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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手歳時記:炬燵開き
2016-11-13 Sun 10:02
 ご報告が遅くなりましたが、公益財団法人・通信文化協会の雑誌『通信文化』2016年11月号ができあがりました。僕の連載「切手歳時記」は、今回はこの1点を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      第52回国際図書関連名東京大会

 これは、1986年8月23日に発行された“第52回国際図書関連名東京大会”の記念切手で、勝川春章の「風俗十二月図(婦女風俗十二月図とも)」の中から、「十一月 白雪」の一部分がトリミングして取り上げられています。

 第52回国際図書館連盟東京大会は、1986年8月24日から29日まで、東京の国立劇場、青山学院大学および日本青年館を会場として開催されました。

 切手に取り上げられた「風俗十二月図」の作者、春章は葛飾北斎の師匠で、明和(1764-71)から寛政(1789-1801)の初めにかけて活躍しました。細密な美人画を得意とし、1775年の洒落本『後編風俗通』には「春章一幅価千金」との一文も見られたほど、当時から人気が高かった画家です。

 「風俗十二月図」は、春章が一番脂の乗っていた天明期(1781-89)の作で、もともとは12幅で一揃いの軸物としてつくられました。縦長の画面に、数人の婦女子と楼舎、調度、花卉などを描き、その背景には月ごとの季節感や行事を取り込んでいます。

 ただし、オリジナルの軸のうち、1月と3月の2幅は失われたため、後に、これも名手の歌川国芳(1897-1861)によって補充されました。しかし、1月の軸は再び失われてしまったため、国芳の作品として現存しているのは「三月 潮干狩図」のみです。

 さて、第52国際図書館連盟東京大会の記念切手の題材として、「風俗十二月図」の「十一月 白雪」を選んだ理由として、当時の郵政省は、「大会の日本での開催にちなみ日本の伝統文化である浮世絵を取り上げた」が、「家族的な雰囲気で読書を描いた浮世絵は極めて少ない」と説明しています。

 たしかに、切手に取り上げられた部分を見ると、子供を膝の上に載せて本を読む(読ませる?)母親が描かれていますが、春章の絵の趣旨としては、この部分の肝は本の下の炬燵です。「十一月 白雪」のオリジナルでは、上方に小雪ちらつく窓外を眺める2人の女性を描き、その下に、寒さの中で母が子を炬燵に入れて本を読む場面を配する構図になっているからです。

 江戸時代、炬燵を出す“炬燵開き”の日は、武家は亥の月の初亥の日(最初の亥の日)、町屋の一般庶民は二の亥の日と決まっていました。

 亥の月は旧暦の10月(現在の暦だとほぼ11月)。したがって、春章の絵に描かれた町人の家では母子が炬燵に入っているのは、早くても10月の後半以降だから、実質的に炬燵を頻繁に使うようになるのは、画題の通り、11月(現在のほぼ12月)に入ってからということになるのでしょう。

 十二支はもともと中国の陰陽五行説に基づく習慣で、本来は動物とは無関係。“亥”は草木の生命力が種の中に閉じ込められた状態を表していますが、後に、庶民にも覚え易いように動物と結び付けられ、亥には“猪”が割り当てられました。ちなみに、猪の字の意味は、日本語では“イノシシ”ですが、中国語では“ブタ”です。

 また、日本古来の言い伝えでもイノシシは火を逃れて走ると考えられてきました。

 こうしたことから、亥の日に炬燵を出すと火事にならないとの俗信が生まれ、亥の子の日は炬燵開きの日になったわけです。

 ちなみに、今年(2016年)の亥の月の初亥は11月1日、二の亥は13日(まさに今日です)で、25日には三の亥もめぐってきます。ただし、悲しいかな、わが家にはエアコンのみで炬燵そのものがないので、“炬燵開き”のやりようがないのは、ちと残念ですが…。


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