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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 世界一の珍品切手、競売へ
2014-06-17 Tue 19:05
 “世界一の珍品切手”として知られる英領ギアナの1セントが、米東部時間の17日午後7時、ニューヨークのサザビーズでオークションにかけられます。というわけで、今日はこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

      ガイアナ・英領ギアナ1セント

 これは、1967年2月23日、独立後まもないガイアナで発行された“英領ギアナの1セント”を描く切手です。

 南米大陸北部の大西洋に面したギアナ地方は、オランダ、フランス、イギリスの3国によって分割されていましたが、このうちの英領ギアナでは1850年に、最初の切手として現地製の素朴な切手(糸巻きのシールに似ていることから“コットン・リール”と呼ばれています)が発行されました。

 その後、英領ギアナでは、1852年から帆船(ちなみに、英領ギアナの印章は帆船です)を描く本国製の切手が使われるようになりましたが、1856年、英本国から首府ジョージタウンへの切手の到着が遅れたため、暫定的に現地で印刷された臨時切手が発行されました。

 切手は赤色の着色紙に印刷されており、中央には公報のカットに用いられていた帆船が描かれています。その上下には「Damus Petimus Que Vicissm(求めよ、さらば与えられん)」の銘が入っており、偽造防止のための局員のサインが書き込まれました。なお、当時の英領ギアナの書状基本料金は4セントで、1セントは域内の新聞用の料金です。

 その後、本国から切手が到着すると、暫定的に作られた1セント切手は長らく忘れられた存在となっていましたが、1873年、ジョージタウンで、当時12歳のヴァーノン・ヴォーガンが自宅宛ての古い手紙の中から“見慣れない切手”を発見。ヴォーガンは、通信販売の切手を買うために、近所の雑貨商マッキノンにこの切手を6シリングで買い取ってもらい、“英領ギアナの1セント”の存在が実際に確認されることになりました。ちなみに、マッキノンは英領ギアナ切手のコレクターで、1セント切手が“少ない”ということは知っていましたが、まさか現存1枚とは思っていなかったことに加え、ヴォーガンが持ち込んだ切手の状態があまりにも悪かったため、当初は買い渋っていたそうです。

 1878年、マッキノンはこの1セント切手を含む英領ギアナの専門コレクションをリバプールの切手商トマス・リッドパスに120ポンドで売却。リッドパスは、年内に、1セント切手をパリ在住の著名な収集家でオーストリア国籍のフィリップ・フォン・フェラーリに約150ポンドで転売しました。

 その後、フェラーリは1917年に亡くなるまで1セント切手を持ち続けました。彼の死後、その膨大な切手のコレクションは遺言によりベルリン国立郵便博物館に寄贈されるはずでしたが、時あたかも第一次大戦の最中で、フランスとオーストリアは敵対関係にありましたので、フェラーリコレクションは没収され、1922年、戦時賠償の一環として競売にかけられました。その際、英領ギアナの1セントは30万フラン(17.5%の落札手数料を加えた支払総額は35万2000フラン)でニューヨークのアーサー・ハインドが競り落としています。

 ハインドの存命中、ある人物が2枚目の1セント切手を発見し、彼の元に持ち込むと、ハインドは言い値(非公表)の2倍で切手を買い取り、それを目の前で焼却。「これで英領ギアナの1セントは世界に1枚しかなくなった」と語ったという伝説が残されています。

 ハインドの死後、1セント切手の相続権をめぐって裁判が行われ、1セント切手は未亡人のスカラが相続。彼女は、1935年にロンドンのオークションに切手を出品し、7500ポンドの入札があったものの、彼女の落札最低希望価格に届かなかったため、売買は不成立に終わりました。その後もスカラの希望価格での購入を希望する買い手はなかなか現れず、1940年、ニューヨークのメイシー商会が投資目的で切手を4万ドル(当時のレートで約1万ポンド)で購入しています。

 1970年、メイシー商会はニューヨークで行われたシーゲル社のオークションにこの切手を出品。このときは、切手には全く興味のない投資目的のシンジケート8人が28万ドル(10%の落札手数料を加えた支払総額は30万8000ドル)で落札。彼らは、10年後の1980年に切手をオークションに出品し、大手化学メーカー・デュポン社の御曹司であるジョン・E・デュポンが85万ドル(10%の落札手数料を加えた支払総額は93万5000ドル)で落札しました。

 デュポンは英領ギアナ切手のコレクターで、切手の購入は投資目的ではなく、純粋に趣味ためでした。しかし、1996年1月26日にフィラデルフィアの自宅でレスリングのオリンピック金メダリスト、デヴィッド・シュルツを射殺する事件を起こして逮捕され、裁判で懲役13-20年の不定期刑の判決を受けてペンシルヴァニア州の刑務所に服役。2010年12月9日に獄死したため、今回のオークションでの売り立てとなったというわけです。

 さて、ことし(2014年)は、わが国とカリブ共同体(旧英領を中心にカリブの14か国1地域が加盟。英領ギアナが独立してできたガイアナも加盟国です)の事務レベル協議開始後20年が経過した年であるとともに、ジャマイカならびにトリニダード・トバゴとの国交樹立50周年にもあたることから、“日・カリブ交流年”とされています。

 8月1-3日、東京・墨田区で開催が予定されている<全日本切手展2014>でも、これにちなみ、外務省の認定を受けた“日・カリブ交流年”の行事として“カリブ切手展”を併催の予定です。同展では、今回売りに出された1セント切手は無理ですが、同じデザイン・用紙で、見かけはそっくりの4セント切手を展示する予定です。まだ少し先の話ですが、ぜひ会場に遊びに来ていただけると幸いです。
 

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 7月18日・8月29日・9月19日の3回、愛知県名古屋市の栄中日文化センターで、第一次大戦100年の企画として、「切手を通して学ぶ世界史」と題する講座を行います。

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この記事のコメント
予想よりは安めだったみたいですね。。

それでも吹けば飛ぶよな薄汚い紙切れに10億円というのは信じられませんが、値上がり具合を見ると並みの株や債権よりよほど優良な資産なのかも...。

昔、池袋の東武でも展示されたことがあるみたいなことが書いてあったので近所に住んでる私もちょっとだけ身近に感じました。。
2014-06-18 Wed 19:41 | URL | 緑色の切符 #eQhucDEg[ 内容変更] | ∧top | under∨
・緑色の切符様
 実際に見に行った人の話によれば、日本での展示は、遠く離れたところに金庫が置いてあって、その暗闇の中にぽつんと置いてあるだけで、ほとんど識別できなかったとのことです。まぁ、日本での公開というのは無理かもしれませんが、どこかの国際展で公開されるのであれば、その時はぜひとも拝みに行きたいですね。
2014-06-27 Fri 23:59 | URL |  内藤陽介 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
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