今日(2月20日)は、1607年のこの日に、出雲の阿国が江戸城で将軍・諸大名の前で初めて歌舞伎踊りを披露したことにちなんで、歌舞伎の日なのだそうです。
というわけで、今日はこの1枚をご紹介しましょう。
この切手は、1970年に「古典芸能シリーズ」の1枚として発行されたもので、取り上げられているのは、いわずと知れた“助六”です。
さて、この助六なのですが、日本の切手印刷の歴史のうえでは“ドライ・オフセット”とい印刷方法が用いられた最初の1枚というわけで、注目しないわけには行きません。
切手に限らず、印刷物の版式は大きく分けて凸版(印刷する部分が反面から飛び出ている)・凹版(印刷する部分が凹んでいる)・平版(反面に凹凸はない)に大別されます。ちなみに、いわゆるグラビアは、単純化していうと、網目をかけて印刷効果を出した凹版の一種です。
さて、このうちの平版は、基本的には油が水をはじく性質を利用して印刷する部分にだけインクがつくようにしたものなのですが、版を直接紙に押し付けていては、版そのものが長持ちしません。そこで、紙が版に直接触れないように、ゴムの円筒を版の上に転がして円筒にインクを付けた上で、円筒から紙に印刷するという方式が考えられるようになりました。これが、オフセットといわれているものです。
オフセットの場合、元になる版は凸版でも凹版でも構わないのですが、このうち、凸版をもとの版に用いたものを日本語では“ドライ・オフセット”と呼んでいます。
わざわざ“ドライ”という形容詞が付けられているのは、通常の平版オフセットの場合、油が水をはじく性質を利用するため、もとの版にはリン酸の水溶液をつけてから印刷インクを塗るので版面が濡れている(=ウェット)であるのに対して、元の版が凸版であれば、そのままゴムの円筒に転写できますので版面も“ドライ(=濡れていない)”ということになるわけです。
グラビアが網目を使う関係上、細い線を再現しようとするとどうしてもかすれた感じになってしまうのに対して、ドライオフセットでは線をそのままシャープに再現できますので、切手の印刷などにとっては好都合というわけです。
さて、2001年から刊行を続けている記念切手の“読む事典”、<解説・戦後記念切手>ですが、現在、シリーズ第4作の『一億総切手狂の時代 昭和元禄切手絵巻 1966-1971』を4月上旬に刊行すべく、鋭意準備を進めているところです。今回ご紹介した助六の切手についても、印刷技術の話だけでなく、さまざまなエピソードを盛り込んでいますので、刊行の暁には、是非、お手にとってご覧いただけると幸いです。