2018-11-08 Thu 01:42
中印に挟まれたヒマラヤの山国ブータンで、きのう(7日)、先月の下院選で第1党となった協同党のロテ・ツェリン党首が首相に就任しました。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)
![]() これは、1988年にブータンで発行された“チュカ水力発電所”の切手です。 ブータンは山国の地形と豊富な水資源を利用した水力発電が盛んで、インドへの売電が主要な外貨獲得源になっています。今回ご紹介の切手に取り上げられたチュカ水力発電所は、インドの支援を得て、ライダク川上流に1974年から建設が始まり、1986年に完成。336メガワットの発電能力は、2007年にタラ水力発電所が稼働開始するまでは、国内最大の発電量を誇っていました。 19世紀後半から20世紀初頭にかけて、チベットをめぐって英国と清朝が激しく対立する中で、1910年、ブータン国王ウゲン・ワンチュクは、プナカ条約を締結してブータンを英領インド帝国の保護国とし、国土防衛を英国に委ねるとともに、鎖国体制を維持しようとしました。 1947年に英領インド帝国がインドとパキスタンに分離独立すると、1949年8月、ブータンは独立インドとあらためて友好条約を締結。同条約では「インドはブータンの内政には干渉しないが、外交に関しては助言を行う」とされ、ブータンがインドに依存する関係が構築されます。 1958年、ブータンを訪問したインド首相のネルーは、インドがブータンの独立を支援することを約束。さらに、帰国後、インド議会で「ブータンに対する攻撃は、いかなるものであっても、インドに対する攻撃と同等とみなす」と演説し、ブータンの事実上の“宗主国”としての責任を果たす意思を明確にしました。さらに、翌1959年、いわゆるチベット民族蜂起が起こり、ダライ・ラマがインドに亡命すると、中国はチベット域内にあったブータンの飛び地領8ヵ所も占領。これに対して、ネルーは「ブータンの領土保全はインド政府の責任」と明言します。 ところが、1962年に勃発した中印国境紛争では、ブータンはインド軍に対して自国領通過の自由を認めるなど協力したものの、インド軍は惨敗。このため、中国の脅威を前に、伝統的な鎖国政策を維持できなくなったブータンは、1971年、国連に加盟する一方、1974年、国王ジグミ・シンゲ・ワンチュクの戴冠式に、駐印中国大使を招待し、中国との外交的な接触を開始。1984年以降、国交樹立と国境画定を議題とする定期外相会談もスタートしました。 この結果、1988年には中国と「国境地域の平和維持に関する協定」が調印され、「中国はブータンの主権と領土的統一を尊重し、両国は平和五原則に基づき、友好関係を築くのが望ましい」とされましたが、その直後、中国はブータンが自国領と主張する地域にブータンの許可なく道路を建設。その後も、冬虫夏草目当てとみられる中国人の越境が相次ぎました。 このため、ブータンは再びインドとの関係を強化し、2007年、インドとの新友好条約を調印。2008年にはインドのシン首相がブータンを訪問して、水力発電事業などに “強力な支援”を表明したほか、2014年にはモディ首相が最初の外遊先としてブータンを訪問しています。 こうした中で、2017年6月29日 ブータン領のドクラム高地で中国人民解放軍が40トン戦車が走行可能な道路を無断で建設したため、ブータン政府は即座に抗議。インドもブータン支援のため、ドクラム高地に派兵し、中印両国がにらみ合う緊張状態(ブータン危機)が生じましたが、8月末、両軍はともに撤退し、本格的な軍事衝突は避けられました。 ことし10月の下院選挙は、こうした状況の下で行われたもので、協同党のツェリン党首は、水力発電関連の借り入れは対外債務の約8割を占めている現状を批判し、水力発電所の増強計画見直しを公約の一つとして掲げていました。今後、新政権は親印政策の軌道修正に乗り出すものと思われますが、中印両国に挟まれた小国という立場ゆえ、インドの勢力が後退すれば、代わりに中国が勢力を拡大する可能性が高く、今後の行末が気がかりです。 ★★ トークイベント・講演のご案内 ★★ 以下のスケジュールで、トークイベント・講演を行いますので、よろしくお願いします。(詳細は、イベント名をクリックしてリンク先の主催者サイト等をご覧ください) 11月11日(日) 昭和12年学会大会 於・ベルサール神田 「昭和切手の発行」 *入場は無料ですが、学会への御入会が必要です。 11月16日(金) 全国切手展<JAPEX 2018> 於・都立産業貿易センター台東館 15:30- 「チェ・ゲバラとキューバ革命」 *切手展の入場料が必要です 12月9日(日) 東海郵趣連盟切手展 於・名古屋市市政資料館 午前中 「韓国現代史と切手」 12月16日(日) 武蔵野大学日曜講演会 於・武蔵野大学武蔵野キャンパス 10:00-11:30 「切手と仏教」 予約不要・聴講無料 ★★ 内藤陽介 『朝鮮戦争』(えにし書房) 3刷出来!★★ ![]() 【出版元より】 「韓国/北朝鮮」の出発点を正しく知る! 日本からの解放と、それに連なる朝鮮戦争の苦難の道のりを知らずして、隣国との関係改善はあり得ない。ハングルに訳された韓国現代史の著作もある著者が、日本の敗戦と朝鮮戦争の勃発から休戦までの経緯をポスタルメディア(郵便資料)という独自の切り口から詳細に解説。解放後も日本統治時代の切手や葉書が使われた郵便事情の実態、軍事郵便、北朝鮮のトホホ切手、記念切手発行の裏事情などがむしろ雄弁に歴史を物語る。退屈な通史より面白く、わかりやすい内容でありながら、朝鮮戦争の基本図書ともなりうる充実の内容。 本書のご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 ★★★ 近刊予告! ★★★ えにし書房より、拙著『チェ・ゲバラとキューバ革命』が近日刊行予定です! 詳細につきましては、今後、このブログでも随時ご案内して参りますので、よろしくお願いします。 ![]() (画像は書影のイメージです。刊行時には若干の変更の可能性があります) |
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