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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 大統領のお辞儀
2009-11-16 Mon 17:03
 先日来日したアメリカのオバマ大統領が14日に皇居で行われた午餐会の際、両陛下に“深々としたお辞儀”をしたことが、アメリカ国内で問題視されているそうです。というわけで、オバマのお辞儀写真と比較すべく、こんな切手を持ってきてみました。

 韓米防衛協定   オバマのお辞儀
 
 この切手は、1954年12月25日に韓国で発行された「韓米防衛協定」の記念切手で、両国旗を背景に、当時の両国大統領(李承晩とアイゼンハワー)が握手する場面が取り上げられています。これを見ると、両大統領ともに胸を張っており、お辞儀風の姿勢にはなっていません。アメリカでは、「大統領は外交儀典上、外国元首に一切お辞儀してはならない」との規定があり、これに従うと、アイゼンハワーの姿勢が正しいということになりますし、そうあるべきと考えている人たちからすると、APが配信した右側の写真のオバマの“お辞儀”には違和感があるのでしょうな。

 さて、今回ご紹介の切手の題材となった“韓米防衛協定”についても少し説明しておきましょう。

 朝鮮戦争の休戦協定が調印されたのは1953年7月のことでしたが、休戦後の韓国の安全保障の枠組を規定した米韓相互防衛条約は、休戦直前の5月末から交渉が開始され、休戦後の10月1日、ワシントンで調印されました。なお、条約がそれぞれの国内での手続き等を経て正式に発効したのは、翌1954年11月17日のことです。同条約は、基本的には、休戦体制を補完する色彩の濃いものだが、1951年に締結された日米安保条約(旧条約)とともに、その後のアメリカの太平洋戦略の根幹をなすものとなっていきます。

 当時の韓国側は、条約によって韓国内に駐留する米軍は、いわば“人質”としてきた朝鮮に対する抑止力として機能することを期待していました。特に、休戦ラインから20キロの地点にある京畿道東豆川の米陸軍第2師団は、北朝鮮の攻撃で最初に被害を受ける場所であることから「北朝鮮の南侵=米軍自動介入」の象徴として韓国で受け止められています。

 その一方で、当時のアメリカ側は、休戦協定に強硬に反対してきた李承晩政権が、今度は北進して北朝鮮と再び戦火を交えることになるのではないかとの危惧を捨てきれずにいました。すなわち、同条約の第一条は、「締約国は、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によって、国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、国際連合の目的又は締約国が国際連合に対して負っている義務と両立しないいかなる方法によるものも慎むことを約束する」として、韓国に対して休戦協定の遵守をまず義務づけているのです。

 さて、条約が結ばれた当初は北朝鮮による南侵の記憶が生々しかったこともあり、米軍部隊は約20万人の常駐態勢が採られていましたが、1958年、中国軍が北朝鮮からの撤退し、アメリカも韓国に戦術核兵器を導入したことで、駐留兵力は1960年までに約6 万人へと大幅に削減されました。ちなみに、現在の在韓米軍の駐留兵力は、第2歩兵師団、第7空軍などを中心とする約3万5000人となっています。

 ちなみに、今回の切手に取り上げられた握手の写真ですが、条約の調印時に撮影されたものではなく(調印に際して、李承晩は渡米していません)、朝鮮戦争中の1952年に、アイゼンハワーが“次期大統領”として訪韓した際のモノではないかと思われます。

 なお、アイゼンハワーと朝鮮半島とのかかわりについては、拙著『韓国現代史:切手でたどる60年』でもいろいろとご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。


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