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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手に見るソウルと韓国:人類初の月着陸
2019-07-20 Sat 01:14
 『東洋経済日報』7月19日号が発行されました。僕の月一連載「切手に見るソウルと韓国」は、今回は、きょう(20日)がアポロ11号による月面着陸から50周年となるのにあわせて、こんな切手をご紹介しました。(画像はクリックで拡大されます)

      韓国・月面着陸

 これは、1969年8月15日に韓国が発行した“人類月着陸”の小型シートです。

 東西冷戦下の1,957年にソ連が人類初の人工衛星としてスプートニク1号の打ち上げに成功して以来、米ソは軍事技術の開発と連動した宇宙開発競争を展開していた。実際の米ソの軍事力は米国がソ連を圧倒していたものの、1961年4月にはソ連の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンが、ボストーク1号で史上初の有人宇宙飛行を成功させるなど、宇宙開発競争ではソ連がリードしており、一般国民の間ではソ連の軍事力が過大評価される傾向もありました。

 このため、1961年5月、ジョン・F・ケネディ米大統領は、1960年代末までに人間を月に到達させると公約し、アポロ計画がスタート。ケネディ本人は、1963年11月に暗殺されたが、彼の公約は期限ギリギリの1969年、共和党のリチャード・ニクソン政権によって達せられることになります。

 アポロ11号は、1969年7月16日、ニール・アームストロング船長、マイケル・コリンズ司令船操縦士、エドウィン・オルドリン月着陸船操縦士を乗せてケネディ宇宙センター第39複合発射施設から発射されました。7月20日、アームストロングとオルドリンは人類として初めて月面に降り立ち、コリンズは、その間司令船で月軌道上を周回。その際、アームストロングは、「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」との名言を残したことでも知られています。

 一行は、月面での調査・最終活動を終え、7月24日に地球に帰還。宇宙船はウェーク島から2660キロ東方、ジョンストン環礁から380キロ南方の米空母ホーネットから24キロの地点に無事着水し、およそ1時間後に、ヘリコプターによって救助されました。

 さて、アポロ11号が帰還してから3週間ほど経った8月15日の“光復節”にあわせて、韓国は「人類月着陸」の記念切手を5種セットで発行しました。

 切手は、アポロ11号が打ち上げられてから、月面着陸を経て地球に帰還するまでの5場面を取り上げており、それら5種の切手を収めた小型シートには「惑星地球から来た人間がここに月に第1歩を降り立った」、「我々は全人類を代表して平和的にやってきた」などの文言が入っています。

 なお、切手には1969年7月との表示はありますが、20日(米国時間)ないしは21日(日本および韓国時間)の日付が入っていません。この記念切手を8月15日の光復節に発行することが重要だったとすると、着陸成功(ないしは無事帰還)を確認してから切手の制作に取り掛かっていたのでは間に合わないませんので、事前にイメージ図からデザインを制作しておいて、報道を受けて突貫作業で印刷に取り掛かったため、日付は入れられなかったのだろうと推測されます。

 今回ご紹介の切手が発行された当時、38度線を挟んで東西冷戦の最前線にあった韓国は、ベトナム戦争に派兵していたほか、欧州の分断国家、西ドイツに炭鉱労働者や看護師を派遣していました。また、前年の1968年には北朝鮮の工作員による青瓦台襲撃未遂事件が発生しており、北朝鮮の脅威も高まっていました。

 そこで、自らへの権力を集中と安定化により、軌道に乗りつつあった経済成長路線を持続させようと考えた朴正熙大統領は、1969年初、大統領の3選を禁じた憲法の改正(3選改憲)に向けて動き出しします。これに対して、野党や学生らはこれに強く反発し、6月27日から7月3日までの6日間、ソウル市内だけでも12大学延べ3万3000名余が参加する大規模なデモが発生するなど、世情は騒然としていました。

 結局、10月17日の国民投票で3選改憲は達せられるのですが、この過程で報じられたアポロ11号の快挙は、米国の偉業をたたえ、米国との友好関係を強調して、韓国が西側陣営の一員であるとの旗幟を改めて鮮明にするとともに、“アカ(と政府が見なした人々)”に対するカウンターとしても重要な政治的効果を挙げられると判断されたものと考えられます。そうであればこそ、韓国郵政は、突貫作業で記念切手を制作し、政治的に最も重要な祝日である光復節にあわせて発行したと考えるのが妥当でしょう。

 なお、朴正煕時代の韓国については、拙著『韓国現代史』でもいろいろとご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひ、お手に取ってご覧いただけると幸いです。
 

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