2019-11-28 Thu 02:09
ご報告がすっかり遅くなりましたが、『本のメルマガ』第727号が配信されました。僕の連載「スプートニクとガガーリンの闇」は、今回は、ソ連のルナ2号について取り上げました。その記事の中から、こんなモノをご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)
1957年10月のスプートニク1号の打ち上げ成功以降、西側世界では、戦略爆撃機や戦略ミサイルの数において、ソ連は米国を凌駕しているという“ボンバー・ギャップ”や“ミサイル・ギャップ”の議論が説得力をもって語られていました。 実際には、米国は経済力・軍事力ともに終始一貫してソ連を圧倒していましたが、ソ連は、西側に蔓延していた“誤解”を活用して、「ソ連に対する圧力と攻撃は深刻な反撃を招きかねないので、ソ連とは一定の妥協をはかり、平和共存を目指すべきだ」という国際世論を誘導しようとします。その真の目標は、米ソ両国の軍縮という形式をとって、米国により多くの核兵器を削減させ、ソ連包囲網を緩和させようという点にあったことはいうまでもありません。 そうした誘導に沿って、西側世界でも、「ソ連の宇宙開発は純粋な科学技術研究で平和目的のものである」、「米国が膨大な核兵器を保有するがゆえに、ソ連は、自衛のため、やむを得ず最低限の核を保有しているのみである」といった論調がソ連に親和的な左派リベラル勢力を中心に盛んに唱えられるようになりました。 こうした世論工作の総仕上げとして計画されたのが、フルシチョフの訪米でした。 すでに1958年1月、フルシチョフはミンスクにおいて、“平和共存”に基づいて話し合いによる国際問題を解決すべく、首脳会談を提唱していましたが、1959年1月27日から2月3日にかけて開催されたソ連共産党第21回大会では、大会直前、第一副首相のアナスタス・ミコヤンが非公式訪米を成功裏に終えたことを受けて、次のように演説しています。 我々はすでに何度も、ソ連と米国という二大国が平和維持のうえで大きな責任を持っていることを指摘した。…両国間においては、お互いに領土的要求はいままでも存在しなかったし、現在も存在していない。両国民が衝突する理由はないのに、ソ連と米国の関係は長期にわたって変則的なままである。…米国にも、ソ連との善隣友好関係の支持者の数が増えていることは、訪米したミコヤンに対する歓迎ぶりからも明らかである。…(平和共存の)途をとるからには、両当事者は大きな相互理解の努力、大きな忍耐力、そして、もし望むなら、大きな寛容を発揮しなければならない。 これを機に、フルシチョフ訪米のための地ならしが本格的に始まり、1959年6月には第一副首相のフロル・コズロフが訪米。7月24日には、モスクワで開催の“米国産業博覧会”の開会式に出席するという名目で米副大統領リチャード・ニクソンがモスクワを訪問します。 博覧会会場に展示してあった米国製のキッチンおよび電化製品を前に、フルシチョフとニクソンは、米国の自由経済とソ連の計画経済を対比し、資本主義と共産主義のそれぞれの長所と短所について討論。その際、ニクソンが消費財の充実と民生の重要性を堂々かつ理路整然と語ったのに対して、フルシチョフは自国の宇宙および軍事分野における成功を感情的にまくしたてていました。いわゆる“キッチン論争”です。 キッチン論争でのフルシチョフの態度は、ソ連の経済力が米国に到底及ばないことを熟知していたが故の焦りによるものであるのは明らかでしたから、米大統領のアイゼンハワーは、豊かで自由な米国社会を実際に見せれば、フルシチョフは、いっそう平和共存路線にかじを切るだろうと考えていました。 かくして、1959年9月15日から27日までの13日間、フルシチョフは、夫人と3人の子供ともども、アイゼンハワーの招待を受けて、ソ連首相として初の訪米を果たします。 米国側は、フルシチョフに対してアイオワ州の成功した個人経営の大農場を見せ、社会主義型の国営農場・集団農場の失敗を認めさせようとしましたが、もとより、フルシチョフも本心では米国の優位を十分に認識していましたから、社会主義の優位を象徴する宇宙開発の実績を強調しつつ平和共存を訴えざるを得ませんでした。 さらに、国連総会に出席して、世界各国の軍備全廃を提案したフルシチョフは、9月25-27日、メリーランド州キャンプ・デイヴィッドにあるアイゼンハワーの別荘で首脳会談を行います。会談では、軍縮、ベルリン危機、貿易、人物交流などの諸問題について話合いが進められ「すべての重要な国際問題は、武力に訴えることなく、交渉による平和的手段によって解決されるべきである」ことについて意見が一致。その一方で、フルシチョフは、アイゼンハワーにルナ2号が月に運んだペナントのレプリカを渡しながら、「米国も必ずや月に到達してソ連のペナントを見つけるでしょう。ソ連のペナントがお待ちしていますよ。米ソのペナントは、きっと、平和と友好の下に共存することになります」と得意げに語ったそうです。 フルシチョフ帰国後の10月27日、ともかくも米ソ首脳会談が無事に終了したことを受けて、ソ連は、今回ご紹介の切手を発行しました。そのデザインは、ワシントンの連邦議事堂とモスクワのクレムリンの間に地球を描き、宇宙空間におけるソ連の優位を暗示させるようなものとなっています。 ★★ 講座のご案内 ★★ 12月以降の各種講座等のご案内です。詳細については、各講座名をクリックしてご覧ください。 ・よみうりカルチャー 荻窪 宗教と国際政治 毎月第1火曜日 15:30~17:00 12/3、1/7、2/4、3/3(1回のみのお試し受講も可) ・東アジア歴史文化研究会 12月12日(木) 18:30~ 於常圓寺祖師堂ホール 朝鮮半島現代史の“原点”についてお話しします。 参加費 2000円 詳細は、主催者(東アジア歴史文化研究会)まで、メール(アドレスは、e-asia★topaz.ocn.ne.jp スパム防止のため、ここでは、★を@に変えています)にてお問い合わせください。 ・日本史検定講座(全8講) 12月13日(金)スタート! 内藤は、全8講のうち、2月20日の第6講に登場します。 ・武蔵野大学生涯学習秋講座 飛脚から郵便へ―郵便制度の父 前島密没後100年― 2019年12月15日(日) (【連続講座】伝統文化を考える“大江戸の復元” 第十弾 ) ★ 最新作 『アウシュヴィッツの手紙 改訂増補版』 11月25日発売!★ 本体2500円+税(予定) 出版社からのコメント 初版品切れにつき、新資料、解説を大幅100ページ以上増補し、新版として刊行。独自のアプローチで知られざる実態に目からウロコ、ですが淡々とした筆致が心に迫る箇所多数ありです。 本書のご予約・ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、本書の目次をご覧いただけるほか、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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