークはアパルトヘイトの完全放棄を決断。黒人を始め有色人種との交渉を重視する民主改革路線を採用し、ANC、パン・アフリカニスト会議(PAC)、南アフリカ共産党の非合法化を解除し、1990年2月にはマンデラを釈放しました。さらに、同年6月には非常事態宣言も解除し、1991年2月、国会開会演説ですべてのアパルトヘイト法を廃止すると宣言。その通り、同年6月には基幹三法を廃止し、アパルトヘイト制度は完全に撤廃されました。1993年にはこの功績により、マンデラと共にノーベル平和賞を受賞しています。 1994年、全人種参加の選挙を経てマンデラ政権が発足すると、デクラークは連立政権の副大統領としてマンデラを支えましたが、1996年5月には連立政権から離脱。翌1997年には国民党首を辞任して政界から引退していました。 なお、アパルトヘイトとその時代については、拙著『喜望峰:ケープタウンから見る南アフリカ』でもまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。 ★ 放送出演・講演・講座などのご案内★ 11月15日(月) 05:00~ おはよう寺ちゃん 文化放送の「おはよう寺ちゃん」に内藤がコメンテーターとして出演の予定です。番組は早朝5時から9時までの長時間放送ですが、僕の出番は07:48からになります。皆様、よろしくお願いします。 武蔵野大学のWeb講座 2021年12月1日~2022年2月8日 「日本の歴史を学びなおす― 近現代編その1 ― 黒船来航」 12月1日から2月8日まで、計7.5時間(30分×15回)の講座です、お申し込みなどの詳細は、こちらをご覧ください。 ★ 『切手でたどる郵便創業150年の歴史 vol.2 戦後編』 11月20日刊行! ★ 2530円(本体2300円+税) 明治4年3月1日(1871年4月20日)にわが国の近代郵便が創業され、日本最初の切手が発行されて以来、150年間の歴史を豊富な図版とともにたどる3巻シリーズの第2巻。まずは、1945年の第二次大戦終戦までの時代を扱った第1巻に続き、第二次大戦後の1946年から昭和末の1989年までを扱っています。なお、2022年3月刊行予定の第3巻では平成以降の時代を取り扱う予定です。 * ご予約・ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、本書の目次をご覧いただけるほか、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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