2014-11-19 Wed 12:44
アシェット・コレクションズ・ジャパンの週刊『世界の切手コレクション』2014年11月19日号が、先週、刊行されました。僕が担当しているメイン特集「世界の国々」のコーナーは、今回はカンボジアの特集です。その記事の中から、この切手をご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)
これは、内戦終結後の1996年に発行された800リエル切手で、国民和解の象徴として、内戦時に埋められた地雷で負傷する人々のために松葉杖を作る障碍者が取り上げられています。 1945年3月、日本軍がインドシナ半島のフランス軍を駆逐すると、ノロドム・シハヌークはカンボジアの独立を宣言します。しかし、同年8月15日、日本は連合国に降伏し、ヴェトナムではホーチミンがヴェトナム民主共和国(ヴェトミン)の独立を宣言。その際、歴史的にヴェトナムの圧迫を受け続けてきたカンボジアは、ヴェトミンの侵略を恐れて、一旦フランスの帰還を制限つきで承認するとともに、シハヌークがみずから米国を始めとする諸外国を歴訪してカンボジアの現状と独立を国際世論に訴えました。 その結果、1949年、カンボジアはフランス連合内での形式的な独立を認められましたが、フランスは警察権・軍事権を手放しませんでした。このため、シハヌークは離宮に籠もり「完全独立が達成されるまで首都・プノンペンには戻らない」と宣言。これを機に、カンボジア国内では反仏デモが盛り上がり、1953年11月9日、カンボジア王国の完全独立が達せられます。 独立後の1955年3月、立憲君主国の象徴的な元首としての“国王”の地位にあきたらなくなったシハヌークは退位し、父親のノロドム・スラマリットを国王として即位させました。 退位後のシハヌークは“殿下”の称号を使いつつ、政治団体・社会主義人民共同体(サンクム・リアハ・ニヨム)を結成。同年の総選挙は与党が全議席を獲得するという圧勝となり、シハヌークは首相兼外相に就任します。さらに、1960年3月、国王が崩御すると、王位を空位として新設の“国家元首”となり、“王制社会主義”の看板を掲げ、左派色の強い開発独裁政策を推進しました。 これに対して、左派・リベラル色の強いシハヌークを嫌った米国は、1970年3月、シハヌークが北京に外遊している隙をついて、首相兼国防相ロン・ノル将軍と副首相シリク・マタク(シハヌークの従兄弟)らにクーデターを敢行させます。シハヌークは国家元首から解任され、王制は廃止され、“クメール共和国”の樹立が宣言されました。 これに対して、シハヌークはクーデター後も北京に留まって、亡命政権“カンボジア王国民族連合政府”を結成。ロン・ノル政権打倒を掲げて、中国・北朝鮮の仲介でクメール・ルージュ(ポル・ポト派)と提携し、カンボジアは本格的な内戦の時代に突入します。 ロン・ノル政権と反政府勢力との内戦は、1975年、カンボジア全土を制圧したポル・ポト派が、シハヌークを国家元首とする共産主義国家“民主カンプチア”の成立を宣言することでいったん終結。シハヌークも滞在先の平壌から帰国しました。 しかし、1979年までに100万人以上の国民が亡くなったとされるポル・ポトの恐怖支配の下では、シハヌークの“国家元首”も名目的なものにすぎず、彼と家族はプノンペンの王宮での事実上の幽閉生活を余儀なくされました。 シハヌークは病気療養を理由に海外出国を望んだものの許されず、1976年4月、国家元首の辞任が認められただけでした。結局、1979年にヴェトナム軍がカンボジアに侵攻すると、彼は、国連でヴェトナム軍の不当性を訴えるという名目で国外に脱出します。 1979年、ポル・ポト政権が崩壊し、ヴェトナムの支援を受けたカンプチア人民共和国が成立すると、ポル・ポト派とシハヌーク派、ロン・ノル派の流れをくむソン・サン派の3派は連合し、ヴェトナム軍およびヘン・サムリン軍との内戦が続くことになります。 その後、1991年10月、カンボジアの内戦はパリ和平協定が締結されまで続きましたが、和平協定の調印後は、国家再建のため、1992年3月から、明石康を事務総長特別代表とする国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)による統治がスタート。1993年5月には国連の監視下で民主選挙が実施されました。選挙は無事に終了し、選挙後の制憲議会は、同年9月、新憲法を発布し、シハヌークを国王とする立憲君主制が復活しました。 さて、『世界の切手コレクション』11月19日号の「世界の国々」では、シハヌークを軸にしたカンボジア現代史について概観しているほか、アンコール遺跡を取り上げた世界最初の仏像切手、伝統的な銀細工や民族衣装、隣国タイとの係争地にあるプレアヴィヒア寺院の切手などもご紹介しております。機会がありましたら、ぜひ、書店などで実物を手に取ってご覧いただけると幸いです。 なお、本日発売の11月26日号では、「世界の国々」はアフガニスタンにフォーカスを当てておりますが、こちらについては、来週水曜日に、このブログでもご紹介する予定です。 ★★★ インターネット放送出演のご案内 ★★★ 毎週水曜日、インターネット放送・チャンネルくららにて、内藤がレギュラー出演する番組「切手で辿る韓国現代史」が配信されています。青字をクリックし、番組を選択していただくとYoutube にて無料でご覧になれますので、よろしかったら、ぜひ、ご覧ください。(画像は収録風景で、右側に座っているのが主宰者の倉山満さんです) ★★★ よみうりカルチャー荻窪の講座のご案内 ★★★ 毎月1回(原則第1火曜日:1月6日、2月3日、3月3日、3月31日)、よみうりカルチャー(読売・日本テレビ文化センター)荻窪で下記の一般向けの教養講座を担当します。 ・イスラム世界を知る 時間は15:30-17:00です。 次回開催は1月6日(都合により、12月はお休みをいただきます)で、途中参加やお試し見学も可能ですので、ぜひ、お気軽に遊びに来てください。 ★★★ 内藤陽介の最新刊 『朝鮮戦争』好評発売中! ★★★ 本体2000円+税 【出版元より】 「韓国/北朝鮮」の出発点を正しく知る! 日本からの解放と、それに連なる朝鮮戦争の苦難の道のりを知らずして、隣国との関係改善はあり得ない。ハングルに訳された韓国現代史の著作もある著者が、日本の敗戦と朝鮮戦争の勃発から休戦までの経緯をポスタルメディア(郵便資料)という独自の切り口から詳細に解説。解放後も日本統治時代の切手や葉書が使われた郵便事情の実態、軍事郵便、北朝鮮のトホホ切手、記念切手発行の裏事情などがむしろ雄弁に歴史を物語る。退屈な通史より面白く、わかりやすい内容でありながら、朝鮮戦争の基本図書ともなりうる充実の内容。 本書のご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、アマゾン他、各電子書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 *8月24日付『讀賣新聞』、韓国メディア『週刊京郷』8月26日号、8月31日付『夕刊フジ』、『郵趣』10月号、『サンデー毎日』10月5日号で拙著『朝鮮戦争』が紹介されました! ★★★ ポストショップオンラインのご案内(PR) ★★★ 郵便物の受け取りには欠かせないのが郵便ポストです。世界各国のありとあらゆるデザインポストを集めた郵便ポストの辞典ポストショップオンラインは海外ブランドから国内製まで、500種類を超える郵便ポストをみることができます。 |
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