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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手に見るソウルと韓国:民俗切手シリーズ
2021-03-04 Thu 01:20
 ご報告が遅くなりましたが、『東洋経済日報』2021年2月12日号が発行されました。僕の月一連載「切手に見るソウルと韓国」は、今回は、2012年のソルラル(旧正月)にあたっていましたので、この切手をご紹介しました。(画像はクリックで拡大されます)

      韓国・ノルティギ

 これは、1967年9月15日に発行された“民俗シリーズ”の1枚で、朝鮮半島の伝統的な正月行事である“ノルティギ(板跳び)”が描かれています。

 ノルティギの由来は必ずしも定かではありませんが、高麗時代に始まり、朝鮮王朝時代に現在のようなスタイルが確立されたものと考えられています。

 朝鮮王朝時代と異なり、高麗時代の女性は夫と死別後は再婚が可能で、遺産の相続も息子と娘の区別がありませんでした。また、活動的な女性も多く、女性が乗馬や撃毬(ポロに似た球技)などを行うことも珍しくはなかったので、ノルティギもそうした環境の下で生まれたのでしょう。

 ところが、朝鮮王朝時代になり、儒教(特に朱子学)道徳が社会的に深く浸透すると、両班階級の女性は外出も制限されてしまいます。こうした中で、ノルティギは、女性たちが塀の外の世界や男性をうかがう手段として始まったとも、さらには、政変などで投獄される両班の妻が、高い垣根の向こうに閉じ込められている獄中の夫を見ようとして、同じく罪人の妻を誘って板の上で交互に飛びながら夫の顔を見るための手段として始まったともといわれる伝承が浸透し、女性限定の遊びとみなされるようになりました。

 ソルラルの行事としてのノルティギは、着飾った若い女性が勢いよく飛び跳ねることで、その音に驚いた悪鬼が退散すると信じられていました。

 ノルティギを行うには、まず、2-3メートル程度の厚い板の中央に、厚さ30センチぐらいのわら束を敷きます。そして、板の両端に一人ずつ立って交互にジャンプすると、落ちてくる時の反動で相手が高く飛び上がります。最初はあまり高く跳べませんが、2人の息が合ってくれば、次第に高く跳べるようになります。また、相手を高く飛び上がらせるため、初めに勢いよく助走をつけてから板に乗る人もあります。

 遊びとしては、板を踏み外したり、板から落ちたりしたら負けた方が負けになりますが、3人以上で跳びあう場合は、1番高く飛んだ人、または相手を最も勢いよく板から転げ落ちさせた人が勝者です。

 なお、今回ご紹介の切手では、宙から下りてきて板の上に着地した女性、支点となる板の中央にしゃがんでいる女性、いままさに飛びあがっている女性の3人が描かれています。

 1961年の5・16革命公約で「頽廃した国民道義と民族正気を立て直すため、清新な気風を振興する」ことを謳い、「植民地史観と外国文化に対する従属観念を払拭し、民族文化の再発見を通して国民的自覚と誇りを宣揚しよう」と呼びかけた朴正煕は “民族文化の暢達と国民教育の振興”を政策の柱として掲げており、この切手もそうした文脈に沿って発行されたものであることは間違いありません。

 その一方で、経済効率を重視する立場から、朴正煕政権は新年の公休日を西暦の1月1-3日とし、旧暦のソルラルは休日とはしませんでした。ちなみに、その前の李承晩の時代も、李がクリスチャンだったこともあって、西暦の1月1-3日が新年の公休日で、ソルラルは平日でした。

 現在のように、ソルラルが休日となるのは、全斗煥政権下で1985年のソルラル(この年は1月21日)が“民族名節”として1日のみの公休とされてからのことです。

 もっとも、朴正煕の時代も、実際にはソルラル当日の学校はほとんどの学生・生徒は欠席し、職場でもほとんど仕事にならなかったのだとか。当時の韓国人は、ソルラルの日には若い女性に昔ながらのノルティギをやってもらって、こんな日にまで仕事や勉強をさせようとする“鬼”を追い払ってもらいたいと思っていたのかもしれませんね。


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