2017-11-23 Thu 10:56
きょう(23日)は勤労感謝の日(もともとは収穫を祝い、翌年の豊穣を祈願する新嘗祭)です。というわけで、農家の方々に感謝して、“収穫”を取り上げた切手の中から、この1枚を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1970年4月7日、イラクが発行した“バアス党創設23周年”の記念切手で、バアス党の理念である汎アラブ旗(パレスチナの旗と同じ)を持つ軍人を先頭に、工員や鎌と収穫された麦の穂を持つ農民などが描かれています。 バアス党の党名は、日本語に訳すと、アラブ社会主義復興党となります。“アラブ社会主義”は、きわめて単純化してしまえば、金融を含む重要産業の国有化と計画経済による開発独裁体制のことで、いわゆるマルクス・レーニン主義のように、宗教を“民衆のアヘン”として排斥するものではありません。このアラブ社会主義と、アラブ世界における既存の国境を解体してアラブの再統合を図るというアラブ民族主義が、バアス党の基本綱領として掲げられています。 バアス党のルーツは20世紀初頭にも遡るとされることもありますが、制度的には、1940年12月、シリアの民族主義者(宗教的にはアラウィ―派)のザキー・アルスィーズィーらがダマスカスで秘密結社として組織した“アラブ・バアス党”がその源流となっています。 シリア独立後の1947年4月7日、同党は、ミシェル・アフラクとサラーフッディーン・ビータールらを中心に結党大会を開いて公然組織となり、以後、シリアを本部として、イラク、レバノン、ヨルダン、イエメンに支部を拡大していきます。党名が現在のアラブ社会主義バアス党となったのは、1953年にアラブ社会党と合併してからのことです。 1958年にエジプトとシリアの合邦により発足したアラブ連合共和国は、1961年、シリアの離反によって破綻。その後もナセルは“アラブ連合”の大義名分を放棄せず、アラブ諸国の再統合を水面下で模索し続けましたが、その際、自分に代わって各国のバアス党が連携して国家統合を進めることには警戒感を抱いていた。 こうした背景の下、イラクでは、1963年2月にバアス党も加わったラマダーン革命が発生。しかし、革命後の同年11月、非バアス党員でナセル主義者のアブドゥッサラーム・アーリフはバアス党を政権から追放し、革命の果実を独占します。 アブドッゥサラーム・アーリフは、1966年4月13日の飛行機事故で亡くなり、その後は、アブドゥッラフマーン・バッザースによる3日間の暫定大統領を経て、アブドゥッサラームの兄、アブドゥッラフマーン・アーリフが大統領職を継承しました。アーリフ兄弟はいずれもエジプトとの連携を強化し、1967年の第三次中東戦争にも参戦したが、結果として敗北。翌1968年のバアス党のクーデターでアブドゥッラフマーンは失脚し、トルコへ亡命しました。 ところで、イラクがアーリフ政権下にあった1966年、シリアでは大統領のアミーン・ハーフィズに対して、ハーフィズ・アサドとサラーフ・ジャディードがクーデターを起こし、バアス党内の実験を掌握します。これに伴い、バアス党の創設者の一人にして、その代表的なイデオローグであり、クーデター発生時のシリア・バアス党の委員長だったミシェル・アフラクが失脚しました。 この結果、アフラクの権威を否定するシリア・バアス党と、従来通り、アフラクをバアス党の理論的支柱とみなすイラク・バアス党の間で対立が生じました。 1966年のシリアでのクーデター直後、ダマスカスで開催された第9回バース党大会でアフラクとその支持者が追放されると、これを受けて、当時、アーリフ政権下で下野していたイラク・バアス党は直ちにベイルートで“真の”第9回党大会を開き、アフラクを民族指導部事務総長として迎え入れます。以後、アラブ世界各地のバアス党運動はシリア派とイラク派に分裂し、両者は対立するようになりました。 こうした経緯を経て、1968年、イラクでバクルひきいるイラク・バアス党政権が成立。同政権は、1970年4月7日、今回ご紹介の切手を発行し、アフラクを迎えた自分たちこそがバアス党の本流であることを誇示しようとしたわけです。 すなわち、この切手は1947年、アフラクも参加してダマスカスで行われたバアス党結党大会から起算して“23周年”になるのを記念して発行されたもので、「社会主義」「自由」「統一」というバアス党のスローガンが掲げられ、アラブの連帯の象徴としてパレスチナの地図と岩のドームも描かれています。その一方で、“シリア”をイメージさせる要素は一切なく、あたかも、イラク・バアス党が1947年以来、バアス党運動の中軸を担ってきたかのような印象操作が行われています。 なお、このあたりの事情については、拙著『パレスチナ現代史 岩のドームの郵便学』でもご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。 ★★ 内藤陽介の最新刊 『パレスチナ現代史 岩のドームの郵便学』 ★★ 本体2500円+税 【出版元より】 中東100 年の混迷を読み解く! 世界遺産、エルサレムの“岩のドーム”に関連した郵便資料分析という独自の視点から、複雑な情勢をわかりやすく解説。郵便学者による待望の通史! 本書のご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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