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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 三一節
2020-03-01 Sun 01:47
 きょう(1日)は、1919年の三一独立運動にちなみ、韓国では“三一節”の祝日です。というわけで、こんな切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      北朝鮮・三一運動(1964)

 これは、1964年に北朝鮮が発行した“三一人民蜂起(45周年)”の切手です。三一独立運動を“人民蜂起”としているあたりが、いかにも北朝鮮っぽいですな。

 李承晩政権下の韓国と日本との関係が冷え込んでいた1950年代末、北朝鮮は韓国の反対を押し切って在日朝鮮人の帰還事業を実現させ、彼らの資金・技術・労働力などを移入することにある程度成功しました。

 ところが、実際に帰還事業が始まってみると、日本国内の“進歩的知識人”らの無責任な言説とは裏腹に、現実の北朝鮮が“地上の楽園”でもなんでもなく、韓国以上に貧しく、抑圧的な体制であることが在日社会でも広く知られるようになったため、1962年には北朝鮮へと渡る在日朝鮮人の数は激減します。

 この間、1961年5月16日の軍事クーデター(516革命)を経て成立した朴正煕政権は、経済開発のための外資導入には日本との関係改善が不可欠との立場から、同年11月、訪米の途上でみずから日本に立ち寄り、日本の首相・池田勇人と会談。以後、中央情報部長の金鐘泌を日本に派遣して秘密交渉を開始し、最大の懸案であった賠償問題については、韓国側の“請求権”に応じ、日本側が無償経済協力3億ドル、政府借款2億ドル等を支払うことで、1962年2月、大筋の合意に到達しました。

 一方、この時期の北朝鮮は、中ソ対立が激化し、ソ連が西側に対する宥和政策をさらに進めていくなかで、対外戦略を根本的に見直す必要に迫られていました。特に、1962年10月、キューバのミサイル危機に際してソ連が米国に譲歩してミサイルを撤去したことで、北朝鮮を含むアジアの社会主義国家は、いざという時には、ソ連は自分たちを見捨てて米国と妥協するのではないかとの不信と不安に駆られることになります。こうした状況の下で、朴正煕の韓国が日本との関係改善を進め、日米韓のトライアングルによって北朝鮮を封じ込めようとする構図は、北朝鮮にとっては悪夢でした。

 このため、金=大平会談後の1962年12月に開催された朝鮮労働党第4期中央委員会第5次全員会議では、「国防建設と経済建設の併進路線」が採択され、すでに開始されていた7ヵ年計画を後退させても、国防力を増強することが決定されます。その具体的な国防方針として採択されたのが、①全人民の武装化、②全国土の要塞化、③全軍装備の現代化、④全軍の幹部化、からなる“四大軍事路線”でした。

 さらに、1964年2月、日韓基本条約の仮署名が行われると、北朝鮮はこれに対抗して“三大革命力量論”を主張するようになります。これは、「南朝鮮(韓国)での革命を達成するためには、北朝鮮の革命勢力、南朝鮮の革命勢力、国際的革命勢力の三者を強化し、結合させよう」というもので、この理論に基づき、北朝鮮はソウルの運輸業者・金鐘泰に工作資金を提供し、“統一革命党創党準備委員会”を結成させるとともに、対外宣伝の一環として、今回ご紹介の切手をはじめ、金日成とは無関係の“抗日闘争”を題材にした切手を盛んに発行するようになります。

 当時の北朝鮮の歴史認識は、金日成らの抗日闘争ソ連による1945年の朝鮮解放を経て、1948年4月、南朝鮮(当時)の代表も出席した南北連会議の結果をふまえて建国されたのが、朝鮮半島唯一の正統政権としての朝鮮民主主義人民共和国であるというものでした。(現在は“ソ連による解放”の部分が削除されています)

 そうした北朝鮮の立場からすると、金日成ともソ連と無関係は三一独立運動は、あくまでも“失敗したブルジョア革命”という位置づけでした。それゆえ、三一独立運動を経て誕生した大韓民国臨時政府は全く無価値な存在であり、李承晩政権が臨時政府の後継者であることをもって大韓民国の正統性を主張することには根拠がないと切り捨てていました。

 これに対して、朴正煕政権は、李承晩時代からの脱却を図るためにも、李が“大統領”を務めていた大韓民国臨時政府についてはあえて無視していましたが、それでも、三一独立運動は大韓民国の原点であるとの認識まで放棄したわけではありません。ただし、李承晩時代に三一独立運動の“歴史的意義”が盛んに強調されてきたことに加え、日本との国交正常化という大目標を達成するためには、日本を不用意に刺激しないほうが得策との判断もあって、1961年の軍事政権発足以降、三一独立運動やその関連の題材を切手に取り上げることもありませんでした。

 そこで、北朝鮮としては、それまでの建前を放棄し、朴政権があえて触れないようにしていた三一独立運動を取り上げることで、朴正煕は国交正常化のために日本に媚びへつらい、変節したではないかと非難し、韓国内の対日国交正常化反対の世論を刺激する意図を込めて、今回ご紹介の切手を発行したものと考えられます。

 なお、日韓国交正常化交渉の過程で、北朝鮮が展開した“反日”プロパガンダについては、拙著『日韓基本条約』でもいろいろご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。


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この記事のコメント
#2562
思わず人に紹介したくなる記事ですね!
2020-03-01 Sun 01:50 | URL | 久木山誉紀滝 #GWMyNl/.[ 内容変更] | ∧top | under∨
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