2021-11-23 Tue 09:00
きょう(23日)は勤労感謝の日(もともとは収穫を祝い、翌年の豊穣を祈願する新嘗祭の日)です。というわけで、農家の方々に感謝して、農村を題材にした切手の中から、この1枚を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1980年3月21日、親ソ政権時代のアフガニスタンで発行された“農民の日”の切手で、”土地改革で耕作地を与えられて喜ぶ農民たち”が描かれています。 アフガニスタンでは、王制時代の1966年4月、アフガニスタン人民民主党(共産党)が機関紙『ハルク(人民)』において、党の目玉公約として農地改革を主張したことがありました。しかし、アフガニスタンの農村では部族的な結合が強く、族長が部族の土地を管理し、農民に指示を出すという意味での“地主”であるのが一般的でしたから、共産主義者のイメージにあるような、地主から土地を取り上げて貧農に分配するというスタイルの“農地改革”は社会の根幹を否定するものとして、社会の大半に取って受け入れがたいものでした。もちろん、アフガニスタン政府も農地改革には反対の立場で、『ハルク』は六週間で発禁処分になりますが、ヌール・ムハンマド・タラキーら党指導部は農地改革の要求を撤回しませんでした。 1978年4月27日、人民民主党による“4月革命”が発生。同党中央委員会書記長のヌール・ムハンマド・タラキーは国家元首である革命評議会議長兼首相に就任し、5月6日、革命政権として”土地改革”を実施する方針を明らかにします。この方針は、同年12月2日、革命評議会布告第8号により「封建的土地所有を解体する土地改革」として実施されました。 布告第8号の土地改革では、耕地としての価値を7等級に分類したうえ、等級ごとに所有面積の上限を設け、その限度枠を越えた土地は無償で没収のうえ農民に無償で分配するというもので、1979年1月の制度実施から4月までの間に、13万2264家族に対して、26万866.4ヘクタールの土地が分配されました。今回ご紹介の切手はその”成果”をアピールするために発行されたもので、「民主的な土地改革は封建主義を根絶した」との文言が入っています。 土地改革の実施に際して、政府は部族の反対を抑え込むため、現地に軍隊を派遣しただけでなく、土地を分配されることになる貧農に武器を配ることで部族を基本とする農村社会の分断を扇動しましたが、こうした施策に対する一般国民の反発も強く、各地でムジャーヒディーン(イスラム戦士)らによる反政府暴動が頻発しました。 ところで、タラキー政権の後ろ盾と目されていたソ連にとって、アフガニスタンは国境を接する隣国として安定した親ソ政権となっていることが重要であって、その担い手が国王であろうと、4月革命で打倒されたムハンマド・ダーウード(前大統領)であろうと、人民民主党であろうと、そのこと自体は二次的なことでしかありませんでした。したがって、ソ連が極秘裏に支援してきたタラキー以下、人民民主党が政権を獲得したこと自体は歓迎すべきことであるにせよ、彼らの存在がアフガニスタンの不安定要因になるのであれば、それはまさしく本末転倒です。 また、人民民主党政権が発足した1978年4月は、1979年2月のイラン革命を前に隣国イランの情勢が緊迫していたこともあり、ソ連としては、ともかくもアフガニスタンの情勢が安定することを望んでいましたが、事態は彼らの希望とは正反対の方向に進み、人民民主党は激しい党内抗争を始め、タラキーらハルク派は反対派であるパルチャム派の粛清に血道をあげていました。 このため、ソ連の対外諜報の責任者、ウラジーミル・クリュチコフKGB第一総局長がタラキーを含むハルク派の幹部と接触し、アフガニスタンの安定化に向けて介入し、1978年12月5日、ソ連・アフガニスタン友好善隣協力条約が調印されます。 同条約は期限20年で、アフガニスタンの非同盟の立場を容認(第5条)する一方、「両締約国は国連憲章とともに、友好善隣の伝統の精神に基づき、両国の安全、独立、領土保全、主権の確保のため、協定により相互に協議し、妥当な措置を取る。両締約国の防衛力強化のため、双方によって締結される適切な協定を基礎に、軍事面での協力を発展させる」(第4条)、「双方は相手国に向けられたいかなる軍事同盟、国家の集団行動、措置にも参加しない」(第6条)と規定することで、後にソ連の軍事介入を正当化する根拠となりました。 一方、人民民主党政権の内部では、ハルク派がパルチャム派を粛清して主導権を握った後、今度は、ハルク派内の主導権をめぐってタラキーと左翼最強硬派のハフィーズッラー・アミーンの熾烈な権力闘争が展開され、1979年3月27日、アミーンが副首相から首相に昇格し、タラキーを首相から解任され、象徴的な地位としての革命評議会議長に留まるのみとなりました。 ソ連はアミーンの能力を評価していませんでしたが、ともかくも、権力闘争が一段落してアミーンに権力が一本化されたことで、アフガニスタン情勢が安定することを期待し、アフガニスタンへの支援を拡大。しかし、アミーン政権はより一層の社会主義的政策を強行して国民のさらなる反発を招き、ムジャーヒディーンらによる反政府闘争もますます激化しました。 混乱を収拾できないアミーンに苛立ったソ連は、アフガニスタン政府に圧力をかけ、タラキーを復権させて政府軍最高司令官に、アミーンは首相の地位に留まるものの外相の兼任を解いて、副首相を新設して外相との兼任でシャー・ワリーを任命する内閣改造を行わせて体制の立て直しを図ります。 ソ連の後押しで復権した復権したタラキーは、1979年9月、アミーンの逮捕・殺害を計画しますが、これを辛くも逃れたアミーンは、逆に、政府軍を動員してタラキーを拘束。タラキーを政府・党における善役職から解任したうえ、10月8日にタラキーを殺害したうえで、同10日、彼の“病死”を発表しました。 タラキーによる自身の暗殺未遂事件はソ連が黒幕になっていると理解したアミーンは、タラキーを排除した後、ソ連とは距離を置く“均衡外交”を志向し、10月19日には経済支援を求めて米国に接触。こうした権力中枢部での政変劇の間も、ムジャーヒディーン勢力の攻勢はまずます激しくなり、12月初めには、アフガニスタン難民も急増します。 こうなってくると、アフガニスタンに“安定的な親ソ政権”を樹立することを求めていたソ連にとって、独断的な急進改革を強行して国内を大混乱に陥れながら、ソ連からの自立志向を強めていたアミーンの存在は、もはや害悪でしかありません。 そこで、11月以降、ソ連はアミーンの排除を検討するようになり、ハルク派との権力闘争に敗れて亡命生活を送っていたバブラク・カールマルらパルチャム派幹部をモスクワに呼び寄せるとともに、友好善隣協力条約を根拠として、アフガニスタンへの軍事介入を計画。12月27日、「アミーン政権の腐敗と統治能力の欠如」、「1978年12月のソ連・アフガニスタン友好善隣協力条約に基づくカールマルの軍事援助要請」を主な理由として、アフガニスタンへの侵攻を開始しました。 これにより、アミーンは殺害され、ソ連の手引きによりカールマルが革命評議会議長(国家元首)兼人民民主党中央委員会書記長に就任。カールマルはソ連の傀儡として、1986年まで政権を維持することになります。 ちなみに、今回ご紹介の切手はアミーン時代に準備されていたものですが、実際の発行は、カールマル政権の発足後のことです。カールマル政権は、発足当初から、アミーン時代の混乱の要因のひとつであった土地改革の抜本的な見直しに着手しており、1981年9月7日の革命評議会布告第八号(土地改革令)の改正令でモスクや部族長など“(アミーンの認定による)封建地主”の土地所有制限を大幅に緩和されることになります。 さて、現在、12月下旬を目標に、『アフガニスタン現代史(仮)』と題する書籍を刊行すべく、作業を進めています。今後、正式なタイトルや発売日、販売価格などの詳細が決まりましたら、このブログでもご案内いたしますので、よろしくお願いします。 * 昨日(22日)の文化放送「おはよう寺ちゃん」の僕の出番は、無事、終了いたしました。リスナーの皆様には、この場をお借りして御礼申し上げます。次回は来週月曜日・29日に登場の予定です。引き続きよろしくお付き合いください。 ★ 放送出演・講演・講座などのご案内★ 11月29日(月) 05:00~ おはよう寺ちゃん 文化放送の「おはよう寺ちゃん」に内藤がコメンテーターとして出演の予定です。番組は早朝5時から9時までの長時間放送ですが、僕の出番は07:48からになります。皆様、よろしくお願いします。 武蔵野大学のWeb講座 2021年12月1日~2022年2月8日 「日本の歴史を学びなおす― 近現代編その1 ― 黒船来航」 12月1日から2月8日まで、計7.5時間(30分×15回)の講座です、お申し込みなどの詳細は、こちらをご覧ください。 ★ 『切手でたどる郵便創業150年の歴史 vol.2 戦後編』 11月20日刊行! ★ 2530円(本体2300円+税) 明治4年3月1日(1871年4月20日)にわが国の近代郵便が創業され、日本最初の切手が発行されて以来、150年間の歴史を豊富な図版とともにたどる3巻シリーズの第2巻。まずは、1945年の第二次大戦終戦までの時代を扱った第1巻に続き、第二次大戦後の1946年から昭和末の1989年までを扱っています。なお、2022年3月刊行予定の第3巻では平成以降の時代を取り扱う予定です。 * ご予約・ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、本書の目次をご覧いただけるほか、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 ★★ 書籍無料ダウンロードを装った違法サイトにご注意ください!★★ 最近、拙著『切手でたどる郵便創業150年の歴史』をPDF化して、無料でダウンロードできるかのように装い、クレジットカード情報を盗み取ろうとする違法サイトの存在が確認されました。 この種のサイトは多種多様な出版物を無許可で取り扱っているものと思われます。 内藤および拙著の出版元・販売元ではこのような行為は一切認めておらず、フィッシング詐欺等に巻き込まれる可能性もありますので十分ご注意ください。 |
| 郵便学者・内藤陽介のブログ |
|