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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 表紙の郵便物
2015-11-11 Wed 09:29
 きょう(11日)は、拙著『アウシュヴィッツの手紙』の奥付上の刊行日です。というわけで、プロフィール画像にも使っている表紙カバーで取り上げた郵便物についてご説明いたします。(画像はクリックで拡大されます)

      アウシュヴィッツ・フランス宛カバー   アウシュヴィッツ・フランス宛カバー(裏面)

 これは、1944年5月20日、アウシュヴィッツに動員されていたフランス人労働者が差し出した郵便物とその裏面です。

 1940年6月、ドイツに降伏したフランスはパリを含む国土の北部をドイツに占領され、中部の都市ヴィシーに第一次大戦の英雄だったフィリップ・ペタン元帥を元首とする親独政権の“フランス国”(ヴィシー政権)が成立しました。

 1941年6月に独ソ戦が始まると、同年11月、ヴィシー政権は反共フランス義勇軍を派遣。彼らは、ドイツ陸軍第638歩兵連隊としてドイツ陸軍第7歩兵師団に所属し、東部戦線におけるモスクワの戦いに参加したのを皮切りに、ソ連軍と戦いました。

 こうした経緯を経て、1942年6月、ヴィシー政権首相のピエール・ラヴァルは、対独協力をさらに進め、共産主義を阻止するためにドイツの勝利を支持すると声明し、ドイツがフランス人捕虜1人解放せればフランス人労働者3人をドイツ国内の工場に送ることを発表しました。これは、同年3月から、ドイツの労働力配置総監フリッツ・ザウケルが、軍需大臣アルベルト・シュペーアの要求に応じ、ヨーロッパの占領地区から労働者の強制連行を開始していた動きに呼応するものでした。

 これを受けて、1943年1月、ドイツの労働力配置総監フリッツ・ザウケルの要求に応じて、1920-22年生まれのフランスの若者(当時の年齢で21-23歳)25万人が動員され、ドイツに送られます。その後、1944年1月にはドイツ側から100万人のフランス人労働者を送るよう要求があり、これに対して、フランス側は7月21日までに総計60-65万人をドイツに送り込みました。

 こうしたフランス人労働者のその一部はアウシュヴィッツ収容所での作業に従事させられましたが、アウシュヴィッツで働かされた労働者は“民間人”として郵便物を差し出すことが可能でした。

 今回ご紹介のカバーもその一例で、1944年5月20日、ビルケナウの第2収容所での労働に従事していた労働者が差し出したものです。

 封筒には、郵便物の性格を示すものとして、“Auschwitz O/S Gemeinschaftslager Buchenwald West Poststelle”の印が押されているほか、民間人の差し出した郵便物としてアウシュヴィッツ1局の消印(一般的な収容所関連の郵便物はアウシュヴィッツ2局の消印です)が押されています。また、外国郵便として、逓送途中で開封・検閲されたため、ドイツの当局者によってナチス・ドイツの国章がある封緘紙で封をされています。

 なお、これらの郵便物が差し出されたからほどなくして、1944年6月6日、ノルマンディー上陸作戦が開始され、連合軍がフランスに再上陸。8月25日にはパリが解放されてフランス共和国臨時政府がパリに移転し、ヴィシー政権は崩壊します。これに伴い、7月21日にはフランスからドイツへの労働者の提供も中止されました。

 なお、このあたりの事情につきましては、拙著『アウシュヴィッツの手紙』でも詳しくご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。
 

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