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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 泰国郵便学(25)
2013-05-14 Tue 11:42
 ご報告が遅くなりましたが、財団法人・日本タイ協会発行の『タイ国情報』第47巻第2号ができあがりました。僕の連載「泰国郵便学」では、今回は1963年末に発足したタノーム政権初期の状況について取り上げました。その中から、きょうはこの切手をご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)

      タイ・国際文通週間(1964)     タイ・国際文通週間(1964・部分拡大)

 これは、1964年10月5日に発行された国際文通週間の切手のうち、世界地図を背景に手紙を運ぶ鳩から手紙を受け取る手をデザインした50サタン切手(1サタンは100分の1バーツ)で、手紙を受け取る手には、日章旗を含む各国の国旗がデザインされています。右側には、わかりやすいように、その手の部分を拡大してみました。ちなみに、外国の国旗がタイの切手に取り上げられたのは、これが最初です。

 切手に国旗が取り上げられている国は、基本的にはタイの友好国ですが、人差し指の先に国旗が描かれているチュニジアとタイの国交が樹立されるのは1967年2月2日のことで、切手が発行された1964年の時点では両国間に正規の国交はありません。また、デザイン上の都合からか、一部、実際には存在しない架空の国の“国旗”も入っているのがおもしろいところです。

 とはいえ、我々として注目したいのは、やはり、手首の部分、星条旗の隣に大きく描かれている日章旗でしょう。

 この時期、タイと日本の関係は、いわゆる特別円問題が解決したこともあって、きわめて良好でした。

 特別円というのは、大東亜戦争中、日本軍が軍費その他の費用を支払うためにタイで発行した通貨で、終戦時には15億円が日本側の債務として15億円残っていました。戦後、これをいくらに換算するかが日タイ両国の間の懸案事項となり、1955年7月9日に調印された「特別円問題の解決に関する日本国とタイとの間の協定(日タイ特別円協定)」では、債務総額を150億円としたうえで、このうちの54億円相当を5年分割でスターリング・ポンドの現金で支払い、96億円相当を投資および経済協力の供与で支払うことでいったんは解決したはずでした。ところが、現金での支払いの終了が近づくにつれ、96億円の経済協力は無償供与であるとタイ側が主張して対立が生じることになります。

 このため、1961年に池田(勇人首相)・サリット会談が行われ、日タイの友好と貿易の促進という太局的見地から、日本側は96億円相当を8年分割で無償供与するものの、タイ側はそれを日本企業への事業の発注や商品の購入などに充てるということで合意が成立。翌1962年1月、「特別円問題の解決に関する日本国とタイとの間の協定にある規定に代わる協定」が調印され、特別円問題はようやく決着し、日本企業のタイ進出が促進されることになりました。

 特別円問題の解決を受けて、1963年6月4日、国王ラーマ9世ご夫妻が日本を公式訪問。国王のご内意により、タイ政府の関係者が靖国神社を代理参拝したほか、タイ海軍の練習艦隊乗組員(士官候補生)による靖国神社への正式参拝も行われています。

 この時の国王訪日の答礼として、1964年12月、昭和天皇の名代として皇太子明仁親王(今上陛下)ご夫妻がタイを公式訪問。その際、明仁親王は魚の養殖研究施設を視察したが、魚類の研究を生物学者としての立場から、国王と会食の際、養殖にはアフリカ・ナイル川原産のティラピア・ニラティカスという種がより効果的であるとの意見を述べられました。そればかりか、帰国後、東宮御所の池でティラピアの稚魚を養殖し、翌年、その内の50匹を国王に寄贈しておられます。

 その後、国王は寄贈を受けたティラピアをチットラッダー宮殿内の池で飼育。短期間のうちに稚魚は大繁殖し、1万匹もの稚魚がタイ全国の養殖場に運ばれました。この結果、ティラピア・ニラティカスはタイを代表する魚にまで浸透し、国民の栄養状態も改善。ティラピア・ニラティカスには、華僑により“仁魚”という漢字があてられ、タイ語でも“プラー・ニン”と呼ばれるようになりました。ちなみに、“仁魚”の“仁”は明仁の名に由来するもので、“ニン魚”を意味するタイ語の“プラー・ニン”の“ニン”も仁の字に由来しています。

 いずれにせよ、1964年10月に発行された国際文通週間の切手に、日章旗が取り上げられている背景には、こうした対日関係ないしは対日感情の好転があったことは間違いのないところといえそうです。

 なお、今回の記事では、このほか、タイ・シルクを使った“ナショナル・コステューム”の制定と定着についても、シリキット王妃を描く切手などを題材にご紹介しております。機会がありましたら、ぜひご紹介いただけると幸いです。


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