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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 出来レースの選挙
2007-12-19 Wed 12:12
 韓国では、今日(12月19日)、大統領選挙の投開票が行われます。というわけで、韓国の大統領がらみのネタのなかから、こんなモノを持ってきてみました。(画像はクリックで拡大されます)

韓国・初代大統領就任

 これは、大韓民国成立直前の1948年8月5日にアメリカ軍政下の南朝鮮で発行された“初代大統領就任”の記念切手の初日カバー(新切手を封筒に貼って、発行初日の消印を押したもの)で、韓服姿の李承晩が描かれています。

 1948年7月17日、大韓民国の樹立を間近に控えたアメリカ軍政下の南朝鮮で公布された憲法(第一共和国憲法ともいう)では、大統領の下に国務総理を置き、大統領は国会議員の間接選挙で選ぶことになっていました。

 当時の国会(憲法草案の審議が最大の議題だったため、制憲国会と呼ばれる)では、李承晩系の大韓独立促成国民会が53議席で第1党となっていましたが、これは全198議席のうちの4分の1しかありません。このため、大統領を目指していた李は多数派工作を開始し、第2党の韓国民主党(韓民党)と連携。7月20日、念願の初代大統領に選出されました。

 李承晩は、1875年3月、現在は北朝鮮の支配下にある黄海道平山郡の李朝の王室ともつながる名家に生まれました。戦前は、主として、ハワイ、アメリカで独立運動家として活動し、日中戦争期のアメリカの対中支援政策と絡めて、朝鮮独立に対する支援を訴えています。特に、1941年3月に発表された著書『私の日本観(原題はJapan inside out: the challenge of today)』は、同年末に太平洋戦争が勃発したことでいちやく脚光を浴び、李は自称「大韓民国臨時政府・大統領」の肩書をもって、日本の“極悪非道ぶり”を宣伝しながら朝鮮の独立を訴える積極的なロビー活動を展開していました。

 解放後の1945年10月、李はアメリカ軍政下の南朝鮮に帰国。1946年5月に米ソ共同委員会が無期休会となった時点では、南朝鮮代表民主議院(米軍政庁の諮問機関)の議長として、東西冷戦という国際環境を睨みつつ、アメリカとのパイプを最大限に活用し、政治権力を拡大していきました。

 このように、李承晩は、長年にわたってアメリカを拠点に独立運動を展開してきたというキャリアゆえに国際的な知名度を獲得し、国内では米本国が最も支持する政治家との印象を植え付けることで権力を掌握したこともあって、現在残されている彼の写真は、伝統的な韓服姿ではなく、背広姿のもの圧倒的多数を占めています。

 しかし、彼の権力基盤であったアメリカとの関係は、民族独立を果した新国家の長としては、“事大(韓国・朝鮮の政治的文脈では大国追従の意味を持つ)主義”とのマイナス・イメージとも重なり合う危険性もありました。このため、李は、切手の肖像を伝統的な韓服姿とすることによって、李朝の王室とも血縁関係にある名家出身の民族主義者という自己演出を企図したのではないかと考えられます。(ちなみに、大韓民国政府術の記念式典でも、李は韓服を着ています)

 ところで、今回ご紹介の切手は1948年8月5日の発行です。大統領就任式は7月24日でしたから、切手の発行はそれからわずか12日後ということになります。仮に国会での間接選挙が行われた7月20日から数えたとしてもわずか半月後のことで、おそらく、デザインの大半を事前に準備しておき、実際に大統領に選出されるのを確認してから、日付のみを加えて印刷に回すという方式を採ったのではないかと思います。まぁ、このときの選挙が出来レースみたいなものだったからこそ、可能だったんでしょう。

 さて、今回の大統領選挙では、野党の李明博が圧倒的に優勢で、日本のテレビだったら開票即当確という報道になる状況のようです。まぁ、最初から結果がわかっているようなものなのとはいえ、いわゆる八百長的な色彩はなさそうですから、これを“出来レース”といってしまうのは李明博に気の毒でしょう。ただ、年明けの就任式にあたって発行されるであろう“新大統領就任記念”の記念切手に関しては、韓国郵政は李の当選は堅いと見て、すでに制作作業が始められているかもしれませんけどね。
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