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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 きょう、露朝首脳会談
2019-04-25 Thu 01:10
 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、きのう(24日)午後、特別列車でロシア・ウラジオストクに到着し、きょう(25日)、プーチン大統領との初会談を行います。というわけで、きょうは“露朝友好”を示す切手の中から、この1枚です。(画像はクリックで拡大されます)

      ロシア・朝鮮解放70年

 これは、2015年にロシアが発行した“朝鮮解放70周年”の記念切手で、平壌の凱旋門が取り上げられています。

 切手に取り上げられた凱旋門は、金日成の“抗日闘争勝利”を記念するものとして、1982年4月の金日成古希にあわせて、平壌市牡丹峰区域に建造されました。その背景には、金日成古希慶祝事業を通じて、それを指揮した後継者・金正日の権威を国民に対して誇示する意図があったのは明白です。

 門は、高さ60メートル、幅52.5メートルで、アーチ型の通路は高さが27メートル、幅が18メートルあり、パリの凱旋門(高さ49メートル)よりも大きいことが、北朝鮮にとっては自慢のひとつだそうです。門の左右の柱には、金日成が故郷を離れたとされる1925と、彼の凱旋の年とされる1945の年号が記されており、その東側と西側の壁面は白頭山の浮き彫りが、南側と北側の壁面には「金日成将軍の歌」や革命を賛美する歌の歌詞が彫刻されています。

 現在の北朝鮮の公式の歴史認識では、金正日は、朝鮮民族の聖地である白頭山の霊気と、金日成の抗日闘争の伝統をともに受け継いで生まれてきた人物であり、それゆえ、金日成から金正日への権力の世襲は正当化されることになっています。ただし、歴史的事実としては、金正日は、金日成がソ連領内で軍事訓練を受けていた時期に生まれたことが確認されており、出生地としては、ハバロフスク近郊、ヴャツコエの野営地が有力視されています。

 このため、北朝鮮当局にとっては、金日成がソ連領内で軍事訓練を受け、戦後、北朝鮮へ帰国したというのはタブーになっており、今回ご紹介の凱旋門も、あくまでも金日成は中朝国境の山岳地帯で抗日闘争を戦い、平壌に凱旋したことを記念する建造物というのが建前です。

 一方、ロシア側からすれば、そもそも、北朝鮮国家はソ連が衛星国として建国したという意識があります。

 すなわち、ナチス・ドイツとの血みどろの戦争を体験したソ連は、第二次大戦後、周辺を藩屏となる衛星国や友好国で固めることで自国の防衛を図るという世界戦略を立て、極東に関しては、満洲と朝鮮半島(の少なくとも北半部)を勢力圏内に組み込み、衛星国を建設することを基本方針としていました。

 このため、1945年8月10日、ソ連軍は朝鮮北端の都市・雄基に突入したのを皮切りに、同月15日の日本側の無条件降伏発表後も南侵を続け、同21日には元山を占領。さらに26日にはチスチャコフ大将指揮下の第25軍が平壌に入城し、ソ連軍民政部を設置して事実上の軍政を実施しました。

 そして、同年9月2日、日本が降伏文書に調印すると、連合国軍最高司令官のマッカーサーは、一般命令第一号を発して、朝鮮半島に関しては、北緯38度線以北はソ連極東軍司令官が、同以南は合衆国太平洋陸軍部隊最高司令官が、それぞれ、駐留日本軍の降伏を受理するものとされます。これをうけ、ソ連占領軍は、大戦中、ソ連極東方面軍で訓練を積んでいた金日成らを帰国させ、北朝鮮における衛星国の建設に着手しました。

 このことをもって、ソ連とその後継国家としてのロシアは自分たちが(北)朝鮮を“解放”下と主張しており、建国初期の北朝鮮では、ソ連赤軍による“北朝鮮解放”を記念して平壌・牡丹峰の麓に解放塔なる記念建造物も建設されました。ちなみに、ソ連の衛星国として出発した北朝鮮は、当初、朝鮮の解放と北朝鮮国家の建国はソ連のおかげであるという立場を取っており、「(ソ連によってではなく)原爆が落ちて日本は戦争に負けた」との趣旨の発言をした人物が処罰されることさえありました。解放塔は、そうしたソ連の“恩恵”を可視化するものとして、かつては、しばしば北朝鮮の切手に取り上げられました。

 解放塔は、現在なお、平壌市内に存在していますが(さすがに、取り壊してしまうとロシアにケンカを売ることになるので)、“ソ連による朝鮮解放”という、北朝鮮にとっては歴史のタブーを可視化するものであるがゆえに、メディアなどで取り上げられることはまずありません。これに対して、平壌駐在のロシア大使館は、朝鮮の戦闘で戦死したソ連軍の軍人を追悼して、定期的に解放塔に花輪を献じていますが、“朝鮮解放70周年”の記念切手にあえて解放塔を取り上げて北朝鮮との関係をあえて悪化させることは得策ではないと判断し、北朝鮮側の顔を立てて、金日成伝説を表現した凱旋門を切手の題材としたものと考えられます。もっとも、“朝鮮解放70周年”の記念切手を発行することじたい、ロシアにしてみれば、朝鮮を“解放”したのは、金日成ではなく、自分たちなのだという意思をにじませているといえばそれまでなのですが…。

 なお、北朝鮮国家の成立過程と、ソ連との関係については、拙著『朝鮮戦争』でもまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひお手にとってご覧いただけると幸いです。


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