2020-06-08 Mon 00:36
きょう(8日)は世界海洋デーです。というわけで、こんな切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1957年11月7日に韓国が発行した“韓米友好通商航海条約”の記念切手で、両国の国旗と海上を進む貿易船、商業の神であるマーキュリーが描かれています。 1956年の李承晩3選前後の韓国経済は、物資不足が常態化する中でコメの凶作が発生したことで、GNP成長率が低下し、物価も急激に上昇するなど、危機的な状況にありました。そこで、大統領選挙後、李承晩は実務派経済官僚の金顕哲を復興部長官・経済調整官に任命し、抜本的な改革に着手します。 一方、米国は、長期独裁政権の主として、きわめて独善的な李承晩のことを苦々しく思っていましたが、韓国が東西冷戦の最前線に位置している以上、李承晩政権を支えていかざるを得ないのが現実でした。 このため、1956年6月、米国でも「毎年GNP3パーセントの成長を達成する支援計画は、そうしない場合に比べて総経費や期間が少なくて済む」との報告書が国家安全保障会議(NSC)に提出され、対韓支援政策の再検討が進められることになります。 報告書は、従来の対韓援助が十分な成果を上げなかった原因として、①投資部門の減少とインフレ抑制のための消費財の多量導入、②韓国政府の財政および信用政策の非合理性、の2点があると分析し、その解決のためには、韓国軍の縮小を前提に、投資計画だけでなく財政・金融,軍事援助などに関する総合計画を樹立することを建議していました。 これを踏まえ、1952年に設立されたものの、1956年7月まではほとんど休眠状態にあった韓米合同経済委員会(Combined Economic Board: CEB)が毎週開催されるようになり、その流れで、1956年11月28日には米韓友好通商条約が調印されます。 すでに、米国は1948年に台湾と、また、1953年には日本とも、それぞれ、相互に最恵国待遇の付与を定めた友好通商航海条約を締結していました。これに対して、李承晩に対する不信感を払拭しきれずにいた米国は、朝鮮戦争後の混乱もあり、韓国との友好通商航海条約を先延ばしにしていました。 一方、李承晩はこうした条約締結の遅れを逆手に取り、国民に対しては、韓国政府が多大な困難を克服して友好通商航海条約を締結したとさかんに強調します。 そもそも、ありとあらゆる権謀術数をつくしたとはいえ、李が韓国政界において独裁的な権力を保持しえた背景には、李でなければ米国からの支援が得られないとのイメージが国民の間に浸透していたという事情がありました。それだけに、李承晩としては、政権維持のためには、米国との関係強化を国民に印象づけ、米国からより多くの援助を引き出してくることが不可欠でした。韓米友好通商航海条約もまた、そのための一手段だったのです。 なお、条約は米韓両国の国内手続きを経て、1957年11月7日に発効。今回ご紹介の記念切手も、これに合わせて発行されました。 この間、CEBは、年間1億5000万ドル以上もの新規資金配分に加え、既定の資金配分および導入予定分についても変更を加え、火力発電所、ビル、橋梁、船舶、機関車ならびに貨車の導入を実現。その成果もあって、1956年に1.3パーセントだった韓国の経済成長率は、1957年には7.1パーセント、1958年には6.1パーセントと順調に推移することになります。 また、CEB財政委員会による韓国の財政安定化計画を受けて、1957年4月20日、韓国政府は税率の効率的適用と増税、競争入札による援助物資販売代金の回収を通じて歳入を増加させることを目指して、株式公売、社債発行などによる国有財産と帰属財産の払下げを断行。この方針は、1958年も維持され、1955年に80.9パーセントだったインフレ率は、急速に収束し、1958年には6.3パーセントになっています。 なお、この辺りの事情については、拙著『日韓基本条約』でも詳しくご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。 ★★ 『みんな大好き陰謀論』 7月4日刊行! ★★ 7月4日付で、ビジネス社より、新作『みんな大好き陰謀論』が刊行の予定です。表紙デザインは現在制作中ですが、すでに、版元ドットコムのページもできているほか、アマゾンでの予約も始まりましたので、よろしくお願いします。 ★★ 内藤陽介の最新刊 『日韓基本条約』 ★★ 本体2000円+税 出版社からのコメント 混迷する日韓関係、その原点をあらためて読み直す! 丁寧に読むといろいろ々発見があります。 本書のご予約・ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、本書の目次をご覧いただけるほか、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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