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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 きものの日
2021-11-15 Mon 00:29
 きょう(15日)は、全日本きもの振興会が1966年に制定した“きものの日”です。というわけで、和服姿の女性を描いた切手の中から、こんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      見返り美人シート

 これは、1948年11月29日に発行された切手趣味週間の切手(見返り美人)の5面シートです。

 切手趣味週間は切手収集のプロモーションとして1947年に第1回が開催され、北斎の「山下白雨」を取り上げた当時の1円切手を5枚収めた記念の小型シートが発行されました。第2回にあたる1948年の趣味週間には、当初、三角形の特殊切手を発行する計画もありましたが、この企画は印刷局での目打作業が不可能であるとして早々に撤回されています。

 その後、取引高税(売上税)用の一万円印紙(横長)の穿孔機が切手用にも使用できることが判明したため、このサイズ(縦長もしくは横長で68ミリ×30ミリ)の切手に適した図案が選ばれ、かねてから要望のあった浮世絵の中から「見返り美人」に白羽の矢が立てられました。なお、今回ご紹介の画像をご覧いただけばお分かりのように、1シートが5面という構成も取引高税印紙と同じフォーマットです。

 さて、「見返り美人」の作者、菱川師宣は浮世絵の祖とも言われていますが、もともとは絵師ではなく、刺繍と金銀の箔で布地に装飾を施す“縫箔師”でした。その経験を生かして、彼が描いた江戸の女性は、榎本其角が編んだ俳諧集『虚栗』で服部嵐雪が「菱川やうの吾妻俤」と詠むほど持てはやされました。

 嵐雪のこの句は其角の発した「山城の吉弥結びに松もこそ」に応じたものですが、ここでいう吉弥結びは、延宝年間(1673-81)、女形の人気役者・初代上村吉が考案した帯の結び方のことです。1丈2尺の帯を後ろで片結びにするもので、結び目の両端を犬の耳のように垂らしたスタイルは、それまで6尺5寸の規格品しかなく、ただ横に結ぶだけだった女帯のスタイルに革命をもたらしました。

 今回ご紹介の切手に取り上げられた「見返り美人」では、この吉弥結びを中心に、娘の着物が細かく描かれている点が特に注目されます。

 すなわち、単色刷りの切手ではわかりにくいのですが、娘の振袖は緋色に花の地文を織りだした綸子に、桜と菊の花丸模様を刺繍で表わしたもので、大型の桜と菊の花丸模様は貞享年間(1684-87)に流行したデザインです。桜の花丸は、金糸による大桜を中心に浅葱と小桜を周囲に配し、菊の花丸は金糸縫いの菊花を巡らせた中央を鹿の子絞りで埋めており、まさに、縫箔師としてスタートした師宣ならではの緻密な描写といえましょう。

 ちなみに、「見返り美人」という絵の題名は明治以降の命名で、原題は不明です。そこで、あらためて近衛を見直してみると、着物の部分に比べて、娘の顔の描き方は至極淡白で、師宣の意識ではこの作品の主役は“美人”ではなく、着物と帯だったのではないかと思われます。娘を正面からではなく、歩きながら振り返って後方に視線を送る姿で描いているのも、着物と帯の美しさを強調するための演出だと考えると合点がいくのですが、いかがでしょうか。

 なお、「月に雁」と並んで戦後記念切手の両横綱の一方とされる「見返り美人」については、拙著『切手でたどる郵便創業150年の歴史 vol.2 戦後編』の表紙でも取り上げているほか、その背景などもご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。

 * 昨日(14日)、アクセスカウンターが243万PVを超えました。いつも閲覧していただいている皆様には、あらためてお礼申し上げます。


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 11月15日(月) 05:00~  おはよう寺ちゃん
 文化放送の「おはよう寺ちゃん」に内藤がコメンテーターとして出演の予定です。番組は早朝5時から9時までの長時間放送ですが、僕の出番は07:48からになります。皆様、よろしくお願いします。

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