2020-07-08 Wed 01:43
ご報告が遅くなりましたが、公益財団法人・日本タイ協会発行の『タイ国情報』第54巻第3号ができあがりました。というわけで、僕の連載「泰国郵便学」の中から、この1点をご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1978年10月24日にタイで発行された“国連の日”の記念切手で、「国連のエンブレムの下、“人口と発展”の標語とともに、政府の人口抑制ならびに家族計画促進の政策を表現した」デザインが取り上げられています。 1950年に2071万人だったタイの人口は、1955年には2371万人、1960年には2740万人、1965年には3182万人、1970年には3688万人、1975年には4232万人と25年でほぼ倍増しており、年間人口増加率は3%を超えていました。 もともと、タイは国策として人口増加を施行しており、先の大戦中にはピブーンソンクラーム首相も「1956年までには1億の人口が必要であり、大家族には報奨が与えられる」と発言しています。しかし、1959年、世界銀行により、人口増加がタイ経済に及ぼす負の影響についての警告を発せられたのを機に、タイ政府は家族計画サービス実施の準備を開始。1970年には、「政府は、国の経済社会発展の重大な妨げとなる非常に高い人口増加率に関する種々の問題を解決するため、家族計画を支持する政策を有するものである」との声明を発し、国家家族計画プログラム (NFPP)が始まります。 同プログラムのは、①1970年当時3%であった人口増加率を1976年までに2.5%に抑えること、②あらゆる情報伝達の手段を使って、必要な人々に家族計画の意味を知らせ、その実行をうながすこと、③国内のどこででも、家族計画サービス(具体的には、コンドームやピルの配布、避妊薬DMPAの注射、不妊手術、各種の知識教育など)が受けられるようにすること、④家族計画サービスを、既存の母子保健226 サービスに統合し、相互にその事業を発展させていくこと、の4点を柱としていました。 ところで、NFPPは保健省保健局家庭保険部(常勤職員300人)が担当していますが、家族計画サービスの現場である助産所、保健所、郡保健部は郡医務官の官轄下にあり、家庭保健部の直接命令系統下にはありません。また、郡医務官を監督する県保健部長は、内務省が任命する県知事の命令に服するため、現場の助産婦は家族計画サービスよりも県保健部長の指示を優先しがちです。このため、NFPPは、助産婦に対して原付二輪を供与するなどして、助産婦に家族計画サービスに必要な知識を教育し、インセンティブを高める工夫を行っています。 また、当時のタイならではの事情としては、家族計画が特に必要とされていた国境地帯の農村が、周辺諸国の戦乱の影響もあって治安が悪く、一般の助産婦が家族計画サービスを行うことが現実的ではなかったため、国境警備隊が家族計画サービスを行うこともあったという点が挙げられます。このほか、農村部では村民に対する村長の影響力が大きいので、村長を管轄する内務省を通して、村長らを対象とした家族計画サービスの教育も行われました。 その成果もあり、1960年ごろまではほぼ6.5前後で推移していた合計特殊出生率は、1975年には4.1、今回ご紹介の“国連の日”の切手が発行された1978年には3.5にまで減少。“国連の日”の切手が、母親の周りに4人の子供を配したデザインになっているのも、そうした実績を踏まえたものと思われます。 なお、1978年度のタイの家族計画予算は、米ドル換算で、政府予算が340万ドル、国連人口基金を中核とした国際機関からの支援が200万ドル、日本を含む2国間政府援助170万ドルという構成になっていましたから、“国連の日”の切手にはNFPPの成果を出資者である国連に感謝の意を示すという面もありました。 さらに、切手の発行から1ヶ月ほど後の1978年12月には、パタヤで国際家族計画連盟(IPPF)および東南アジア人口・家族計画政府間協力委員会 (IGCC)共同のワークショップも開催されており、この切手には、その事前の周知・宣伝の意味も込められていたとみることも可能でしょう。 *昨日(7日)、アクセスカウンターが221万PVを超えました。いつも閲覧していただいている皆様には、あらためてお礼申し上げます。 ★★ 内藤陽介の最新刊 『みんな大好き陰謀論』 ★★ 本体1500円+税 出版社からのコメント 【騙されやすい人のためのリテラシー入門】 あなたは大丈夫?賢い人ほどダマされる! 無自覚で拡散される負の連鎖を断ち切ろう まずは定番、ユダヤの陰謀論を叱る! ! 本書のご予約・ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、本書の目次をご覧いただけるほか、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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